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【SS】人工的な悪魔
その悪魔は僕の首根っこを鷲掴みにし、そのまま容赦なく地獄に引きずり下ろしていく。
何層にも重ねられた蜘蛛の巣が皮膚の裏側まではりついてくる。悪魔の手によって乗せられた巨大な鉄球は、僕の背中を貫通し、胃袋にもたれかかった。足を一歩踏み出すのにも、かなりのエネルギーを消費する。
悪魔はその様子を見て、声高らかに笑い出した。
その悪魔は定期的に僕のもとへやってくる。
罪のない僕に酷い仕打ちをしてくるその悪魔は、「月曜日の悪魔」という名で呼ばれている。
驚くべきことに、月曜日の悪魔は人がつくりだしたものだという。こんなにも凶悪な悪魔をどうして人間は生み出したのか、甚だ疑問である。
こいつの生みの親こそが本当の悪魔だ。
もし仮にこの悪魔を生み出した張本人を見つけたのなら、今まで受けてきた屈辱以上の苦しみを与え、一生後悔させてやる。
すると、僕の脳内を盗み聞きしていた月曜日の悪魔がニヤつきながら話しかけてきた。
「だとすると貴様はこれ以上の苦しみを受けなければならないな」
月曜日の悪魔は僕を見下しながら、またもや嘲笑した。
「な、なに、言ってるんだ。俺がおまえを生み出したとでも言いたいのか」
僕は息も絶え絶えに言葉を発した。
「そうだ。まあ厳密には俺の形をつくったのは過去の人たちでその形に魂を与え具現化させたのが貴様なのだがな」
「そんなの納得できるか。俺はおまえの存在を望んでいない」
「望んでいなくとも俺様がこうしてここにいるのが何よりの証拠さ」
僕は被害者でもあって加害者でもあったのか。
そんなはずはない。
否定したい現実を否定できない自分が悔しい。
自分をここまで恨んだことはない。
「自分がつくりだしたものに自分自身が苦しめられるほど滑稽なことはないな。まるでフランケンシュタインのようだ」
「俺はフランケンシュタインみたく意図的につくったわけではない。勝手におまえが現れただけだ」
「しかし俺様を生み出したことには変わりない。貴様は俺様を殺したいか」
「当たり前だろ」
「なら選択肢は2つだ。貴様が死ぬか、俺様をつくり直すかだ」
「つくり直す? どうやって」
「それは貴様自身で考えろ」
そもそも月曜日の悪魔をつくりだした自覚がないのだ。どうやってつくったかもわからないものをつくり直すなんて不可能だ。
重くのしかかる鉄球が胃袋を突き破ろうと蠢いている。
僕はいまどこに向かっているのだろう。
足場も悪く、目眩もする。
一歩一歩がさらに重くなる。
考えろ、考えろ。
あれから、体感では6年ほど経っている。
考えるのも疲れた。
そうだ。月曜日の悪魔を殺す方法はもう一つあるじゃないか。これでこいつともお別れだ。
僕は針山を抜けた先にある底なしの崖を目指し、戸惑いなく身を投げた。
「嘘つき!」
たどり着いた先にいたのは、またあいつだった。
「ようこそ本物の地獄へ。ちなみに俺様も本物の悪魔だ。貴様の望みどおり月曜日の悪魔は死んだから安心しろ」
「じごく……だと?」
「そうだ。貴様がこの道を選んだのだろ」
「違う」
「いい加減にしろ」
胃液を沸騰させられているかのように、体内から発する熱が全身を這い巡り、断続的な苦痛を与える。
「じゃあどうすればよかったんだよ……」
「答えはとっくにわかっていたはずだ。貴様に足りなかったのは行動だけだ」
「俺なんかが少し行動したって何も変えられないさ。実際月曜日の悪魔に囚われていない人がたくさんいるのも知っている。でもそれはそいつらが恵まれていたからだ。運が良かったからだ。この世は不条理で不平等でいつだって理不尽だ。平気で僕の翼を何度もへし折ってくる」
「貴様は何もわかっていない」
恐怖の根源のような目を持つおぞましい悪魔に、僕は呆気なく持ち上げられた。全身を拘束され、雑巾のように絞られると、ヘドロのような臓器を撒き散らし、花火のように消えていった。