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chocolate9
【毎週ショートショートnote】半分ろうそく
あと半分.......、あと半分.......。
雲ひとつない空の下、子どもたちが賑わう公園のベンチに一人の男が座っていた。
防風ストールを羽織った40代後半の川戸守は、燭台の上にある火の灯ったろうそくを大事そうに見守っていた。
そのろうそくは既に半分まで溶けており、八重咲きの雛菊のように全方位均等に蝋が垂れ下がっていた。
「おじさん何見てるの?」
頭に長いろうそくと燭台を乗せた少年が、ジャングルジムから飛び降りて川戸に近づいてきた。
「自分のろうそくに決まってるだろ。あんまり近寄るな、土煙が立つ」と川戸は言い、少年を手であしらう。
「おじさんのろうそく綺麗だね」
少年は川戸の警告を無視して、ろうそくに顔を近づけた。
「やめんかい、このクソガキ。やっぱり外なんかに出るんじゃなかった」
「おじさんのろうそくあと半分もあるのにずっとじーってしてるの?」
「あと半分もあるからだろ。これだからクソガキは」
燭台を持ったまま立ち上がる川戸は、あまりの怒りに地面を強く踏みつける。
すると、その衝撃で起こった土煙が鼻を刺激し、思わず出たくしゃみがろうそくの火にかかってしまった。ろうそくの火が消えると同時に川戸守は煙となって消えていった。
少年は残った半分のろうそくをしばらく眺めて途中で飽きると、またジャングルジムの方へと走っていった。