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TAAF2024まとめ

 東京アニメアワード(TAAF)2024が3月8日(金)から11日(月)にかけて開催された。
 TAAFとは東京で開催される国際アニメーション映画祭であり、元々は2002年から2013年まで開催された「東京国際アニメフェア」の一環として行われていた「東京アニメアワード」を独立発展させたもの。2014年が第1回で、この2024年で11回目となる。
 世界から公募した長編・短編作品の「コンペティション部門」、投票による「アニメ・オブ・ザ・イヤー部門」、功労者を顕彰する「アニメ功労部門」の3部門からなり、映画祭期間にはコンペのノミネート作品の上映に加え、招待作品の上映やシンポジウム、子どもワークショップなどが行われる。
 合言葉は「東京が、アニメーションのハブになる。」
 実行委員長は社団法人日本動画協会理事長である石川和子、フェスティバルディレクターは竹内孝次が務める。
 今回の長編コンペには世界の25の国と地域から32作品の応募があり4作品がノミネート、同じく短編は68の国と地域から962作品の応募から25作品がノミネートされた。
長編は昨年の31本から微減だったが、短編は昨年の872本から激増しており、世界のアニメーションが盛況を見せていることが伝わる。
 またアニメ・オブ・ザ・イヤー部門では国内で上映・放送された作品を対象に、ファンの投票による「アニメファン賞」、アニメーション関係者の投票による「作品賞」「個人賞」が選ばれる。
 「功労部門」はアニメーション産業・文化の発展に大きく寄与した先人の功績を称えるもの。今年で20回目となり、総勢208名を顕彰した。
 開催回数も多く世界各地から応募がある映画祭であるのに世間への浸透は残念ながら十分とは言えない。プログラムも知名度の高いTV作品関連以外の集客は低いと言わざるを得ない。

 さて、ここでは映画祭の目玉と言えるコンペティションを中心に書いてみたい。
 実は世界を対象に短編と長編の両方のコンペを備えたアニメーション映画祭は少ない。草月ホールなどで行われた自主制作アニメーション中心の祭典はおくとして、先行する広島国際アニメーションフェスティバル(1985年~2020年)は誕生当初からコンペは短編のみ、長編作品の上映はあるがコンペではない。2020年に終了した同映画祭の後を受ける形で2022年に開始された広島アニメーションシーズンでは長編のコンペも加わった。
 日本における国際アニメーション映画祭の二番手として2014年に始まった新千歳空港国際アニメーション映画祭は短編、長編、両方のコンペを全世界の作品を対象に設けている。空港内のシアターを中心に全てが完結するユニークな映画祭だ。
 現在のところ最後発である新潟国際アニメーション映画祭のコンペは長編のみ。短編と長編の両方のコンペを有し、なおかつ一定の成果を上げ続けているのはこの東京アニメアワード(TAAF)のみだ。

 成果と書いたのは、TAAFでグランプリを獲得した作品、殊に長編作品は後に劇場公開に繋がるケースが多いのだ。2014年受賞の『コングレス未来学会議』、2015年受賞の『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』、2016年受賞の『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』、2017年受賞の『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』、2018年受賞の『幸福路のチー』、2020年受賞の『マロナの幻想的な物語り』等々、枚挙に暇がない(邦題は劇場公開時のもの)。業界的に注目の映画祭と言っても過言ではないと思う。

