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【プロレス小説】『その男、藤原につき』②

 「あいつ…やっちゃってくれないか」

 同じ頃に"会社"に入った同期で、友人でもあるレフリーのタカハシがそう声を掛けてきたのは、そんないやな空気の中で始まったシリーズが、しばらく経った頃だった。

「使えないくせに、エース外国人みたいな顔してやがる」

 このシリーズには、ディック・マードック、バッドニュース・アレンなどおなじみの常連以外、これといった目玉となる外国人レスラーはいなかった。未知の強豪として呼んだ"ヘラクレス・ローンホーク"という黒人レスラーをエース格にしようと期待して、開幕戦のセミファイナルでシングルマッチが組まれたが…これがとんでもない一杯喰わせ物だったのだ。シリーズが進むたびに試合順は下になり、それでも本人はエース格のつもりで、外国人レスラーの世話係でもあるタカハシも手を焼き、ついに堪忍袋の緒が切れたのだろう。

「"社長"は…何て、言ってんだい」

 そんな選手でも"社長"と対戦する前に潰してしまっては、その価値が下がってしまう。

「"社長"は今…それどころじゃない」

 開幕の日、"社長"と顔を合わせるなり怒鳴られたことを思い出した。

「藤原、お前もか!」 

 何のことかわからぬまま応えることも出来ず、ただ寂しかった。どうやら"会社"に何かが起きている…それが、ここ最近のいやな空気の正体であることが何となくわかってきた。
 開幕直後の田園コロシアム。惨敗に終わった6・2IWGP決勝戦以来復帰したリングで、"社長"は最後に絶叫した。

  てめぇらいいか
  姑息なマネをするな
  片っ端からかかってこい
  全部相手にしてやる
  俺の首をかっ切ってみろ

 あれはただのパフォーマンスなどではなく、今の心情を吐露した、魂の叫びだったのだ。"社長"は、あの輝きゆえ誰も寄せ付けず、誰も近付くことさえ出来ないのだろうか。

 スーパースターの光と影…そして孤独

「次のTVマッチ…たまには"上"でやってみないか」
「…"報酬"ってわけか」
「"社長"が言ったんだ…たまには藤原も使ってやれってな」
「…」
「"社長"を守れるのは、アンタしかいない」

 痛い所を突いてくる。タカハシは口が上手いのだ。

「最近は国際や維新軍…乱入や乱闘みたいな試合ばかりだ」
「…」
「たまにはお客さんに、本物のレスリングをみせてやってくれよ」

 こうして次回のTVマッチのセミファイナルで、木村・藤原VSマードック・アレンの試合が決まった。マードックとアレン…どちらもレスリングが出来る本物のプロレスラーだ。相手にとって不足はない。唯一、不満があるとすればタッグパートナーだけだった…。

『その男、藤原につき』つづく

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