だって、痛くなかったんだもの
歯医者に行って麻酔を打たれる。
唇の感覚がないのが、いつでも不思議。マスクの下、軽く噛んでみるけれど、やっぱり感覚はない。
あ、この感覚知ってる。
だいぶ幼かった、当時の私。虫歯を治療し、同じように麻酔を打った時、変わらず感覚がなかったことが不思議だった。それで、はむはむとひとしきり感覚を試したあと、思い切り自分の唇を噛んだ。
痛くない! 痛くないぞ! と、ぎうぎう噛んだ。
結果、麻酔が切れてからしっかり痛くて、当たり前に痛くて、
痛くて痛くて、泣いた。
あぁ、あの、ぎゅって力を入れる前の感覚だ、なんて思って、笑った。