 さて、今年のTAAFについて、コンペを中心に振り返ってみよう。
 長編は前述のように4作品がノミネート。『リンダはチキンがたべたい!』(2022、フランス・イタリア、キアラ・マルタ&セバスチャン・ローデンバック)、『シロッコと風の王国』(2023、フランス・ベルギー、ブノワ・シュー)、『ストーム』(2023、中国、ブシファン)、『トニーとシェリー、そして魔法の明かり』(2023、チェコ・スロバキア・ハンガリー、フィリップ・ポシヴァチュ)の4本。
『トニーとシェリー…』はストップモーション、他の3本は手描き(『リンダ…』はクリプトキノグラフィーという独自の技法)。現在、世界の映画界を席捲している3DCG作品ではない点がユニークだ。
 ただし、『リンダ…』と『トニー…』は昨年11月の東京国際映画祭で国内初上映されている。長編アニメーションに注目した映画祭が増えるのは望ましいが、こうした作品の重複が避けられず起こるのは悩ましい。ファンとしては1本でも多く未知の作品に触れたいので。ついでに言えば上映媒体が変わると邦題も少しずつ変わってしまうのも悩ましい。いずれリスト化の際の障害にもなりかねない。

 『リンダはチキンがたべたい!』は先に書いた通り、ローデンバック監督が独自に編み出したクリプトキノグラフィー技法の成熟が見て取れる作品。この技法は動きの一瞬一瞬の印象を切り取り画面に捉えるもの。輪郭線に拘らず、彩色も自由奔放。極めてビビッドな躍動するイメージが生まれる。本作においては技法はもちろん、ストーリーが明快で、センスあるフレンチコメディとして優れている。母と娘が亡き父の得意料理を巡り、街中を巻き込んで引き起こす大騒動。それが娘の成長の一種の通過儀礼ともなっている点に大人の目がある。ユニークな技法は活力ある物語に更なる生命力を寄与して効果的だ。最終日に長編グランプリを獲得したがそれも納得の出来栄えだ。
 なお、ローデンバック監督は2017年の『手を失くした少女』でTAAFの長編グランプリを得ており(邦題はその際のもの)、監督にとってもTAAFにとってもいわば凱旋作品にあたり、幸せな邂逅となっている。国内公開も決定済み。
 『シロッコと風の王国』は素晴らしい出来の手描き長編。主人公の幼い姉妹がお気に入りの本『風の王国』の世界に入り込んで繰り広げる冒険物語。きちんと手順を踏んだ「往きて還りし物語」として王道だ。なかんずく、そのイマジネーション、ファンシーなデザイン、色彩、キャラクター、音楽、等々のユニークで豊かなことと言ったら!自由闊達な妹と心配症の姉の姉妹は宮崎駿の『となりのトトロ』の影響も明らかで、巨大なパラグライダーで滑空する場面などもあるのだが、とにかくただ画面を見ているだけでアニメーションの幸福に包まれるというプリミティブで稀有な魅力が横溢している。監督は湯浅政明監督からの影響も明かしており、確かに、怪しいデザインの生き物たちや揺らめく動き、傾いで積み重なる建物などに、それを見て取ることが出来る。楽しいだけでなく、ほんのりと死の影が差しているところもファンタジーとして深みがある。最終日には優秀賞を受賞。『リンダ…』の価値を十分に認めながらも、個人的には本音を言えばこちらにグランプリを獲ってほしかった、そして一般公開に繋がってほしいと強く願ってやまない。

 中国の『ストーム』がまた素晴らしい出来。主人公は捨て子だった少年と彼の養父(作中では「おじさん」と呼ばれる)だが、彼らを取り巻く人物関係や状況がやや入り組んで理解が及ばない部分もあるのが惜しい点か。しかし、それを上回って素晴らしいのがキャラクターの造形とその動き。ここに掲示した画像からは全く伝わらないかと思うが、全体には劇場版『クレヨンしんちゃん』を彷彿させるシャープでスタイリッシュなデザイン。白馬を操る男装の麗人など実に魅力的。平面的に処理された人物が動いた時に日本のアニメを彷彿の的確さを見せるアニメートの冴え。クライマックスの長回しは超絶。上手い日本語吹替え版を作って上映してくれたら字幕に気を取られることなく理解が進み、画面に集中出来て効果的と思うが、例えば電影祭などで機会を与えてもらえないだろうか。

