日本むかしではない話「捨てる神あれば拾う神あり」
人を食ったかのような話です。
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「俺はもう何をやっても駄目だ。。。上手くいかない」
うらびれたアパートの一室。
事業に失敗し、項垂れる若い男の前に、初老の男が降り立って声をかけた。
「世の中、捨てる神あれば拾う神ありじゃよ」
初老の男は僅かに後光を帯び、この世の者ではないかの様に感じられた。
「あなたは、一体…?」男は聞いた。
「捨てる神じゃよ」
「お前が捨てんのかよ。そこは拾う神こいよ」男はがっくりと肩を落とした。
人生の岐路とも言うべきこの時期において、よりにもよって引き寄せたのが、捨てる神なんぞとは。
こりゃいよいよ命運尽きたやもしれねえな。
とは言えこれ以上世間に捨てられてしまってはたまらない。行き着く先は地獄だろう。男は捨てる神を無視する事にした。
暫くするとまた別の紳士がやってきて、男の前に立った。
「あ、あなたこそは!」男は僅かに色めき立った。
「私は鑑賞用の神である」紳士は気品漂う声色で答えた。
男が「は、はあ…」と首を傾げると、紳士は分裂して3人に増え、今度は口々に名乗った。
「私は保存用の神」「私は布教用の神」
「それは単なる金払いの良いオタクじゃないか」
男は再び落胆してしまった。
「どうだい、君も布教用の神を信じてみないか?」
やややっ…布教用の神は、神みずから宗派に引き込んで来るのか。男はあとずさった。
「まあまあ、まず騙されたと思って5巻まで読んでみて、ハマるから」
そう言って布教用の神は分厚い教典を男に次々と押し付け、さっさとどこかに行ってしまった。
次の子羊を探しに行ったのだろう。
男が唖然としている内に、鑑賞用の神はどんどん装飾品やトレーニング用具をかき集め、一回だけあけて放置した。
保存用の神は黙って座り込んだままどんどん巨大化し、男の居住スペースを圧迫していった。
「どうしよう、寝る所がないぞ」男はうろたえた。
さっきまで、何も無い部屋だったのに。いつの間にこんなにモノが増えたと言うのか。
ほんと、いつの間にこんなにモノが。
「わしの出番のようじゃな」どこへ行っていたのか、大量のモノの中から初老の男がひょっこりと顔を出した。
「あ、捨てる神…」
捨てる神は微笑むと、あっと言う間に、若い男の部屋の要らない物を、ひとつ残らずメルカリとジモティーで売り払ってしまった。
「どうじゃ、断捨離すると気持ちが晴れやかじゃろう」
「いや、手段が現代っ子過ぎるだろう」
若い男は色々と突っ込むのが馬鹿らしくなってしまい、
ついには笑ってしまったそうな。
おわり
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ふと思い出したのですが、子供のころ読んだことわざ辞典で、「地獄に仏」の類語に「捨てる神あれば拾う神あり」と載っていました。ニュアンスが違うし宗派も違いますね。でもそんな事お構いなくごちゃ混ぜにしちゃうルーズさが日本語の良い所だと僕は思います。
さて、この記事は、#週1note に参加しています。来週もよろしくお願いします。
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