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新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)2024コンペ作品まとめ。


全12作。掲載は順不同。★はデイリーペーパーの星取表から。★5点満点。

『アリスとテレスのまぼろし工場』★4
2023、日本、111分、岡田麿里

新潟のコンペは日本の作品も公開済み作品も評価次第でインコンペするのが良いところ。
事故で時の流れが止まった街という東日本大震災後の時代の閉塞感が映る設定と、パンドラの箱的に残された一縷の希望。
ただし、脚本・監督を兼ねた岡田麿里成分が過去一特濃で、かなりエキセントリックなので合う人を選ぶかもしれない。

『インベンター』★5
2023、アメリカ、92分、ジム・カポビアンコ&ピエール=リュック・グランジョン

見事な人形アニメと軽やかな作画の混淆(ハイブリッド)。趣の異なる二つを同時に味わえるアニメーションの愉悦。
主人公レオナルド・ダ・ヴィンチが突き動かされる魂(アニマ)の秘密の追求こそアニメーションの神髄と言える。
イタリアからフランスへ拠点を移した晩年の彼とフランスの王女マルグリットとの年齢も立場も超えた理解と友愛の崇高さ、二人の弟子との絆。
人間は「見る人」「言われれば見る人」「見ない人」の3種に分かれるというダ・ヴィンチの見識、それはアニメを含む芸術全てにも当てはまる。
彼の後ろ盾になるフランス王、最初は「見ない人」と思われた彼が「見る人」へと変わっていき、戦争よりも芸術を求めてフランスをルネサンスへと導くことの感動。女性たちが皆聡明で活動的なのもいい。
ダ・ヴィンチの時代を描く歴史劇だが、テーマも人物も確かに「今」の映画になっている。
充実の画面、殊に照明が良い仕事をしていて、ミュージカル的な歌がまた魅力的(音楽=Alex Mandel)。エンドロールのメイキングもいい。
人形がランキン・バス・プロを思わせるとの感想も聞いたが、きちんと伝統を学び受け継いでいる証しとして好感。
最終日に奨励賞を受賞したが、贈賞スピーチでは子ども向け作品としての受容に聞こえた。が、これこそ全年齢向けの作品と思う。
題名は「発明家」の意味。

『アザー・シェイプ』★3
2023、コロンビア、92分、ディエゴ・フェリペ・グスマン

作画。ほとんど出オチと言えるほど特異なビジュアルの人間たち。
それは月面に作られた理想郷に到達する為に自分たちの身心を立体パズルの一部のような四角四面に矯正した結果であり、自己を守る鎧でもある。彼らは理想郷に到達することが出来るのか。
くすんだ色彩に世界の閉塞感が表出。抑圧と解放をレトロな味わいの画で描く。テーマや展開に普遍性はあるが日本人にとってはかつて通って来た道としての既視感にも繋がる。
解放(脱出)の決め手になるのが創造の力であるのはいい。セリフ無しで話を伝えきったことも評価したい。

『コヨーテの4つの魂』★5
2023、ハンガリー、106分、アーロン・ガウダー

冒頭のもの悲しい歌から心を掴まれる。北米先住民の伝承を元にした土俗的な作画作品。
創造主が粘土から生き物を創り出す万物創造場面の力強さが心を打つ。
コヨーテは創造主の粘土のかけらを横取りして人間の男女を作り、万物に死の理が生まれる。4つの魂を持ち、滅しても蘇るコヨーテと創造主、人間との関わりが歴史を紡ぐ。
これら伝承を描く部分はとても魅力的だが、それを環境保護活動と絡める描き方に僅かな引っ掛かりを覚えてしまう。
それを考慮して★4.5が妥当だったかもしれない。

『アダムが変わるとき』★4
2023、カナダ、93分、ジョエル・ヴォードロイユ

安定のカナダ製。デフォルメの利いた独特な絵柄の手描き作画。フラットな背景とキャラクターの一体感がある世界。不穏な音楽とリアルな効果音が時にただならぬ感覚を醸し出す。作者はミュージシャンとしても活躍という。
主人公は15歳の鈍くさいアダム(左)で、家族やクラスメイトとの関わりなどティーンエイジャーものとしての実感がある。スクールカースト下位の彼を、映画は突き放すでも嘲笑するでもなく歩み寄るように描く。最後のエピソードが印象的。
最終日にグランプリを受賞。第1回グランプリの『めくらやなぎと眠る女』に共通するルックと奇妙な味わい。ここにある意味、新潟の映画祭としての色が浮かぶ気もする。

『スルタナの夢』★3
2023、スペイン、83分、イザベル・エルゲラ

インドに実在した女性思想家ロケヤの著書『スルタナの夢』に魅せられたスペイン人女性イネスが女性の為の理想郷探しの旅に出る物語。ドキュメンタリー・アニメーションの一種とも言える。
抑制の利いた静謐で知的な雰囲気。切り絵風の画(デジタル)と渋い色調、透け感のある彩色などのスタイルが独特。
ジェンダーやフェミニズムについて考えさせられるがストーリーテリングがやや弱いか。広島アニシズでこそ評価される作品な気もする。

