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東京国際映画祭2024アニメーション部門

第37回東京国際映画祭が10月28日(月)から11月6日(水)の日程で開催された。
前回に引き続き「アニメーション部門」が設けられ、「ビジョンの交差点」と題して多くの作品と企画で賑わった。
アニメーション部門のプログラミング・ディレクターは前回と同じ藤津亮太氏。

国内作品では『きみの色』『数分間のエールを』『クラユカバ』『ルックバック』『窓際のトットちゃん』『化け猫あんずちゃん』『メイクアガール』の7本が上映され、スタッフの登壇トークも催された。いずれもこの年を代表する内容と成り立ちの作品と言える。
海外作品は『ギル』『メモワール・オブ・ア・スネイル』『オリビアと雲』『Flow』『野生の島のロズ』の5本。
このうち『オリビアと雲』はアジアンプレミア、他の4作品はジャパンプレミアとまたとない機会。監督やゲストを招いての登壇トークも設けられ更に貴重な機会となった。
『Flow』がチケット発売時に瞬殺で完売となったのをはじめ観客の注目度も高い、まさに国際映画祭ならではのスペシャルな選定。
作品的にも、セルルックデジタル、ストップモーション、3DCG、技術的ハイブリッドと手法もルックも違い、多彩なラインナップとなっている。

並行してシンポジウムも行われ、気鋭の監督を招いての「アニメーション監督への道」「日本アニメの新世代」、公開50周年を記念しての「『宇宙戦艦ヤマト』の歴史的意味」の3つ。『ヤマト』は劇場版4Kリマスターのオリジナル版上映も行われた。

上映もシンポジウムもどれも興味はあったのだが、同時期開催の他の映画祭との時間的金銭的兼ね合いから私は海外作品5本のうち『ギル』『メモワール・オブ・ア・スネイル』『オリビアと雲』の3本を鑑賞。
『Flow』と『ロズ』ももちろん観たかったのだが、『Flow』はチケットが取れず(他作品の予約をしている間に瞬殺だった)、『ロズ』はスペインの「ドキドキアニメーション」と時間が重なって涙を飲んだ。『Flow』も結果的には「ドキドキ…」とかぶることになったが。
いかに文化の秋とはいえ、貴重な映画祭同士が重なるのは痛すぎる。アニメーション映画はほぼ同じ客層と思うので尚更。なんとかならないものかと嬉しい悲鳴を上げてみる。

というところで、貴重な鑑賞機会を得た作品について軽く感想を。いずれも藤津氏とゲストの登壇トークあり。
『ギル』は『Green Days~大切な日の夢~』(2010)で日本でも知られる韓国のアン・ジェフン監督の最新作。2024、韓国、103分。


タイトルの「ギル」は英語でエラ(鰓)の意味。
川に落ち、首にエラのある青年に救われた女性が、彼の正体を追ううちに彼との因縁を持つ青年と知り合い、彼の数奇な半生を知ることになる。
美形キャラクターたちによるアニメーション版韓流ドラマの趣き。
キャラクターは韓国の俳優やBTSをイメージしたそうで、監督以外は女性が多数という制作環境で作られたという。
映画の舞台と時制は複雑に飛び、青年の背で煌めくウロコのように物語に幻惑的な彩りを添えている。
緻密な背景は非常に美しく、魅了される。
トークで、監督は精神的に非常に傷ついた時期があり、その経験から人の傷はエラのようなものではないかと思うと述べた。
誠実で清新な作風で好きな監督なので、その経験に思いを馳せながら、監督の安息と更なる創作活動の充実を願ったのだった。

『メモワール・オブ・ア・スネイル』はストップモーション(クレイ)アニメ。


『メアリー&マックス』(2009)等で知られるアダム・エリオットの脚本・監督作。
2024、オーストラリア、94分。
今年(2024)のアヌシーで最高賞であるクリスタル賞を受賞。
自己肯定感が低く精神を病む少女グレースが唯一の心の拠りどころであるカタツムリ(スネイル)を相手に語る痛切な半生。
クセとアクが強くどこか歪んだ独特なキャラクターが織りなす強烈な世界は人形だからこそ成り立ったと言える。
制作に8年を費やしたそうで、ストップモーションの人形が作中でストップモーションアニメを撮るなど世界の凝縮感が凄い。
グレースと外界との関わり、常にグレースを庇ってくれた双子の弟ギルバートが辿る悲惨な運命など社会的な眼差しも強い。
様々な喪失の先に彼女を待つ素晴らしい結末。
が、一概に素晴らしいと肯定してしまっていいのか疑問は残る。
それは彼女が脱した筈の、新たなカタツムリの殻ではないのかと。
監督の談話なども聞いてみたいと思う。
上映後に同じストップモーションの世界から『こまねこ』等の合田経郎監督がゲストとして登壇、アダム・エリオット監督の作風や技法、人形のサイズなど同業プロならではの観点から様々に語られた。

『オリビアと雲』は異色の長編。


2024、ドミニカ共和国、トーマス・ピカルド=エスピラット、81分。
2Dドローイング、アブストラクト、立体、カットアウト、分割画面など様々な手法とスタイルの混淆で描くインディーズ風長編で、ドミニカ共和国初の大人向けアニメーション。
オリビアとラモン、マウリシオとバーバラ、という二組の男女を通して描かれる愛の複雑さ。鉢植えから女性が生えてくるなど不可思議なことが起きたり、話の運びもかなり入り乱れているが「考えるな、感じろ」の態度で臨むことで意外と楽しめた。
独学でアニメ技術を身につけたという監督は短編製作の後、複数のスタッフと10年がかりで本作を制作、彼らの技術が反映されているという。
その成否はともかく、おそらく映画祭でしか観られないだろうユニークな作品で、この選定にも感謝したい。

残念ながら鑑賞が叶わなかった二作品についても。
『Flow』は独力で作り上げた前作『Away』(2019)で世界的注目を集めたギンツ・ジルバロディス監督の最新作。
2024、ラトビア・フランス・ベルギー、85分。
水没した世界に生きる猫たちの物語。キュートな黒猫のビジュアルが多方面にアピールしたかチケット瞬殺だった。

もう一本、『野生の島のロズ』は『ヒックとドラゴン』(2010)シリーズ等の巨匠クリス・サンダース監督の最新作。
2024、アメリカ、102分。
無人島で起動してしまったAIロボット・ロズの物語。


どちらも今後の公開が決定している。

作品ごとのトークや予告編、シンポジウム等は東京国際映画祭の公式サイトに動画が上っているので、チェックをおすすめしたい。

今回は本数もあまり観られず残念な思いもあるが、映画祭の中でアニメーションに特化した部門が継続して開かれるのはやはりありがたい。
選定や折衝の大変さに思いを馳せつつ、次回も引き続き大いに期待してやまない。

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