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『才能がないと絶望したら』

けいこさんの仕事部屋に、午後の光が優しく差し込んでいます。

アシスタントの点子さんは、

いつものように不機嫌そうな顔で机に向かっています。


まん丸メガネで、お団子ヘアの点子さんは、時々、

「むむむむむ……」と、うめき、腕を止めてしまいます。

「点子ちゃん、どうしたの?」けいこさんが声をかけると、


点子さんは蚊が消え入るような声で、

「……けいこ先生、私、落ちこぼれになりそうです。

同期の人たちみたいに才能もないし、

いくら努力しても、デビューできそうにもありません。」


「点子ちゃん、才能がないなんて、決めつけるの、まだ早いわ」

「けいこ先生は、すごい才能があるから、そんなこと言えるんです。

けっきょく、漫画界は、才能の勝負ですよ。

できるものなら、けいこ先生の才能の、

ほんのひとかけらでもいいから欲しいです。」

「そこまで、悩んでいるのね……。」


けいこさんは、少し考えてから、こう切り出しました。

「点子ちゃん、あなたの悩みを解決してくれるかもしれない、

ちょっと不思議な人を紹介するわ」

「霊能者ですか?!」


「ううん、4歳の男の子なの。」

「なんだ〜っ、幼児ですかあ。」


「でも、特別な人だけにしか見えない、不思議な子なの。

実は、ここで一緒に暮らしているの。」


「わかった!座敷童子ですね!」


「ま、似たようなものかも。」


「先生、私、霊能体質なんです!だから、絶対、見えると思います!」


「ふみおちゃ〜ん、出てきてちょうだ〜い。」


「は〜い、おねえさん」

けいこさんの膝の上に、ちょこんと座った、
ふみおくんが姿を現しました。


「ひえ〜っ!座敷童さま!」

点子さんは、ブルブルふるえながら、土下座しました。


「はじめまして点子さん。ぼく、ふみおです」

ふみおくんは、
キラキラした星屑のオーラにつつまれています。

「ふ、ふみお様、点子と申します。お初にお目にかかります。」


けいこさんが小声で、

「点子ちゃん、このことは絶対に内緒よ。

ふみおくんの正体は秘密なの。」


「も、もちろんです先生。

この秘密は、100叩きにされても口を割りません。

妖怪さんを敵に回すほうが、恐ろしいです。」

「ちょっと、一息入れて、お茶にしましょうか。」と、けいこさん。

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

しばらく雑談をすると、けいこさんがふみおくんに相談を持ちかけます。


ふみおくんは、小さなお手手をテーブルの上にそろえ、

点子さんに顔を向けて、こう言いました。


「点子おねえさんは、才能がないって、
 ガッカリしているんだね。」


点子さんは、うつむきながら、うなずきます。

手にしたカップのコーヒーに、涙が落ち、小さな波紋をつくります。


「あのね、点子おねえさんには

素晴らしい才能があるの。」


「えっ!本当ですか?信じられません。

無責任なこと言わないでくださいよ。

失礼ですが、もしかしたら、そこら辺の、ただのお子さんでは……」

と、きつい目で、にらみました。


「じゃあ、これなら、ど〜お。」

ふみおくんが、ふわっと空中に浮き上がりました。


「し!失礼しました!信じます。信じます。
 ふみおさま、信じます〜っ!」


「よかったあ。それでね、ぼく、点子おねえさんの、

才能がいっぱい詰まっている、

魔法の壺が埋まっている場所も知っているの。」


「えーっ!うれしい。涙が出ちゃう。

その場所、ぜひ教えていただけないでしょうか。」


「でもね、ぼくに聞いちゃうと、ズルになって、そのとたんに、

壺は消えちゃうの。」


「え〜、そんな〜。」


「あのね〜、だれでも、自分の壺は自分にしか掘れないの。」


けいこさんが、手を、点子さんの肩にそっとかけ、こう言いました。

「できるものなら、点子ちゃんに、私の壺を見せてあげたいわ。」

ふみおくんが、頭をふります。

「そうよね、ふみおちゃん。それも、神様ルールで、違反なのよね。」

「そうなの、おねえさん。

ほかの人の壺を欲しがるのは、いちばんのルール違反なの。」


「すっく!」

と言いながら、

突然点子さんが立ち上がりました。


「ふみおさま、わかりました〜っ!」

そして、目を輝かせながら言いました。

「そういう考え方、すごく新鮮です。

他の人の才能をうらやむんじゃなくて、

自分の壺を掘り起こすことに集中する……。

私、なんだか、できる気がしてきました!

よーし、まずは、自分の可能性を見つけるために、

いろいろ試してみます!」


けいこさんも微笑みながら答えました。

「点子さん、それはとても良い決断だわ。

私も応援するわ。」

「ぼくも、おうえんするね。」

「ふみおさま、けいこ先生、御礼申し上げます。

貴重なお時間を、私のために、ありがとうございました。」

と、深く、お辞儀をしました。

「は〜い。」

「どういたしまして。」と、

けいこさんと、ふみおくん。

点子さんは、新たな気持ちで机に向かいました。

「いったい、私には、どんな才能があるのか、ワクワクしてきたわ!」


⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️


人を羨む気持ちは誰にでもあるものです。

でも、その時間を「自分の魔法の壺」を見つけることに使えば、

もっと充実した日々があなたを待っています。


壺の中には、

あなたにしかない魅力、

あなたにしかない才能が眠っています。


それは、誰かのものを欲しがるよりも、

ずっと価値がある特別な宝物です。

さあ、あなただけの壺を掘り起こす、

冒険を始めてみませんか?

★今日はこんな、ひとかけらをお届けしました。


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