『マントラ・ウォーリアー~8つの月の伝説~』★3
2023、タイ、90分、ヴィーラパルト・ジナナビン

珍しいタイ製の3DCG長編。太古の昔からの神話的戦いがベースの『聖闘士星矢』を思わせるSF的世界観。ロボ戦士やタイならではのハヌマーン変身もあり楽しい。描写は目まぐるしく、技術は高い。回想シーンは2D作画で日本のアニメタッチ。世界をよく研究している。
魅力的な容姿の王女や、湯浴み中に全裸で歌い踊るナルシーな王子など、性格を含め親しみやすいキャラで大衆娯楽性も上々。
ただ連続ものであり、最終決戦を前に「休憩」が入り、話の途中で次章予告が入って「続く」になるので映画祭出品作としての評価は微妙か。
国内でも適当な場があれば連続物でも観てみたいと思う層はいると思われるが。

『マーズ・エクスプレス』★4
2023、フランス、85分、ジェレミー・ペラン

日本のアニメ風に整理された線と洗練された色彩、ひんやりした近未来感のあるSFサスペンスアクション。仏製バンドデシネ的でもある。
舞台は近未来の火星で、AIロボットと人間が混在する社会。キャラクターと設定など『攻殻機動隊』の影響は明らかだが正確なリアル作画とラストバトルは見もので、このまま国内公開可能な完成度。
事件を捜査する女性主人公とアンドロイドのパートナーとのバディものとしても良い出来。
周囲の反応と反響がとてもいい作品。実際、『攻殻』フォロワー的な作品の中でも完成度は高く、ルックもクールな世界観も日本人として受け入れやすい。国内公開する際には『攻殻』のパクリと思われないように押井監督のコメントを取るべきとの意見もあり、納得。
★4なのは単に私がコワガリで苦手なビジュアルがある為で実際は★5でもいい。

『深海からの奇妙な魚』★1
2023、ブラジル、75分、マルセル・マラオン

線画風のシンプルキャラによる戯画。尻がゴリラの力を持つ女性、強迫性障害のカメ、雨漏りする雲のチームが冒険の旅に出る。この組み合わせに『ドラゴンボール』の影響を見る向きもいたが果たして。
ほぼ独力での制作。PCさえあればアニメが作れる時代から1人でも長編が作れる時代へ。作者初の長編だがこれまで300本以上に参加するなどアニメキャリアは豊富。
本作のインコンペはウェルメイドの作品よりもインディーズ感覚の作品で映画祭としてのバランスを図ったかと推測するが、自分はアニメとしてよく出来た作品の方を評価したい(観たい)ので、この時間があれば別の何かが入ったのではと思うと口惜しい。
具体的には前半は意外な設定などあって面白く観たが、タイトルにある深海パートに入ってからは真っ暗な画面に僅かな線画や声のみで進む時間が多くて長編化の為の手抜きを感じてしまった。「奇妙な魚」が出て来るのも遅く、タイトルには一考を要す。
アクションものなのでタイミング(カット毎のフレーム=コマ)をもう少し刈り込めば見違える筈だ。
最初は★2を考えていたが、そんなこんなで★1に。

『ケンスケの王国』★5
2023、イギリス、90分、ニール・ボイル&カーク・ヘンドリー

シネスコ。3DCG併用の2D手描き。しっかりした作り。派手さはないが誠実で堅実な映画。写実的で硬質な背景が魅力。
ケンスケは孤島に暮らす元日本兵で、漂着した英国少年を助け、少年に救助が来るまで共に暮らす。
『桜』の曲が流れるケンスケの故郷、長崎の回想に涙。自然を尊重し共生する島の暮らしの豊かさと、言葉に頼らず生活を共にした二人の別れの切なさ。心が弱っている時に観るとぼろ泣き必至。
日本人ケンスケの声は渡辺謙(日本語)。事情で字幕なしの上映だったが中心は子どもの喋る英語なのでほぼ支障はなかった。
島に密猟者が現れた時は彼らとケンスケの戦いになるかと身構えたが、そうはならず安堵した。彼らは自然からの収奪者の象徴だろう。
とてもしっかりした映画なので何らかの上映の機会があればと思う。

『オン・ザ・ブリッジ』★5
2022、スイス・フランス、47分、サム&フレッド・ギヨーム

深い陰影、抑えた色数、鋭い構図。ロトスコープと思われる人物を美的に昇華、動く絵画の趣へ。人物が面の表現に還元され、実写ではなくアニメーションでなければならないものになる。実写的アニメーション表現のひとつの解答と言える。
形而上的なストーリー、荘重な音楽。ある局面の後、光あふれる世界に変わるのが効果的。年齢を重ねてから観るとしみじみと心に迫る人生の滋味。
評価が低い人はまだ若いことの証明だ。
声は死期を迎えた人たちのそれを録音してベースにしたという。これもある種のドキュメンタリー・アニメーションと言えようか。

『クラユカバ』★3
2023、日本、61分、塚原重義

日本の新作長編も評価されてコンペ入りするのが新潟の良いところ。光源と陰影を意識した画とレトロな色調、時代ものとしての語り(神田伯山)を重視した作りが魅力的。和風奇譚として面白いが、もう一歩世界観や意匠の魅力的な深掘りがほしい気もする。奇抜なメカや空中活動写真の大仰な仕掛けはいい。
近日、映画祭オープニング上映となった同監督の『クラメルカガリ』と同時公開が予定されているので通して再見しようと思う。

(了)

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