 唯一のストップモーション作品『トニーとシェリー、そして魔法の明かり』はチェコの伝統芸である人形アニメの流れを汲む作品。生まれつき体が発光してしまう少年トニーと、引っ越してきた風変わりな少女シェリーが居住する集合住宅で繰り広げる冒険物語。特異体質の為にロープで繋がれ自由に外へ出ることも許されない少年に時代の閉塞感が現れ、友情が事態を変化させることに未来への希望がある。時折、素晴らしいイメージの構図や色彩感覚が見られ、伝統と革新を感じさせる。これもまたとある宮崎駿作品の影響と思しきものが伺えるのも日本で鑑賞する意義と言えるだろう。本作に限らず、世界におけるストップモーションの躍進は目覚ましいものがある。その一端に触れられる作品でもある。

 今回のTAAFの長編コンペは、このように秀作が並んだ。多くの応募作品からノミネート作品を選び出す困難は想像に難くない。応募の時点では日本語訳の無いオリジナル言語版だろうから、その大変さはいかばかりか。一時のTAAFでは手法や国籍などの作品的バランスを取ることに傾注してか質的に疑問を覚える作品がノミネートされることもままあった。が、今回のセレクトは素晴らしく、観る側としてありがたい限りだ。世界的にも長編作品の制作は増加しており、アニメーション界での重要性は増すばかりだ。TAAFには是非この調子を維持し、ますます素晴らしい世界を見せ続けてほしい。

 ついでに、TAAFではコンペ以外にも「招待作品」の枠で国内未公開作品を上映してくれることがあり、感謝している。今回はフランスの長編『ニナとハリネズミの秘密』がプログラムに加わった。(2023、フランス・ルクセンブルク、アラン・ガニョル&ジャン=ルー・フェリシオリ)。
 これは2013年に劇場公開された長編『パリ猫ディノの夜』で日本にも根強いファンがいるフランスの作家ガニョル&フェリシオリの最新作で、ファンにとっては待望の対面。まさかここで観られるとはと目を疑った。こういうセレクトがあるからTAAFは見逃せない。ちょっとクセのあるキャラクターが彼らの特徴で、何故か常に大小問わず犯罪が絡む。今回は10才の恋する少年少女を中心に、隠された財産探しの物語。タイトルのハリネズミは少女のイマジナリーフレンドとして画面に登場する。彼女たちの冒険の結末と共に、かくあるべきイマジナリーフレンドの使い方も見もの。様式化された背景美術に展開する初恋の行方は瑞々しく観る者の記憶を刺激するが、そこはフランス映画。洒落ている。

 さて、短編コンペ。実は今回、私は事情があって3つのスロットのうち「スロット1」しか観られなかったが、それでも充実を覚える時間だった。
スロット1は全8作品に学生賞の1作品を加えたプログラム。最終日の授賞式でこのスロットから短編グランプリ=『氷商人』、豊島区長賞に『ベネチア、未来最古の都市』、と2作品が入っていたのでラッキー。(優秀賞はスロット2の『レギュラー』)。
 『氷商人』(2022、ポルトガル・フランス・イギリス、ジョアン・ゴンザレス)はペン画のようにシャープな手描き作品。麓の村に氷を届ける為に崖からパラシュートで飛ぶのが生業の父子だが、ある日、思わぬ事態が。日々の繰り返しが最後に実を結ぶ展開が鮮やか。
 『ベネチア、未来最古の都市』(2023、イタリア、アンドレア・ジロ&ロベルト・ジンコーネ)はタイムトラベルもの。このままEテレで放送してもいい完成度と希望ある展開が心地いい。『氷商人』と共に現在への提言の視点がある。
 スロット1には他にも構図など手が込み意表を突く展開の人形アニメ『はなくそうるめいと』(2022、日本、池田夏乃)、色彩感覚とテクスチャ効果が目を引く『魔女の妖精』(2022、ベルギー・ブルガリア、セドリック・イゴー&デビッド・ヴァン・ヴァイヤー)、滲んだような画面が繊細な『えんそくだったひ』(2023、日本、倉澤紘己)など印象的。ここに挙げただけでも分かると思うが日本作品のインコンペが多いのもTAAFの特徴。自国で開催される映画祭だけにこの結果は嬉しい。
 学生賞は2021年から始まった試みで日本の学生作品を対象とした賞。ノミネート作を見ても分かるだろうが現在の学生作品は本当に質が高い。日本も世界もアニメーションに特化した学校が多く設立され、優れた指導の下に優秀な作品が数多く生み出され、卒業後は業界で働く人材も多い。そんな社会情勢を反映した賞は良い試みと思う。
 今回の受賞は東京造形大学の作品『520』(2023、日本、池部凛)。素直に向き合えない家族の小さな一歩を絶妙な距離感で描く。作者は現在アニメ会社に在籍中という。

