「自分の心」という戦場で共に戦う戦友へ
ありきたりな表現だけど、生きることは戦いだ。
周囲と戦うこともあるが、自分自身と戦うことの方が多い。
「ただ生きる」だけでも必死だ。
かつて俺はそんな戦いを一人でしていた。
しかしある日、戦友ができた。しかも女だ。
初めは温厚な優しいやつで和を重んじるタイプかと思ったが、それは大間違いだった。
やつは俺に出会うまでフル装備で孤独に「自分の心」という戦地で戦う女兵士だったのだ。
よく話を聞いてみると格段に自分よりも戦歴が長かった。
そんなわけでいつの間にかお互いの戦歴や戦闘方法などを話し合い、どうすれば戦いやすいか、戦地で生き延びるための装備品はどういったものが良いか、などといつのまにか俺たち2人だけ独自の世界観の中で生きる戦術を試行錯誤して話し合うということが繰り返されることになった。
最初の頃は戦場の恋心なんてことも芽生えてしまったが、やつは俺がそういう考えを持った瞬間に自前の手りゅう弾を投げつけてきやがった。何度か炸裂して俺は瀕死の心の重傷を負った。味方にやられるほどきついことはない。
今も過酷な実地戦を共に生き延びようとしている。
そして偶然やつから戦闘報告があった。
なので報告ミーティングを行うことにした。ただ、俺自身も報告を受け取った瞬間は運が悪く最近では最悪の具合だった。言えるわけがない。
会合を開き、まず報告を聞いた。かなりのダメージを負っていると思われた。本来なら俺がすぐに手当てをしなければならない。しかし弱小男兵士は相反して重傷を負ったやつに倒れこんでしまった。
そんな足手まといにはやつから蹴りの一発でも食らわされるのかと思った。
しかし意外だった。やつはずっと愚痴を言いながらも俺に本当に本当に久しぶりの心の休息の時間を与えてくれた。思考回路も疲れていた俺はそのまま立て直すことが難しくなってしばらくの間やつに自由に甘えてしまった。
ごめん、ありがとう、すまん、助かる、申し訳ない、もうだめだ、俺は疲れた、悪い、と倒れたままやつに頭で思いつくままに小声で言っていた。
やつも気づかずに気楽に報告しに来てみたらこんな傷病兵をわざわざ介抱しなければならくなったので非常に後悔してしまっただろう。もともと孤独に戦っていた女なのでやろうと思えば一人でも戦えるのだ。
ただ、俺はこの時はやつを見た瞬間に泣きそうになってしまった。おそらく少し泣くとそのまま大泣きになってしまうので、女の前で涙なんか見せるかと必死に涙を流すのは我慢した。
なので笑ってごまかそうと思っても、もう手遅れだ。気持ちのダムが決壊して他の色々な感情がだだ漏れになってしまった。
この上なく恥ずかしいところを見られてしまった。俺は報告会をする時はなるべく穏やかな状態を演出する人間だ。今回は兵士失格である、いや人間失格かもしれない。
2人だけの自前の部隊だが、俺は除隊処分になるかもしれない。
「こいつの心は弱すぎて戦闘の邪魔だ」という理由を書かれて判を書類を押されて俺は送り返される可能性が高い。
でも、もしよかったらもう一度チャンスをもらえないだろうか。
最前線から離れた場所にいる軍医に傷を少しでも治してもらって、もう一度「心」という戦場で一緒に戦ってくれないか。頼む。