ツルイの小屋だより②
▪️某月某日
言い忘れていたが、ツルイの小屋は私設図書館の他に、今流行りの「ひとり出版社」も運営している。出版社名は厳奈那堂(ごんななどう)出版という。館主は流行りものにめっぽう弱いのだ。
既刊書籍は、写真集3冊、アートブック1冊、そして展示会図録2冊。図録は小屋ギャラリーで行なった個展をもとにしたものだ。写真集3冊は書籍コードも取得し取次を通じて書店流通もしている、というか「していた」。出版にそこそこ詳しい人ならわかると思うが、ほとんどの新刊書は1年も経てば店頭から完全に消えてしまう。特に趣味性が高い写真集ともなれば大型書店でしか扱ってくれず、売れなければすぐに返品となって出版社に戻ってくる。
というわけで、今、小屋には返品された写真集の在庫が山のようにある。ここだけの話だが、東京のマンション一室にもかなりの在庫が置かれている。
なぜ、2500人の村をテーマとした写真集3冊をそんなに刷ったのか? 疑問に思うだろう。私もそう思う。何より販売価格を安くして手に取りやすくするためだ。といっても個人の財力は限られているので、全部で1500部
を刷り、定価4000円前後となった。写真集としては平均的価格帯だ。しかし、完全にマーケティングを読み間違った。知らない村を撮った写真集に、(当たり前だが)世の中はそれほど反応しなかった。販売実績は惨憺たるもの。新聞数紙には取り上げていただいたが、だからと言って本が動くことはなかった。
つまり本は売れなかった。といって落胆したわけではない。村を少しでも知ってもらい、前途有望な写真家の作品を世に問うことができたのだから、心の底から満足している。
そして、ここからが本題だ。今手元にある写真集はある意味貴重だ。有効利用しない手はない。本というものが、書店で販売するという形態以外にどれだけ可能性を秘めているのか実験してみたい。
まずは宿泊券として利用するアイデア。これはすでに行なっている試みで、ツルイの小屋は泊まれる図書館だが、宿泊代金として写真集購入をお願いしている。考えようによっては、4000円前後の宿泊料を払えば写真集がタダでついてくることを意味している。泊まれる図書館では本がプレゼントされるわけだ。このアイデアでいつかビジネス特許を取ろうと思っている。
次に現在申請中なのが、ふるさと納税の返礼品として流通させる試みだ。説明するまでもないが、ふるさと納税での返礼品はその土地で生産されたもの、というのが前提だ。村を題材にしたこの写真集ほど、返礼品に相応しい商材はないだろう。鶴居村に関心を持っていただいた方に、納税の返礼品として写真集が送られる。ひとり出版社で作った写真集の運命として、これほど理想的なものもないだろう。
期待を裏切って(?)写真集に注文が集中し、在庫が少なくなってきたら、懲りずにまた書籍を作っていきたいと思っている。地域の出版社を応援すると思って、ふるさと納税商品として晴れて認定された暁には、ドシドシ注文くださいませ。