新潟国際アニメーション映画祭
3月17日(金)から22日(水)にかけて行われた第1回新潟国際アニメーション映画祭へ行って来た。
会期が足掛け6日間と長いので開会式&オープニング上映が行われる17日はパスして18日(土)から参加のスケジュールにしたが、今となっては記念すべき映画祭の初日から参加しておけば良かったとも思っている。
そのくらい、この新潟の映画祭は特別なものになった。
誰かが「この大会は伝説になるだろう」と言ったが、その通りだと思う。
ビギナーズラックはあるかもしれないが、それでも良かったと素直に思う。
どなたの発案か知らないが、新潟を開催地に選んだのは正解だったと思う。
平坦な土地、バスがたくさん走っていて移動も楽。
会場が信濃川を挟み、更に新潟駅の向こう側まで入れて8カ所にも渡るのは考えものだが、中心になる新潟市民プラザとクロスパル新潟は徒歩で移動出来る距離。
監督らのトークが行われる信濃川向こうの新潟日報メディアシップのビルも場所を覚えてしまえばバスで1本、簡単に行き来出来る。
問題はそれらが複雑にクロスするスケジュールだが、これは後述。
3月半ばという時期も良かった。
新潟という土地柄、暑くなく寒すぎず。
正直、真夏の広島や、吹雪くこともある11月の新千歳はきつい。
会期中に雨が降った日もあったが、これも土地柄で雪対策のアーケードが完備しているのでしのぎやすい。
唯一の難点は東京のTAAFが直前にあって(今年は3/10~13)同月に両方の参加は経済的に打撃なこと。
務めている人は相当やり繰りをしないと休暇を取るのも3月は厳しいと思う。
でも、それだけの価値は十分にある映画祭だと私は思う。
これも土地柄か、新潟という街自体が魅力的。
不便でなく繁華街すぎず、いい感じに鄙びた部分もあって。
市民プラザ周辺の古町商店街は上映の前後によく歩いたが、とても面白かった。
店が多く何でも揃う。イトーヨーカドーまであって嬉しかった。
信濃川を越えて万代地域まで行けばビルが立ち並ぶ新潟一の繁華街。
新潟市マンガ・アニメ情報館もあって元々こういうものに親しむ土地なのだろう。
漫画家、アニメ関係者も排出している。
映画祭が県出身者の大川博と蕗谷虹児を掲げたのは目の付け所がいい。
両者とも東映動画に繋がり、新潟から日本のアニメの歴史が一望出来る。
食べ物も美味しい。これは言わずもがな。
日本有数の米どころであり、日本海の幸も多い。
人もいい。これは今回の旅で本当に感じた。みんな親切。
タクシーの運転手さん、ホテルのフロント、飲食店、映画祭のバイトの子たちもみんな優しかった。
私は方向音痴でよく道に迷うのだが、バスセンターからの帰りに方角が分からなくなった時も、通行人の女性が見通しのいい場所まで案内してくれて「お気をつけて」と気遣ってくれた。
ツイッターでも地元の人が話しかけてくれて、名所やお勧めのお店を教えてくれたりして嬉しかった。
これは他の映画祭ではついぞ経験していない。
米どころで海の幸にも恵まれ、食べることに満ち足りているから人に優しく出来る心の余裕があるのだろうか。
短い期間なのに行きつけの甘味屋さんが出来て何度か通ったが、お店の人が気さくで、私も映画祭の魅力を大いに語った。新潟の人はこの映画祭を誇っていいですよと。
すぐそばの広場で『平成狸合戦ぽんぽこ』の浪曲をやっていた時など、店の中までびりびり響く音色にお店の人たちが耳を傾けて一緒に楽しんでいる様子がとても良かった。
やはり、こういうものを受け入れる土地柄なのだろう。
映画祭そのものの運営も見事だった。とても初回とは思えない。
指定席制で、入場の中心はQRコードの読み取り式。スムーズだった。
市民プラザではロビーに配布用の資料と閲覧のみの資料がテーブルに並べられていて感心した。最初からこの動線はなかなか取れない。
私の見ていない場所や時間にはトラブルもあったかもしれないが、私の見たところでは全部上手く行っていた。
一番驚いたのは『地球外少年少女』前後編の上映の時。
多数の入場が予想されたのか、開場前にロビーの外に並ばせ、係員の方からQRコードの読み取り器を持って来てどんどんチェックしていった。
プログラムの合間のサイン会の時は10人ずつの列にして、ベルトポールで即席の仕切りを作り、前列がはけると仕切りを外して列ごと横移動。どんどん捌いていった。
いったいどこでこんなノウハウをと驚いた。コミケよりすごいのじゃないか。
昨年夏の某映画祭では誰も仕切ろうとせず(そもそも人手がなかったらしいが)、ホールの前が人でぐちゃぐちゃになっていて、まだコロナ注意の頃だったので当惑した。
あれは初回だから仕方ないと思っていたが、回数ではないのだな。
遅れて入場する人を係員がペンライトで案内したり、終わるとすぐにドアを開けに来て、並んで笑顔で送り出してくれたりの対応もとても初回とは思えなかった。
かつての広島のアニメフェスではいつもこうだったと懐かしく思い出したりもした。
新潟はどなたが現場の指揮を執っておられたのか。とても見事だった。
