おばあちゃんとの約束【短編】 #6
ここの施設で働いてもう16年目の秋を迎えようとしている時あの女の子が入所してきた
名前は美麗 4歳
暗い表情で上目遣いで一瞬だけ人を見るがあとは一切眼を合わさない
ただの人見知りとは違い
全く人を信用できない目付きには悲しみの感情は無さそうだ
でもここに入所してきた理由を聞けば納得してしまう
小さな村で両親と暮らす美麗
愛情たっぷり注がれ 近所の人達からも
その可愛さと人なつっ子さから誰からも愛されていた
そんな折ある朝起きると突然両親が消えていた
めぼしい物だけ持っての夜逃げだった
幼い美麗は状況が分からなかった ただ出掛けてるだけでもうすぐ帰ってくると思っていた時近所の人が話てるのを聞いてしまった
「なんで夜逃げなんかしたんだろうね 美麗を捨てて」
捨てられた事が分かった時から一切の感情と一緒に声も失くなってしまった
そう美麗はあまりのショックに喋れなくなってしまったのだ
ここの施設にはいろんな場所から様々な理由で30名前後の子供達が暮らしている
親からの虐待、育児放棄、他の施設からの移転、などなどあるが共通して言えることは
親からの愛が薄かったこと
それともう一つ素直さが失くなってしまうこと
ここの子供達と生活して心にある人に対しての恐怖、憎しみ、猜疑心などを取り除いて本来の素直で感情豊かに戻していくのが私の仕事
長くても半年位である程度心を開き始めてくれるけど 美麗は1年半を過ぎてもまだ目すら合わせてくれない
自由時間はいつもの窓からいつもの方向を無表情のまま見ているだけの光景
横で独り言のように「今日は晴れて気持ちいいね」「風がとっても爽やかだね」「飛行機が飛んでるね」と言うのが私の日課というか楽しみ
山岳地帯の山あいに建つ唯一のいい所は
毎日違う風景の絶景が見れること
それを教えてくれたのが美麗だ
ほとんどの子供は人間不振のため
知らない人を怖がって自分の殻にとじ込もってしまう可能性が高いために人里離れたこんな場所に施設がある
そんな施設だが年に一度施設のスタッフ以外の人を招いて子供達と遊んでもらうイベントが冬に入る前にある
少し離れた村から50歳以上の女性を対象に来てもらっている
どんなに優しい男性でも男というだけで怖がってしまう子供達も少なくないのと30代40代だと両親を思い出してしまう可能性があるのでどうしても50歳以上の女性になってしまう
この女性達も自分達の村にはもう子供がいないため毎年このイベントを楽しみにしている
イベント当日の朝
子供達もいつもより早起きしてそわそわしている
村の女性達で作った料理特にデザートが食べられるのと本当に優しく愛情たっぷりの気持ちが子供達にも伝わっているからだ
一つ心配事はやはり美麗だ
美麗にとっては2回目のイベント
これによって少しでも心を開いてくれたらどんなに嬉しいか
でも逆のパターンの事も考えておかなければいけない
合わないと思えば女性を交代してもらうし
そもそも知らない人を嫌がる可能性の方が高いかも
なんて考えてる時門の向こう側からたくさんの荷物を持った女性達が現れた
子供達も整列してお迎えの準備は整っている
女性達も整列して短い挨拶を終え各自遊ぶことに
実は美麗を見てもらう女性は何日か前に村に行きお願いしていた もうこのイベントに20年来てくれてる人で最年長のおばあちゃん
去年は入所して日が経っていなかったため
私が美麗の担当をしていたのだ
「美麗ちゃん 今日はおばあちゃんと一緒に遊ぼうね」と言って美麗の横に座り絵本を読み始めた
絵本だと喋れない美麗は物語を聞いていれば楽しくなるかもしれないので丁度いい
次はお絵かき これも美麗のペースで行えるのだか普段誘ってもやらない
次はいつも見ている窓からの風景
今日は私の代わりにおばあちゃんが横に付いて喋っている
それにしても表情一つ変えないけど嫌がってる様子もないので安心した
お昼ご飯の時間になりみんなでの食事
普段とは違う料理に子供達もよく食べてる
午後はみんなでのレクリエーション
美麗はさすがに嫌がると思いきや
無表情だかおばあちゃんと手を繋いで参加している
楽しい時間が経つのはあっという間
午後4時になりイベントの終了時間
子供達と村の女性達も整列してお礼を言っている
名残惜しそうに女性達は手を振り門に向かう
子供達もお礼やさようならを言いながら手を振っている
女性達が門に差し掛かろうとした時
「おばあちゃ~ん」
とひときわ大きな声がした
おばあちゃんに駆け寄り胸に飛び込んで抱きついて
「おばあちゃんと遊んで楽しかった
来年もおばあちゃんと遊びたい」
シーンと静まりかえった中初めて聞く
美麗の声だった
「美麗ちゃんありがとうね おばあちゃんもたのしかったよ 来年も一緒に遊ぼうね」
「うん、おばあちゃん 約束ね」
とても美しい声と
とても可愛らしい 笑顔だった
ありがとうございました。