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12人の優しい委員会
数年前、お鉢が回って住んでいるマンション理事会の委員になったことがあった。急な欠員が出たらしく、抽選で選ばれた。
「え〜やだよ、委員なんて」
何か理由を付けて辞退する手もあったが、どうせずっと住むマンション。
いつかやるなら今やっておこうと承った。
初会合の日は、火曜日の夜。
やっぱり気が重い。
「仕事で」という欠席の言い訳もできたが、少し興味もあったので顔を出しておくことにした。
内容うんぬんはすっ飛ばそう。
ショックを受けた。
なぜか?
長年ビジネス社会で培ってきた僕のそこそこロジカルなコミュニケーション力が、全く役に立たない世界がそこにあったから。
まずこの会議の主要な目的がわからない。
分厚い資料が配布され、書いていることがただ読み上げられる。
所々で参加者が発言をはさみだし、論点がズレまくっていく。
当時、僕は人事系のコンサルをしていた。
これって、まさにダメな会議の典型。
でもそこにいた方々はふつうに澄ました顔で座っていた。
初参加ゆえ静観していたものの、だんだんイライラしてきてついに僕は口を割った。
「あの〜そもそもこの場って何が目的なんですかね?」
場がシーンとなり、一斉に視線が僕に注がれた。
何を言っとるんだ、コイツは。
みんなそんな目でポカンとしている。
引くに引けなくなった。
「あの〜それぞれみなさん忙しい時間を割いて参加していると思いますので、この場の目的を明確にしておきたくて・・・」
”みんなから徴収している管理費を適切に活用していくために、ここにいるんだよ”
ややお年を召した方が優しい目をしておっしゃった。
「あ、ありがとうございます。」
その後も何度か発言を試みた。
会議に参加したら発言せよ!染み付いている。
しかし、ことごとくヌルッとスルーされた。
*
やがて、わかってきた。
どうやらこの場が2つの派閥に分かれていること。
理由は分からないけど、何か互いに主導権争いをしているらしい。
共通目的に基づいた場ではなかった。
あの人好き嫌い、仲がいい悪いという何か情緒的な要素たっぷりな場だった。(もちろん何か利害が絡んでいたのかもしれない)
なんだ、ここは。
ふと1本の映画を思い出した。
かつて観た中原俊監督・三谷幸喜脚本の「12人の優しい日本人」。
あの内容にそっくりだ。
(委員会は12人いなかったけど)
頑固な人。
主張力だけの人。
お調子者。
意見のない人。
声だけ大きくて内容のない人。
仕切りたがり。
自称大企業の元部長。
まったくやる気のない人。
年齢不詳。
そして、初参加でみんなとかみ合っていない僕(笑)。
映画ならシュールで面白い絵面。
でも現実だと、ただ頭が混乱する。
誤解しないでほしいのは、ここは非常に住み良いマンションであること。
子育てには最高の環境だし、住んでいる方々も常識をわきまえた方が多い印象で数年過ごしていた。
この委員会だけが少し異様な空間なのだ。
互いに重箱のスミを突っつく指摘。
過去のことを蒸し返しながら相手の批判。
事実に基かず、推測や意見中心の演説。
・・・人間の本性とはこういうものなのか。
今まで付き合ったことのないコミュニケーションスタイル。
お笑い芸人の千鳥・ノブさんならためらわずに言っているに違いない。
「クセがすごいんじゃ!」
途中からメモを取る気力さえもなくなっていた。
*
結局、ほとんど何も決まらないまま保留となって委員会はお開き。
ドッと疲れが残った。
委員会ってこんな疲れるもの?
なんとなく話しかけやすそうな「やる気ない人」にこそっと聞いてみた。
「いつもこんな感じなのですか?」
初参加だった僕の質問の意図を、彼は汲み取ってくれたようだった。
こっそり教えてくれた。
「AさんとBさんが意見が合わなくてね。去年あたりからこんな感じなんですよ。僕も最初は引きましたけど、まぁだんだん慣れますよ。」
はぁ何か釈然としない、物足りない説明。
そして、彼はこう付け加えた。
「どっちにつきますか?」
いやいやいや・・・・(苦笑い)
世界はいろんな人たちがいて、価値観も様々だ。
同じ言語を使っているのに、通じ合えないことも多々あるもの、って思ってはいたが。
ほんとに、ある。
会社組織の中でのコミュニケーションって実は楽だった(んだな)。
もしも今いるコミュニティの中である能力が低いと悩んでいても、何かコンプレックスを感じていても、そんなに気にしなくていいのかもしれない。
その世界の中だけ、のことなのかも。
反対に、今のコミュニティのなかでイケてると思っても、あまり調子に乗らないでおきたいもの。
ちょっと空間と人が変われば、ちっとも通じない世界なんてそこらにあるんだから。
むしろそれが常態なのだ。
世界は会議室のように狭くて、海のように広い。(何のこっちゃ)
マンション理事委員会の任期は1年だが、途中参加の僕は約半年ほどでお役御免になった。
参加率は決していい方ではなかったけど、いい経験だった。
杓子定規な僕の頭や価値観が柔らかくなるきっかけとなったから。
いい意味で、開き直れた。
その頃から僕はビジネス書よりも、小説を手にするようになった。
小説を読むと、僕がまだ知らない世界について想像力をかき立ててくれる。
いくつになっても僕はまだ世界を広げたい。
最後になりますが、
みなさん、一度マンション理事会の委員になってみよう!
ではなくて、
どんな経験からでも学びに変えていこうね!
人生にムダはないから^^
それでは、また。
PS、
当時の委員の方々、時々エレベーターで会うと笑顔で挨拶を交わしています。
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