思い出しながら書くのは恥ずかしい


#映画にまつわる思い出

俺と志保(仮名)の話。

「映画にまつわる思い出」とのお題があったので志保との関係は映画にまつわる。と言えると思ったので書こうか。

俺の友人の啓太郎(仮名)と志保の友達の愛美(仮名)がとある出逢いから深い仲へと進む際に、照れ臭いのか何なのか、お互い友達を連れてきて4人で遊ぶ企画を建てた所から物語は始まる。

5月の日曜日の昼前に啓太郎から電話が入った。
「いやーすまんね?準備できた?」
「大丈夫。にしても遅刻魔のお前が時間通りとはなwまぁいいや、予定通り迎え頼むな。」
一週間前の電話の時に今日の企画を伝えられ、釣りに行こうかとぼんやり予定を考えていたが、仕方無しに協力を受け入れた。
啓太郎は高校の同級生で、変わっているが、かなりの良い奴である。企画を受け入れた理由は、滅多に頼み事をしない男からの頼まれ事だったので単純に嬉しかった。それと、相手の女性と俺は知り合いだった事も大きな理由だ。小学5年生で同じクラスだったが、同じ市内に転校していった愛美ちゃん。
俺の事を覚えているかはわからないが、お互いに連れてくる友達の詳細は秘密にしているらしいので、俺の顔を見たら「ええ!?」とビックリするのが楽しみだった。
もちろん俺にとっても愛美ちゃんの友達とは新しい出逢いなので悪い気はしない。

ピンポーンと呼び出され玄関を開けると啓太郎が少し変な表情だ。
「どうした?ウンコ踏んだ?」
「うん。両足で…いや、違う違う、三台前に愛美ちゃんらしき車走っててさ、裏のマンション(ここらでは賃貸アパートをマンションと呼ぶ)に停まったからさ、変じゃね?」
「まぁ確かに?聞いてみたら?」
「や、や、や、なんかストーカーみたいだからいいわ!」
偶然に啓太郎と愛美ちゃんの友達が近くに住んでたパターンも無くは無いが、偶然にもほどがある気もする。しかし現実と小説より奇なり。であり、奇であった。
これが俺と志保の奇妙な一致の始まりでもあった。まだ前に一致していた事もあるのだが、それはおいおいだ。

繁華街でノープランで遊ぶプラン。という事で大きめの駐車場に車を停め、啓太郎は愛美ちゃんに電話をかけた。
「もしもーし、あゆ?いまどのへん?……○○の駐車場ね?俺ら△△の近くだから、□□で落ち合おうか?」
こっちはストーカーのように後ろを走っていたので○○の駐車場に停めたのも知っている。白々しい演技をしやがる。既にあだ名で呼んでるのだが、何となく初々しさが心地好い。

□□は普通のカフェで、お洒落なカフェではない。啓太郎は人に合わせた店舗のチョイスが上手なので、愛美ちゃんは当時の飾らない明るいコの印象が、崩れていなさそうなので少し嬉しくなった。

「お待たせ~」と少し大きな声が懐かしい。
「あ、どうも、啓太郎です。こっちは友達の…」
「ええ!?」

あぁ…期待通りのリアクション…ありがとう。
「み、味噌!?胡麻味噌!?」
「だっはっはっはww久しぶり~」
「えー!?啓君、えー!?胡麻じゃんw啓君の友達って胡麻ー!?えーウケるーw胡麻ぁw」
と一盛り上がり。完全に置き去りの愛美ちゃんの友達はきょとんとしている。のではなかった。
「宮崎君?」
愛美はバッっと振り返り友達をデカイ目で見る。
「え?志保、啓君知ってるの!?」
「え?ええ?もしかして、もしかしてだけど…小川さん?」

啓太郎と志保は同じ塾だったらしく、狭い街ではよくある話なのだが、知り合いが知り合いでのノリだった。

カフェで長居する予定は無かったが、俺と志保以外は繋がりがあったので話は盛り上がり、3時のケーキまで居座ってしまった。

「こんな事あるんだねw」
と愉快な時間。そもそもノープランなのでそれでよかったのだ。

志保と愛美は同じ職場で同期で同い年なのでよっぽどの事がない限り仲良くなれるルートであり、ルートに乗りすぎて「何年来の友達?」ってくらい仲が良い。
アパレルの販売員なので、日曜日の休みは珍しいらしく、ショップの改装に感謝していた。それは俺も啓太郎も感謝している。

俺と志保は初めて逢った感じがしなく、啓太郎と愛美も驚いていた。
好きなモノや事、笑いのツボが非常に近く、感性やモラルまでが近いと感じる。もはや一致していると言えるのに時間は関係ないとすら思った。

