貴方のなら 【短編】#5
私は黒島怜菜 企業の研究室が職場で入社4年目の25歳
ここの研究室には私を含め5人でチームを組んでいる
主任研究員の音尾さんは研究以外興味がなく服装などもほぼ毎日同じ物だし髪型は短くさっぱりしてるけどお洒落などとはほど遠い
お昼休みも食事も取らず研究に没頭してる
質問などの問いかけにも「それは…」といったまま返事が返ってこないなんて当たり前
そんな時 横から「黒島さんどうした?」とカバーしてくれる桜井さん
音尾さんの右腕的存在の桜井研究員は
主任の大学からの友達で良きパートナーって所
主任とは真逆でお洒落でイケメンたがけしてチャラくなく仕事もきちんとこなし出来る人って感じ
だから分からない事や報告などのことは桜井さんにしてる
もともと困ってる時に桜井さんから
「何かあったら僕に言ってくれればいいから」
「音尾は一旦ああいうモードに入ると周りが一切見えなくなっちゃうんだ 悪気はないから気にしないで」と言われてホッとしたのを思い出す
12時のチャイムが鳴ったので休憩室に行き作ってきたお弁当を1人で食べる
音尾主任はお昼に食事をしてる所を見たことがなく16時頃思い出したかのようにあんパンをかじる
桜井さんと他の2人は外に食べに行く
最初私も誘われたけど
どうも外食が苦手なのだ
理由は潔癖症
つり革、エレベーターのボタン、便座などはもちろん知らない人が作った食事なども無理
たから面倒くさくてもお弁当を作って食べるしかないんだけど
自分で言うのもおこがましいがどちらかと言えば可愛いくてけっこうモテた
けどこの潔癖症がいつも邪魔をして上手く行かずフラれるのがオチ
克服するためにいろんな事を試したが全部途中で投げ出してしまう 最後までさえもたどり着かない自分に嫌気が挿してきてもうイイやという気持ちになるのがいつものパターンでさらに自己嫌悪が覆い被さってくる
そんな事を考えながら食事をしてると
休憩室に主任が入ってきた
たぶん自販機の缶コーヒーでも買いに来たんだろう
案の定コーヒーを買い窓の外を見ながら考え事
たぶん私の存在すら気付いてないのかもしれない
そう思うとだんだん腹が立ってきので思いきって話し掛けるかとにした
「主任」「…」「主任」「…」
「主に~~~ん」ちらっとこっちを見て
「黒島君どうしたの?」
思わず笑ってしまったあんだけ大きな声で読んであとの返事があっさりしすぎで言い返す気持ちにもならなかった
「何でもないです」自分から読んでおいて失礼なのは分かってるけど没頭し過ぎで私の存在もわからない方が失礼だと変な理由をつけ食事の続きをしようかとしたら主任が私の目の前にコーヒー片手に座りながら「黒島君ゴメン」と謝られたので私も冷静になり「すみません」と頭を下げたら
「自分でもどうしようもないんだ、みんなには悪いと思っていても集中すると周りが見えなくなるんだよ」と真剣に悩んでるとまで付け加えて
主任も私も同じではないけど似たような事で悩んでいるのかと
「あの~ 明日ここで一緒にお昼ご飯食べませんか?」と自分でも訳わからない言葉を発したら次に
「私が明日主任のお弁当作ってくるので食べて下さい。その時は研究の事は考えずに私と世間話をしながらなんてどうですか?」
「いや でも 悪いし…」
「悪くなんてないですからやってみましょうよ」
「……じゃお願いしていいかな」
「分かりました じゃ明日はお昼のチャイムが鳴ったら切りが悪くても研究はやめて下さいね」
主任が「ありがとう」と言って休憩室を出た瞬間後悔した
お弁当を作るのは簡単だけど世間話って主任と何話せばいいか分からない
次の朝私と主任のお弁当を詰めていると
ちょっと可笑しくなってきた
昨日は憂鬱で仕方なかったけど
無理に話さなくてもイイかなと思えてきて
って第一お弁当食べてくれるかも分からないのに
もうすぐお昼のチャイムが鳴る時間だ
