なぞの霞が関スタイル(とある補助金の事例)
ポストコロナを見据えた受入環境整備促進事業補助金として、「観光地・観光産業における人材不足対策事業」というのが10月末に締め切られました。これが第4次募集とのことで、普通に考えれば、応募が少なく予算が余ってしまうと来年の予算要求が難しくなるので、何とか消化しようと頑張っているように見えてしまいます。
財務省としても、余剰が出れば財政難と訴えている根拠に関わりますので、予算執行率は高いに越したことはない。年度末の道路工事が増える構図と同じような話は観光支援策にも生じています。
なぜこうなのか、ザイム真理教がどうこうという概論ではなく、担当官僚の思考経路は、【スタート】予算が取れる来年度の事業案を出さないと評価がよろしくない→上司に説明しやすく財務省にも了解されやすい事業を考えよう→マスメディアに出回っているキーワードは何か?→「人手不足」→この現象は認識が共有されているので説明が簡単だ→DX とか今風のネタが絡むと格好がイイ記者発表資料が書ける→現場の声を反映する新聞記事とか観光業界幹部の話を盛り込もう!
日本全国を歩いて現場の声を集めて分析せよ、とか無責任なTVキャスターが言いそうな無茶な話はしませんが、官僚たちは業界団体の幹部やコンサルタント経由で”現場”の話を聞く程度のことしか出来ないのが、実相であることは容易に理解いただけると思います。詳しくは知らんけど、大体まあそうなんでしょ程度の理解を得られれば、予算獲得は前進できます。法改正を伴うような大仕掛けならば有識者委員会なるものを立ち上げ、霞が関目線で望ましいメンバーが招集されます。望ましさの基準は、あらかじめ用意してある結論に少々の批判を絡めたうえで賛同してくれること。多少なりとも知名度があれば上々です。財務省やメディアが安心できる名簿の見栄えが大事です。
さて、冒頭の事業ですが、観光振興に関する有識者懇談会なんかでも指摘されたキーワードを活用した理解を得やすいものであることは確かだと思います。問題なのは。事業の枠組み~利用しやすさと効果。
観光地・観光産業における人材不足対策事業 特設Webサイト|観光庁
特設サイトまで用意して現場のお困りを助ける意欲全開!というふうになさっています。補助対象となり得る人手不足解消のためのソリューション例をさまざまなジャンルでご紹介いただいているので、補助事業を利用したら今の状態がどう改善できるかどうか見当が付くという親切設計です。サイト制作はどこかのコンサルタントが請け負ったのだろうと想像できますが、霞が関とて人手不足なので外注は(それなりの費用が掛かったにせよ)まあま仕方ないところでしょう。
官製文章を読むのが面倒な方には、動画解説もありますから気配りも感じられます。
で・・・根本的な疑問点。
この事業は、人手不足に悩む(観光)宿泊業者を支援しようとするものです。「人手が足りない」とは、お客様対応の日常業務に支障が出ている状態なので売り上げは出ているはずです。ならば、金融機関からの借り入れは難しいとは思えません。(それが難しいような経営状態ならば補助金を出しても高確率で無駄になります)融資を受けて資機材を調達し経費として処理すれば済むところ、貰えるかどうかよく分からない補助金申請をして、貰えると決まったら交付申請をして、完了報告をして確認を受け、しばらくしてから交付される訳ですが、交付決定前に契約は出来ないルールで、支払日も政府次第なので資金計画に組み込みにくい。
宿泊事業者の投資に対する減税措置を拡充すれば済む話を、わざわざ面倒にしてコストを増やすのか?これで財源不足とか騒ぐのですから・・・税金を無駄なく使っていると信じられるでしょうか。