黒いVAIOのキーボード

noteに書くことは大抵、湯船に浸かりながら思いつくことが多い。
ところが、そこから急いで上がって髪を乾かし、パソコンの前に向き合った時には、考えていたことは霧消している。あるいは、これは良いなと思っていたセンテンスも、時間が経つうちに何の面白みもない一文に変わり果てている。
湯船に浸かりながらスマートホンで書けばいいじゃない、と思われるかもしれないが、あまりフリック入力で長文を打つのが得意ではない。キーボードで文字を打つ方が好きだ。

キーボードでの文字入力がそこそこ得意だ。基本はブラインドタッチだし。敢えてタイピングとは言わない。何だか古臭いので。
パソコン講座みたいなウェブサイトに迷い込んだ時、ブラインドタッチの別名を初めて知ったのだけど忘れた。まあそれは良いや。
どこで得意になったのだろう、と考えていた。指使いは確実にピアノを習っていたからだけど、10年以上習っていたピアノがそんなところにしか活かされていないのが悲しいけれど。
恐らく、キーボードでやたらと文字を打ち始めたのは、学生時代に実験レポートを書くようになってからだ。毎週提出する実験レポートに対して全くといっていいほど計画性がなく、いつも提出前日に紅茶片手に徹夜して書いていた。製図を「勉強のため」とかいって手書きでやらせるような教育方針ではあったが、流石に実験レポートは手書きではなかったので、六畳間の壁の薄い部屋で黒いVAIOの打鍵音を響かせていた。いや待てよ?手書きもあったな?「レポート用紙」なる一生使い切ることのない紙の束が、学生時代の荷物の奥の方に眠っていたはずだ。
学生時代、兎にも角にも工夫が無かった。友人たちの多くは、楽をした。実験レポートには「過去レポ」を、期末試験には「過去問」を。一年次の後期、数学系の講義、確か解析学だったような気がするが、独力で勉強して試験を終え、まあ決して良くはないが不可は付かないだろうと答案を前の席へ流している時、学籍番号が隣の友人に、「簡単だったよね?」と言われた。その意味するところが分からなかった。訊くと、その講義は過去問が広く出回っており、当年の試験内容は前年とほぼ同じだったのだという。そこで初めて、サークルの同期から過去問が回ってきていなかったことを知る。成績が開示された時、自分は「可」、過去問を使った友人たちは皆、「優」か悪くても「良」だった。大学の成績なんて情報戦なんだなと思い知り、そこで自分はスレた。
楽をすることが悪いことだとは言わない。試験は講義の要点の理解度を試すものであるのだから、その要点を集めた過去問を学べば、講義を効率的に理解することができるだろう。過去レポにしても、実験の重要個所を理解するヒントになるはずだ。彼らがそんな風に使っていたかどうかは知らないけれど。いずれにしても、それから自分は意地になって、それら一切を使わずに学生時代を乗り切った。決して成績は良い方ではなかった。果たしてどちらが正解だったのか、今でもよく分からない。

学生時代のことを考えていたら、そういえばこの騒ぎになる直前、学生時代一緒にいた友人達と飲みに行く約束が延期になっていたことを思い出した。彼らはサークルメンバー以外で唯一の友人達といって良く、いつも一緒に講義を受けて、二食(第二食堂のことをそう表現した)に通った。はて、三人のグループはどこにあっただろうとLINEを探していたら、色んな過去のグループ達を見つけて大いに寄り道した。
珍しく自分から集合を呼びかけてみると、一人からは好意的な反応。もう少しだけ生き延びる理由ができそうだ、などと思ったりした。


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