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『兵馬俑の城』

Tジョイ博多の電影祭2022で鑑賞。中国の3DCG長編。
林永長(リン・ヨンチャン)監督。

これは観られて良かった。
タイトルから内容の見当がつかず、公式サイトの予告編を観て驚き。
歴史劇風な映画を想像していたが、美しい女性キャラも出て来て、画面もファンタジー色が濃い。
実際に観てまた驚き。ファーストシーンから如何にも白髪三千丈の国らしい大スケールの物量と、妖怪神仙の本場ならではのビジュアルが横溢。
タイトル通り、登場人物は中国の歴史上にある兵馬俑が中心なのだが、それらが命を持って暮らしている世界が舞台。
しかも、その兵馬俑の城の外に広大かつ多彩な世界が広がり、不可思議な生き物も闊歩。

城は城外に巣くう巨獣・地吼(ディフォン)の群れに度重なる襲撃を受けており、将軍に率いられた鋭士に守られている。
主人公の青年モンは雑俑の立場ながらいつか鋭士になる日を夢見ているが、とあることから将軍に見出され、地吼を捕えて来れば鋭士に取り立てようと言われる。
意気揚々と外の世界へ出たモンは一頭の白い地吼に挑む凄腕の仮面の戦士と出会い、武術の手ほどきを受けつつ共に旅をすることになる。
仮面の戦士は実は白い地吼に命を奪われた祖父の敵討ちを狙う美少女だった。
不思議な世界を旅するうちに心を通わせていく二人。
ボーイ・ミーツ・ガールの王道だ。
やがて二人は城に隠された秘密と祖父の死の真相、地吼の本当の目的を知り、真の敵と対峙するのだったが。

とにかく、ディズニーの諸作や日本の『ドラゴンボール』をはじめとするアクション物などをものすごく勉強していることが伝わる。
そして、それらの中華風アレンジ力が半端ない。
ディズニーのように輸出用に他国に目配りしなくていい訳で、人口が多くて自国内でペイ出来る国は強い。
しかも、とても魅力的。例えば主人公と美少女の造形の好感度の高さ。
細っこくて元気と意欲が空回りしているけれど感じのいい主人公。額に前髪がひと房落ちている洒落具合など中国アニメとは思えない。
美少女のスレンダーで流れるような身体のラインと服装のセンス。
近頃のディズニーはアジア圏を狙った東洋風の女性キャラクターが多いのだが、皆どこかずれていて、眉をしかめた上目遣いで唇の端を歪めたアメリカンな表情をしている。そうじゃないのだ。
その点、こちらは本物の中華なだけに無理なくナチュラル。
旅の途中で『塔の上のラプンツェル』ばりの空飛ぶランタンの場面を入れ込んできたりするのだが、ランタンの浮力が強すぎて彼女が宙に浮いてしまい、彼に助けられるというアレンジを施しているのが上手い。
道中で仲間になる羊の俑は明らかに『アナと雪の女王』のオラフを思わせるが、東洋的なデザインが秀逸で、アメリカ的な鬱陶しさも無い。
『デューン』のサンドワームのような怪物も出て来るが、その毒で彼女がピンチに陥って、という風に必ず上手いアレンジを施している。
『ドラゴンボール』ばりのラストのアクションも、主人公が超越した力を得る伏線が張られ、それが最後の解決にも繋がる。
しかも人物(兵俑)は元が陶器なので、戦いによって体が砕け散るなどの激しい描写も可能。修復も利くので身体欠損に弱い私でも平気で観ていられる。万人向きだ。
今迄の中国アニメに見られたような、例えば近年の『白蛇:縁起』の話が進むに連れて増すエグみや、『ナタ転生』の人物はいいのに動物が上手くない点、カッコ良さに舌を巻いた『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の端々にある下品さ、傑作『羅小黒戦記』でさえその他大勢のキャラ絵の半端さ、等々の欠点が本作には全く無いことも驚きだ。
とにかくセンスがいい。
美術も美しく、実は地下世界であることを感じさせない広がりと多彩さ。
全編怒涛のアクションアドベンチャーでありながら同時に異世界を巡るロマンチックファンタジーであるバランスの良さ。
息をもつかせぬ展開なのに、一息も二息もつかせて、見たこともない風景や不思議な生物たちで楽しませてくれる上に、ロマンチックな歌唱シーンまで入れてくる余裕。
旅の中での伏線の仕込み方もわざとらしさが無く巧み。
人物と動物、主人公と将軍、等々の設定と配置からデザインまで上手い。
地吼のもこもこ感も利いている。
3DCGも悪くなく、とにかく大スケールの画面に圧倒される。
『羅小黒戦記』でも思ったけれど、このまま作り続けたら日本など目ではなく、ディズニーを抜いて中国アニメが世界の覇権を手にする日も夢ではないと思われる。
実は最後に彼女が(ネタバレ)なのだけれど、中国は再生も転生も普通の国なので心配はしていない。続編も希望期待。

しいて欠点を上げるなら『兵馬俑の城』という歴史物風でロマンスの欠片も想像出来ないタイトルだろう。
副題を付けるなり(「乾坤石の秘密」というのはどうか)何なりした上で、上手い声優陣による吹替え版を作れば一般公開も望めると思う。
というか、して欲しい。
とにかくお薦めの一本。
最近とみに目立つ、実写では不可能なのでアニメを使いましたというアニメーション・ドキュメンタリーも、それはそれでアニメ表現の成熟を示すもので肯定するし、その中で好きな作品も幾つもあるけれど、やはりアニメである以上は、アニメでしか描けないエンタメのお話も観たいのだ。
最近ちょっとそうした思いが高まっていたところにこの作品が上手くはまってくれたので多分必要以上に称賛している自覚はあるけれど、こうして観る機会を得られて本当に良かった。
電影祭に感謝。


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