上映の前に舞台際で監督やスタッフを紹介してくれるのも国際映画祭らしさを上げていた。
ああ、映画祭に来ているなという実感はこういうところから出るものだ。
登壇してスポットライトを当ててくれていたらもっと良かった。
会場そのものはこれは仕方ないのだろうか。
映画の上映専門の会場ではないらしく、どこもスクリーンが小さい。
椅子も背もたれが小さくて長時間の鑑賞にはややつらい。
時には背もたれに体を預けたくなることもあるのだから。
会場が分散しているのも厳しい。
私は余裕のあるスケジュールにしたけれど、本気で観る方は移動が大変だったと思う。
上映と監督たちスタッフのトーク会場が違うのも大変だった。
私は最初から無理せず諦めていたけれど。
会場が分散してしまうと一日の最後に皆で集まるのも難しい。
映画祭の醍醐味は作品鑑賞だけでなく、友人知人と感想を交わすことにもあるのだから。
それからこれはどの映画祭にも付きものだけれど、スケジュールの重なりがきつい。
メインの長編アニメのコンペ上映は何回も組まれていて見やすい方だとは思うが、他のプログラムとの重なりがどうしても出てしまって諦めざるを得ない場合がある。
特に今回はスペシャルなプログラムも多かったので惜しい。
スケジュールといえば、これも難しい注文とは理解しているのだが、やはりもう少し早く全貌を見せて欲しい。
小出しだと結局ぎりぎりまで自分のスケジュールが組めないのだ。
今回は幸か不幸か席に余裕があるプログラムもあったので直前でもチケットを押さえられたけれど、映画祭が浸透してくるとそうはいかなくなるだろう。
チケットも1プログラム1,500円はちょっと高く感じる。
指定席制なので難しいとは思うが、コンペの通し券や回数券が欲しいところ。
今回はクラウドファンディングでチケット5枚のリターンというのがあったけれど、受け取り方法が定かではなくて私はやめてしまった。
定かでないといえば、無料のトークイベントの入場方法が公式サイトをあれこれ見ても分からず、ホールのスタッフの方に尋ねてもやはり分からなかったことがあった。
後で聞いたところでは直前の上映と紐つけられていたそうだが、スケジュール表では別に書かれていたので分からなくて困った。
それでも、広報はとてもよくやっておられたと思う。
中でも、カラーのデイリーペーパーが毎日更新されて配布されたのは驚いた。
これは地元の新潟日報さんの協力によるもの。餅は餅屋。こういう尽力は本当にありがたい。
内容に、数人によるコンペ作品の星取表があったのも面白かった。
押井委員長の「アニメ界に批評がない」との意見の反映かはしらないが、1つの作品に☆1つの人から☆多数の人まで様々で、人間の意見とは多彩なものだと感じ入った。
地元の協力もすごかった。
周辺の商店街にずらりとポスターが並び、大きな看板が立ち、私が宿泊したホテルでは毎日デイリーペーパーが置かれ、ノベルティの紙袋も置かれていた。
これもどなたの発案か、商店街のスタンプラリーは楽しい企画だった。
ラリーといっても2カ所集めれば達成なので楽々。
押井委員長の缶バッジなどもあって、これも楽しかった。
私は缶バッジをバッグに飾って通ったが、映画祭に参加している気分が格段に上がった。
ゲストも豪華だった。
大友克洋監督をはじめ滅多に人前に出ない方々が新潟に集結したのは奇跡的で、これが押井さんが審査委員長を務めて前面に立つ意味かと思った。
他の映画祭ではあまりお会いしないようなマスコミや配給・業界関係者の方々も驚くほど多かった。それだけ注目度の高い映画祭だったのだ。
コンペを中心に作品自体の質も高かった。
どんな映画祭でも最後の決め手は作品だ。これが良ければ多少の失態は多めに見られるし、逆もまた然り。
新潟は見事だった。手法もテーマもルックも対象年齢も実にバラエティに富んでいた。どれも質が高かった。
グランプリは誰もが納得のいく村上春樹原作の海外作品『めくらやなぎと眠る女』に輝いたが、正直どれが獲ってもおかしくないレベルだった。
傾奇賞、境界賞の設定も新潟ならではのユニークさだ。
コンペティションは映画祭の意思の反映だ。どんな作品が上映されるかが問われる。
新潟は「長編アニメーション」というものが持つ可能性を広げたのではないか。
この質が維持されるなら新潟は間違いなく日本一の映画祭になるだろう。
観る側にとっても何をおいても駆けつける、そういう映画祭になるだろう。
問題は集客で、満席のプログラムも多かったが、肝心の長編コンペは内容の充実に見合う入りではなかった。
新潟市をはじめ特別協力に立たれたところには不安もあるだろうが、どうか長い目で見守り後押しして末永く映画祭が続くよう尽力をお願いしたい。
新潟にはそれだけの価値がある。
映画祭を企画し実行し運営した関係者の方々、本当にお疲れ様でした。
一生忘れない映画祭になりました。心から感謝します。
本当にありがとうございました。
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