「やっぱり!?なんか後ろの車、啓君っぽいなーって思ってたんだよねー」
「ああ、違くて、多分、志保の家、俺と隣かもって話」
「え!?迎えの時の話!?流石に気持ち悪っw」
「胡麻、もしかして朝さ…」
「!!だっはっはっはw」
「え、なになに!?」
「二人で盛り上がってキモいんですけどーw」
「やっぱりー!あれ最初は引いたけど、だんだん面白くなってきて、朝の楽しみになってるよw」
「めちゃわかるわwおばちゃんねw」
「そうそうそうwブレなさすぎてww」
「ちょっと、ホント何の話!?気になる!」
「いや、待って、アレだろ?胡麻の大家だろ?ただ汚いだけだったぞ?」
「なに、啓君も知ってるの!?ホント、なんなの!?」

俺と志保のアパートの大家は同一人物でアパートの裏にデカイ家に住んでいる。
雨や雪ではない限り、朝6:00に庭で体操をしていて、最後の締めに盛大に「カッーーーッペッッッ!」と痰切りをするのだ。すかさず奥さんが窓を開け、「お父さん!!やめてって言ってるでしょ!」と怒鳴る。
奥さんは痰切りを待ってるのではないかと思う程の速さで怒鳴るのが面白くて仕方ないのだ。
この面白さを共有したくて、啓太郎と宅飲みした際にわざわざ聞かせたのだが反応はイマイチだった。
「きたねーなー朝からよー」
沢山の笑いを共有してきた啓太郎にすら理解されなかった感覚を目の前の逢ったばかりの女性が。
俺は嬉しくて堪らなかった。
「や、マジ何の話!?」

「こんな喋るとか、学生かよーwって感じで楽しかったねー」
「確かにw」
「折角だから夜も食べようよ?」
「はい賛成!」

カフェから出て歩きながら同窓会の二次会に向かう初老かのような軽い足取りは楽しかったのを鮮明に覚えている。酒も入ってないし、まだ日も暮れていないのにだ。
「じゃーあ何食べるー?」
「そー言えば、俺、あゆに嫌いなものとか食べれないもの聞いてなかったよね?なんかあったりする?」
啓太郎と愛美は上手くいく。大丈夫だ。二人とも頗る性格が良い。そんな事を考えていると志保と目が合った。
こそっと小さく「ねっ!」と言う志保はエスパーなのかと思ったものだ。


数日後の夜にピンポーンが鳴る。 
ドアを開けると志保が紙袋を持って立っている。
「お疲れ、どうぞー」
「お邪魔しますーお疲れー」
お互いに映画をよく観ると解ると啓太郎と愛美そっちのけで二人で映画の話が止まらなくなり、愛美が「そんなにアレなら二人で観なよw志保いっぱい持ってるじゃん。家近いんだしwってか隣って、やっぱヤバw」
の当日だ。
「飯食べた?」
「ううん。胡麻も仕事終わりだから一緒に食べよっかなーって」
「おぅ、良い考え。気になってる店あってさー近くだから行かない?」
「ふむふむまたまた一致したねw」
「お!そこのちょい行った角!?」
「ご名答!」

 

食事を終え、観るDVDを選ぶにも困る。俺の手持ちと酷似している。
「被りすぎじゃないですか?先生?」
「はて…」
「借りに行こう!」
近くのレンタルビデオ屋で「ゴールデンスランバー」を借りた。堺雅人や竹内結子ら豪華キャスト。伊坂幸太郎原作でお互い初見だった。

面白くてビックリした。

当時、洋画を中心に観ていたのだが、邦画を見直した。志保も同じだった。そんなところまで同じだった。
翌日も仕事だっていうのに、夜中まで語り合った。

それから一緒にいる時間が長くなっていった。

とにかく一緒にいると楽しい。

専ら、夜に映画を観て感想戦なのだが、意見がブツからないのが唯一の悩みだった。

隣のアパートだからなのか、連絡先の交換はしていなかったのが少し面白い。

「パコと魔法の絵本」を観た時に同じタイミングでドパドパ涙を流し合った。
 
「愛しのローズマリー」でジャック・ブラックが顔芸した後の普通の表情で再生停止するほど笑い合った。

「きみに読む物語」で愛について語り合った。

「ミスターミセススミス」を観終わった時になぜが手を握った。
触れたのは初めてだった。
デコを重ねて爆笑した。
「おいおい、なんだよw」
「いや、そっちじゃんw」
「なんつーか、アレだよな。」
「うん。アレだね。」
『この映画の後かよ!』