 コンペ以外のプログラムでは、功労部門顕彰記念『装甲騎兵ボトムズ』上映とトーク、文化庁アニメ人材育成事業『あにめのたね2024』、短編5本の『~アジアン季節風~中国短編アニメーション作品集』、『劇場版クレヨンしんちゃん30年記念』上映とトーク、『劇場版アイドリッシュセブン』応援上映、『デデデデ』前章ワールドプレミア、3DCGスタジオ武右エ門特集、『これからのドワーフ』トークショー、様々な学生作品集に加え、シンポジウム、功労部門展示などが池袋駅東西で連日行われ、池袋らしいオトメイトビルを会場にコンペノミネート作品のスタッフトークも行われた。
 これだけの内容の映画祭が東京都内で行われているにしては集客が少ないのは私には疑問でしかないのだが。

 会場について言えば、現在のメイン会場になっているMixalive TOKYOは映画上映に適しているかは疑問だ。中国短編を上映したTOHOシネマズとまでは言わないが、もう少し適した会場は望めないものだろうか。現状、ホールの前半分がフラットで後方の階段席も段差が小さく自由席とはいえ場所によっては見にくいのだ。
 上映会場も池袋の複数に渡るのは時に厳しい。映画祭はただ単に作品を上映すれば良いものではなく、ひとつの「場」であってほしいのだ。アニメの作り手とファンとが共有し互いに交流出来る為の。広島のアステールプラザは理想的な場だったが、東京都が共催に立っていることでもあり、アニメ文化の振興の為にも何か方策がほしい。現在の会場では上映後の立ち話すら難しいのだから。

 希望ついでにもうひとつ言えば、開会式と最終日の授賞式が公開でない(一般人は入場不可)のは何故だろう。映画祭の開会と結果を共に喜び寿ぎたいのは誰も同じ。何か不都合なことでもあるのだろうか。私はこの15日から開催された新潟の国際アニメーション映画祭に参加してきたが、授賞式&閉会式は一般に開かれていてとても盛り上がり感動的だった。かつての広島のアニメーションフェスティバルでも最終日の式は一番の人気プログラムで、客席の熱気は今も鮮やかに覚えている。
 映画祭はただ作品を観ればそれで済むというものではなく、ましてTAAFのように観客と同じ会場で審査するコンペ形式ならば、その結果に関心を持ち、共に祝いたいと思うのは自然なこと。私はTAAFの一次選考委員を務めた際に授賞式に出席させていただいたが、セレモニー感のあるとても良い式典だった。許されるなら是非オープンに、同席が無理ならば別会場や機会を設けてリモートでもと思うのだが。
 それと現状のグランプリ上映はあまりにも華がない。人件費の問題になってしまうだろうが、せめて何らかのアナウンスと僅かでもセレモニー感がほしい。歴史ある映画祭の最後の仕上げに相応しいものであってほしいのだ。

 いろいろ書いたが私はTAAFが好きだ。特に作品のセレクトは安心でき信頼に足る。いつまでも続いて、本当に「世界のハブ」となる、より良い映画祭へと発展してほしい。

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