深夜の声

 時々、日付が変わった頃にベランダへ出る。まるでタバコを吸うように、懐かしい夜気で肺を満たすと心穏やかになれるから。

 眼下の駐車場ではいつものように、母親が4歳前後と思われる娘を遊ばせていた。こんな深夜にと思わなくもないが、どんな事情があるのか知らない他人だから、色眼鏡で見たくはない。ただ、その子がいつも欲しがっては買ってもらえないジュースを、いつか好きなだけ買えるようになってくれたらと願うのみだ。

 母娘おやこが去り、都市まち静寂しじまが降り積もる。星は見えたり見えなかったりする。オレンジ色の提灯行列から響く夜行の音。忘れていた何かを取り戻したような気分になって、私はかつての夢を見る。

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