主任はどうせ没頭してるから呼びに行かないとと思っていたら「黒島君」と主任に呼ばれはのでビックリしたが「はい?」と言うと
「少し早いけど先に休憩室に行ってます」と
私を含む4人全員が驚きの表情のまま見つめ合った
桜井さんが近づいてきて「何かあったの?」と心配そうに聞かれたので 昨日あった経緯を答えたら
もっと驚いた表情になった桜井さん
この会社に入って12年毎日一緒に働いてるけどお昼ご飯のために時間を作る事なんて初めてだよと
桜井さんが教えてくれた
私もすぐに二人分のお弁当を持って休憩室に向かう
休憩室に入るとペットボトルのお茶が2本置いてあるのに少し驚いた
気まずい中で食べるお弁当はなんとも味気がないが1人で食べてよりはマシかも
しかも働いて初めてちゃんとしたお昼休憩に食べる主任と一緒なんだか笑みが溢れてきた
「黒島君 いただきます」と言ってお弁当箱の蓋を取りながら意識がどこかに行ったので
「主任!」と言ったら珍しくすぐに「ゴメン」と照れながら謝ってきた
「彩りがとても綺麗で美味しそうです」と昨晩覚えた台詞のような棒読みに嬉しくなった
この主任が私のためにいろんな事を覚えてきた感じか可愛くさえ思えたからだ
「ありがとうございます 良く噛んで食べて下さい」
玉子焼きを口に入れた時表情が柔いで
小さな声で「美味しい」と言ってくれたのにも多少なりとも驚かさせた
感想なんて聞けると思って無かったからしかも棒読みじゃなかったのが嬉しい
「黒島君は料理が上手ですね、他のおかずや白米も全て美味しかったです ご馳走様でした」
続けて「中学3年頃からまともに味わってこなかったかもしれません この没頭癖はその辺から出始めて…」頭を掻きながら言う主任はどこか子供っぽく
とても優しい笑顔に「今日一緒に食べてくれて ありがとうございました 明日もお願いします」と付け加えて
何か言っていたが主任の没頭してる姿を真似して聞かない振りをした
それから一週間毎日主任とお弁当を食べた
最初はぎこちない会話も徐々に普通になり
以外と聞き上手な主任によく喋ってる私がいる
それをイイ事にいろんな事を話す様になってきた時勢いで自分の潔癖症の話をしてしまった
そのせいで恋愛が上手くいかない事や
外食も行けない事などを話終えたら
「そうだったんですか」と親身になって聞いてくれる主任がありがたくも少し恋愛感情に似た感覚になっていった
将来自分が好きになった人と一緒に料理をして
好きな人が作ったおにぎりを食べれるようになりたいことなど 誰にも打ち明けたことがないことまで主任に話せるようになっていた
ランチから帰ってきた桜井さんに主任が
「桜井都合のイイ時飲みに行かないか?相談したい事があるんだ」と「じゃ今日行こう」と他の3人はまたまた驚いてるのに対し桜井さんは分かってたかのような感じがした
お弁当を一緒に食べ初めてもう3週間が過ぎた頃桜井さんが主任を見る眼がとても優しいのに気付いた初めてのお使いの我が子を見つめるお母さんの様な見方位優しい
あれから2ヵ月近くたった頃
帰り支度をしている所に主任が
「これよかったら使って下さい」と手渡されたので
「開けてもイイですか?」と聞き「はい」と言ってくれたので開けると
フルーツのイラストが可愛いらしいエプロンだった
こないだエプロンが古くて買い換えようと言ったのを覚えてくれてたみたいだ
小さく「フー」と息を吐いたあと
「それと僕に出来る事があったら言って下さい」と
覚悟を決め手言った感じに
私も小さく「フー」と深呼吸してから
「貴方の握ったおにぎりが食べたい」
と想いをぶつけてみると
「今度 ウチで一緒に料理を作りましょう」と
予想外の返事に思わず 桜井さんを見て微笑んでしまった絶対桜井さんのアドバイスがみえみえ
だって音尾主任が言った台詞
棒読みだったんだもの。
ありがとうございました。