水中に佇む樹を見た

ちょっと長めに滞在したことのある場所って、一時的に住んでいたような気分になる。

三週間ほど、住むように滞在していた場所が二つある。

一つは宮崎。大学一年の頃、免許合宿で滞在していた。自動車免許を取ることって、普通は一生に一度しかないと思うけれど、それが縁もゆかりもない、二度と訪れないかもしれない場所だと言うのはちょっと面白い。これから自分がどれだけ長い人生を生きようと、初めて車を運転したのはあの場所だ。


もう一つは富山。修士一年の頃、インターンシップで滞在していた。当時割り当てられた部署も、女性が多い分析専門のチームだったし、今と似たようなことをやっていたなと思う。

インターンの面接、インターンシップ本番、就活の面接2回と、富山には4回ほど訪れたけど、好きになれる場所だった。

ちょっと物が少ないような気がしたけど。

横浜も含めて、関東にしか住んだことのない人間だから、北陸の空気はなんだか新鮮で落ち着かなかった。インターン一日目だったか、夕食を取れる場所を探しに遠くの大戸屋まで出向いて、親子丼を口に入れた瞬間に火傷したことをよく覚えている。

富山で印象深かったのは、一つの博物館。名を埋没林博物館という。

2000年以上前、今より海面が低かった頃の樹木が、河川の氾濫による土砂の流入で埋もれた。それが現代になって海中から発見された物が、埋没林だという。

土砂の中にあったからか保存状態が非常に良く、当時の姿を色濃く残している。博物館では、発見時の姿を再現した巨大水槽の中に埋没林が展示されていた。

訪れたのは確か日曜の昼下がり。三週間のインターンシップの二週目の終わり、最後の休日だった。魚津駅前で自転車を借りて、1人海辺までぷらぷらと走っていた。

特に見るものもないなぁと思っていた時、Googleマップで偶然見つけた博物館に興味を惹かれて、入ってみたのだった。

自分の他に人はいなかった。展示室に入ると、一瞬暗闇で何も見えないが、やがて薄い照明に水中の埋没林が浮かび上がる。

最初見た時、正直「怖い」と思った。23歳になる男が、小学生のような「怖い」と言う感情を抱いた。

埋没林の静置されている水槽を上から見下ろす形になるので、写真を撮るスマホや、あまつさえ自分の身体が落ちたらどうしようという不安を抱いた。

誰もいない展示室、暗闇に浮き上がる巨大生物のような樹木を見て、実はこの空間には自分だけではなく、この水槽の中には何か別の生き物がいるんじゃないかと、そんな妄想を膨らませた。

幼い恐怖を感じて、最初はすぐに展示室を出てしまった。

ところが、その後戻ってみると、なんだか不思議な居心地の良さと安心感すら感じるようになった。

少し長居すれば照明も明るくなることを知ったからか、あるいは、この水槽の中に落ちてみても良いかもしれない、などと思えるようになったかもしれない。

その後、海辺のテトラポットに腰かけて、日本海に日が落ちるのを眺めた後、自転車を返しに戻った。

なかなかアクセスの悪い場所なので、もう二度と行くことはないかもしれないけれど、妙に印象に残っている。

いつかまた富山に行く時は、訪ねてみたい。出来ればその時は他の誰かを連れて。

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