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飛行機に乗ったカタツムリ

 六歳の女の子がどこで手に入れたのか、梨を包む紙を持っている。紙は薄くて艶があり、表面はかなり滑らかにできている。色は、濃いめの緑である。
 女の子は二丁目の、誰もいない公園のブランコに腰を掛け、鼻歌を歌いながら緑色の紙を折り始める。ブランコを揺する回数がしだいに減ってきたのに合わせ、両足をしっかり地面に着けた。立ち上がって右手を高く掲げる。指先に緑の紙飛行機が挟まれている。今まさに、空へ飛び立っていこうとするところだ。
 宙を舞い、公園を一周し、女の子の手が届かない高い木の枝にひっかかって止まる。がっかりした顔つきで女の子は樹上を見上げ、やがてスキップで行ってしまう。
 程なく一陣の風が吹き、飛行機は高い枝からひらひらと落下する。ツツジの植え込みに不時着した。傍らの枝先で朝露と戯れていたカタツムリが、飛行機の背中にうじうじと、はい上がっていく。
 そこへ再び旋風が来る。枝葉を巻き上げるほどの、強いつむじ風だ。カタツムリは紙飛行機に乗って、遠くへ遠くへと飛んでいく。二本の触覚を上下左右に器用に動かし、飛行機を操縦しているのは、もはやあのでれでれとした生き物ではない。飛行機に乗ったこのカタツムリは、自分の行く先を知っているかのようだった。まっしぐらに力強く飛び、女の子のいる次の三丁目の公園へと向かっていくのだった。

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