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仕事を辞めたいと相談を受けた時に思い出す話
仕事とは理不尽のかたまりである
理不尽さを目の前に、人はたびたび挫折する。
そのたび、仕事を続けるか辞めるかの二択を延々迫られる。
30歳を超え、部下も増えてそんな相談を受ける回数も格段に増えた。
その場合、まずはもうちょい頑張ってみよう、と一声。
人生、踏ん張らなきゃいけない場面が何度かある。今がその時じゃない?など、
相談者のモチベーションを上げることに終始することがしばしば。
ただそれはあくまで会社内。
ふと昔を思い出す。
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社会人3年目の冬、昔付き合っていた彼女と地元で偶然出会った。
彼女も年末に帰省していたらしい。彼女は名古屋、俺は東京で就職していた。
彼女は美容師になるという高校生からの夢をかなえていた。
出会った道端で仕事への将来像、今のやりがいなど、色々聞いた。
彼女はどこか疲れていた。
都会で美容師というハードな日々に摩耗していた。
しきりに俺が働いている東京への憧れも口にしていた。
ひとしきり話を聞き終えた俺はちょうど実家に帰ろうとしていた彼女を家まで送った。
高校生の時にさんざん二人で帰った彼女の実家への道を歩いた。
昔話に花が咲いた。
彼女の実家が見えてきた。
ふと彼女が呟いた。
『仕事がつらい。』
ぽつりと本音をこぼした彼女の手は
カラー剤とパーマ液でぼろぼろになっていた。
綺麗に染められた髪、仕立ての良い服に包まれた彼女には似つかわしくもなかった。
沈黙
『仕事、やめてもいいんじゃないかな。』
俺は彼女の手を取ってそう言った。
彼女が辛くなるのを俺は1秒も見たくなかった。
昔のように無邪気に笑っている彼女が見たかった。
彼女の表情が女の子から一人の女性に変わった。
『ううん・・・もうちょっと頑張ってみるね』
人は薄情だ。
人は立場でものを言う。
辛かったら辞めればいい。本当はそう思ってる。
後輩の悩みを聞く時に、いつもこの話を思い出す。
つないだ手を握り返してきた彼女の手を
もう少し長く強く握っていれば、何かが変わっただろうか。
もう一言東京に来ないかと言ったら、何かが変わったのだろうか。
限りなく細く、か弱い糸を手繰り寄せあう
寄り添いながら泡沫の夢を見る俺たちにこの先は無かったと思う。
寝苦しい夜の季節がもうすぐやってくる。
俺はこの夢だけ見ないように願いながら、今日も目をつぶる。