『5歳若返る魔法』
ある日の午後。
けいこさんの目は少し遠くを見ていて、
なんとなく物思いにふけっている様子です。
絵本を読んでいる、ふみおくんに、ふと、こんなことを話し始めました。
「ふみおくん、私、アラフォーになっちゃったの……」
「アラフォーって?」
「40代という意味よ」
「ふ〜ん、おねえさんは、かわいいから、25さいぐらいにしか、見えないです」
「ありがとう、ふみおちゃんは、やさしいわね。
でもね、この歳になると、漫画家として、生活していくのは、とても大変なの。
また人気を取り戻すのは、至難の業だわ。
なにしろ、読者が若返っているから、センスが合わなくなっているの」
「そうなんだあ」
「あと5歳若ければ、なんとかなるのになあって、つい考えちゃうのよ」
〈未来へのジャンプ〉
「あのね、じゃあ、おねえさんに、魔法をプレゼントするね」
「え?」
ふみおくんは、小さな手をひろげて魔法の呪文を唱えました。
「まみむめ魔法〜、おねさんが45さいの、未来へジャ〜ンプ!」
けいこさんが驚いたその瞬間、ふわりと不思議な感覚に包まれました。
そして、意識が薄れていきました。
……
ふと、気がつくと、彼女は45歳の自分になっていました。
「えっ、これが私?45歳になってるの?」
けいこさんは、鏡で、自分の姿を見て、驚きを隠せません。
真っ黒な自慢の髪に、少し白髪がまざっています。
体が40歳のときより、少し重く感じます。
「ふみおくん、ひどい!勝手にこんな魔法かけるなんて」
けいこさんは、明らかに怒っています。
ふみおくんは、静かに微笑んで、こう話しかけます。
「あのね、おねえさん、45さいのじぶんになってみると、
40さいのころのじぶんを、どう感じますか?」
45歳のけいこさんは、その言葉に、ふと考え込みました。
「そうね……。
今こうなってみると、40歳って本当に若かったわ。今よりも、もっと元気で、いろいろやれる時期だったのね。あの時に、いろんな計画を立てて、実行していればよかったわ。そんな、後悔を感じるわ」
ふみおくんは、うれしそうにうなずきました。
「そうだよね、おねえさん。じゃ、今からもういちど、魔法をかけるね」
「えっ!?」
ふみおくんは、再び手をひろげて呪文を唱えます。
「まみむめ魔法〜!40さいのときの、過去へジャンプ!」
けいこさんは、再びふわりと包み込まれるような感覚に。
そして、意識が薄れていきます……。
〈過去へのジャンプ〉
気がつくと、彼女は40歳の自分に戻っていました。
「わぁ、私、戻ってきたわ!40歳に戻ってる!」
けいこさんは、さっきの45歳の自分を思い出し、
とても、ホッとした表情を浮かべました。
「そうだよ、おねえさん。5年前の自分に戻ってきたんだよ。
今の40歳っていうのは、5年先の未来から戻ってきた、
奇跡の時間なんだよ」
「ほんとに、奇跡の時間だわ!
また、40歳を生きられるなんて、素晴らしいわ!
あなたのおかげで、今この瞬間が、
どれだけ特別なものか、気づくことができたわ」
けいこさんは、ふみおくんを抱きしめて、
泣き笑いしながら、こう言いました。
「ありがとう、ふみおくん。大好き!」
ふみおくんは、にこにこしながらこう答えました。
「ぼくも、おねえさんのこと、だいすき。
ねぇねぇ、おねえさん、げんきがでてきて、ピカピカしてるから、
20さいぐらいに見えるよ」
「ふみおちゃんたら、褒めすぎ。
でもすっごく嬉しいわ、ありがとう!
私、今からでも、何だってできるわ!
だって、5歳も若返ったんだもの!」
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
きょうは、こんなひとかけらを、お届けしました。