付き合ってから連絡先を交換するのは結構珍しいのではないだろうか。

そこからも今までと変わらず、ご飯を食べて映画を観て語って、次観る作品をどうするトーク。
その後に一緒に寝る。というのが増えたのと、抱きしめたり、抱きしめられたり、撫でたり、撫でられたり。も、追加された。

啓太郎と愛美も付き合い始めた事もあり、有給を駆使して4人で旅行にも行った。
道内ばかりだったが、どれも一生の思い出になっている。

素敵な時間だった。

この幸せが続くのだと思っていた。



年齢的にも周りが結婚していく中で、漠然とした未来すら見えなかった。

ゼクシィのCMが流れると空気が変わる。

後になってこの時の話をすると、やはり同じ事を考えていた。
相手に何も問題がない。のが問題になっていたのだ。
今でも俺と志保は物凄く仲が良い。簡単に言えば親友なのだ。
当時からそうだったのだ。
性的な愛や欲も孕んだ親友。という歪な関係だったのだ。

あまりに似すぎた二人にはお互いがお互いを理解しすぎてしまうが故に苦しくなってしまう事が増えていった。
そもそも始めからそうだったのだが、見ないふりができなくなっていったのだ。

非常におかしな話なのだが、問題点がないのは問題点になってしまうのだ。 
 
好きなモノや事も、嫌いなモノや事も一致しすぎると、そこに二人いても一人の様な孤独感が生まれる。
「嫌いなモノが同じ。くらいがちょうど良いのかもね。」とこれも後になってお互いに話した。

共感した嬉しさを脳が「好き」と勘違いしたのだろう。と思う。あまりの嬉しさに脳がバグったのだ。

しかし、日常は変わらない。

ご飯を食べて映画を観て身体を重ね笑い合い泣き合う。

離し難いのだ。

唯一の理解者なのだから。

男と女である以上、この関係が終われば、一緒にいられないのだから。

啓太郎と愛美が結婚する事になったと報告があった晩にゴールデンスランバーを観た。

映画に力を借りた。

竹内結子がシーマンに「小さくまとまるなよ」と言われて別れを切り出したシーンを二人は待っていた。

「凄い幸せだったー本当にありがとう。…泣けちゃうね?」
「俺の方こそ幸せをありがとう。こんなの泣くだろw」
「まだ抱きしめても良いのかな?」
「さっきから先に言うのズリーぞ?泣くなよーもー」
「そっちだって泣いでるじゃんw」
「泣ぐ!今日は泣ぐ!」
「ふふwうん、泣こう!」


愛美に「あんたら何言ってんの!?いいから仲直りしなさいよ!!」「馬鹿じゃないの!?正直、ずっと嫉妬してんだから!私達も仲良いけど、あんた達ほどじゃないから、なんかモヤモヤーって!」と叱られた叱られた。最後は泣きながら「お願いだからやり直して…本当にお願い…」と泣き付かれた。
啓太郎は理解してくれた。愛美も何となくわかっても気持ちが追い付かないのだ。それもわかる。
「けど、嫌いになったんじゃねーなら別に今までと変わる必要なくね?そりゃ、エッチはダメだろうけど、それすらお互いが求めてたらアリじゃね?お前らの一番良い形を探す方が良いよ。世の中の慣例みたいなのに嵌まる必要はなくね?」
と啓太郎が上手くまとめてくれた。

一緒にご飯食べたり映画観たりは続いた。何日かは少し変な感じがしたが、それ以降は普通の日常の一部になっていった。
お互いに恋愛相談なんかするようになり、自然と一緒にいる時間は無くなっていった。

10年以上前の話。

今も4人は凄く仲良し。昔と変わらない。

志保は結婚して幸せに暮らしている。
志保の旦那を紹介したのは俺だ。
そいつは俺と志保の関係を全部知って、紹介して欲しいと言ってきた強者だ。
子どももすくすく育っている。
 
啓太郎と愛美は愛美の勘違いで離婚しそうになったが、誤解が溶けて無事回避。上の子どもは中学生だ。生意気にも俺に腕相撲を挑んでくる。来年辺り負けそうだ。

俺はバツイチ。二人の子の養育費の支払いにヒーヒーだ。
今のパートナーとは仲良くやってると俺は思ってる。連れ子もだんだんと生意気になってきて、可愛い限りだ。


「その瞬間瞬間の小さな幸せを当たり前と思わず、感謝の心を忘れない。してあげた事は忘れて、してもらった事は忘れない。そして、人に優しく。…ってこれができたら最高だけど、難しいよね~」
初めて逢った人にこんな事をスラっと言った志保。心から尊敬しています。格言聞かれたらパクらせてもらってます。

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