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4Rを進化させる第5の「R」〜資本主義と環境を両立させるSDGs達成法

今年10月以降に冷蔵庫を買い替えると、都のエコポイントで4万円もお得になるというので、冷蔵庫巡りをしている若林です。

SDGsの取り組みとして「4R」という言葉がすっかり定着してきました。今回はその取組みを強力に後押しする第5の「R」について考察します。

SDGs達成のための根本治療

4つのRとは
「Refuse=(過剰包装など)余分なものをもらわない」
「Reduce=減らす」
「Reuse=繰り返し使う」
「Recycle=再利用する」

の頭文字ですが、最近はReform, Refine, Rental, Rebuyなど、5番目のポジションを狙ったアイデアがいろいろと提言されています。

ファッション業界では、パタゴニアをはじめとした企業が環境に優しいエシカル素材を使ったり、古着の取引が活発に行われたりとSDGs的に注目されるニュースも多いのですが、その一方では年間29億着の服が日本市場に供給され、その半分以上が売れ残り、多くが廃棄処分されているという不都合な現実があります。

この大量廃棄問題をなんとかしようと、売れ残った在庫を大量買付し、タグを外してアウトレットやネットで売るなどのニュービジネスがどんどん生まれています。ただ、エシカルな素材で服を作ろうが、リサイクルしようが、そもそも売れないものを作ってしまうプロセスにメスを入れないと問題は解決しないように思えます。では、もっと根本的に廃棄処分される服自体を減らすことはできないのでしょうか?その答えになるのが5つ目のRです。


未来を予想できる?

残念ながら、我々は未来を正確に予想できません。投資信託の敏腕ファンドマネージャーがどれだけ頑張っても、インデックスに勝てるのは半分ぐらいなのと同じで、小売りでも需要予想はなかなか当たらず、結果として大量の過剰在庫や欠品が発生します。

逆に言えば少しでも将来の予想確率がアップできれば大儲けできるともいえます。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』では、ドナルド・トランプがモデルともいわれるビフがタイムマシンで不正に入手したスポーツ年鑑を使って大儲けするシーンが登場します。まさに未来を知れば、成功できるという例を示しているのですが、いま未来を知るツールとしての期待されているのがAIです。

AIにビッグデータを学習させ、高速に分析させれば、将来をピタリと当てられるデジタルの水晶玉(クリスタルボール)は実現するのでしょうか?

週末のランチに何を食べるか?

ここ数年の生成AIの劇的な進化を見ると、未来を100%当てられるAIも夢ではないような気がします。ただ、現実には大きな壁があります。

たとえば、私は今週日曜日の昼に自分が何を食べたくなるかを、自分でも正確に予想できません。昨日買ったカップヌードルかもしれないし、家族でスシローかもしれない。過去の昼食データをAIに学習させば、予想精度は多少上がるかもしれませんが、それでも当たる確率はせいぜい10〜20%程度のような気がします。(トイレットペーパーなど消耗品を買う頻度だったら当たりそうですが。)私のような気まぐれな人間が、何百万人も集まって市場ができるのですから、予想が厳しいのも当然です。

第5の「R」で3つの予想をやめる

小売りの予想精度を上げるために、これまでの延長線上であらゆる変数をAIに学習させるデータドリブンなやり方もありますが、それとは逆の方法もあります。これが5番目のRである

「Restrain」(抑制する・やめる)

です。何をやめるのかといえば3つの「予想」です。

1)ビッグデータによる予想をやめる
2)現場での予想をやめる
3)長期の予想をやめる

1)ビッグデータによる予想をやめる

世の中のトレンド変化や、人の好みなど、ふわふわしたデータをAIに大量に学習させても、なかなか精度は上がりません。その代わりに、いままさに店舗で売れている商品のデータから「必要なデータ」だけに絞ってAIに学習させれば、直近の3〜4日間の需要予想の精度が格段にアップします。

この「必要なデータ」の計測する方法として、長年Min-MAX法というアルゴリズムで使われてきましたが、近年SN検定法*という新しい方法が開発されています。

*SN検定法=データからシグナルとノイズを選別する方法。詳しくはこちら

ホームセキュリティにたとえると、Min-MAX法は、少し前の防犯センサーのようなもので、感度が高すぎるとカラスが横切っただけでもアラームが鳴り、低すぎると侵入者を探知できません。この絶妙な調整が難しかったのですが、画像解析技術などによって劇的に改善しました。いってみれば、ガーベッジ(ゴミ)情報をカットするアルゴリズムが実装されたのです。SN検定もちょうどこれと同じで、販売予想に必要な情報”だけ”を効率的にAIに学習させられるので、少ないデータで劇的に賢くなるというわけです。

2)現場での予想をやめる

「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」というセリフは20年前(!)に流行ったテレビドラマ『踊る大捜査線*』の青島俊作刑事の言葉ですが、現場だけ見ていると逆に重要な情報を見落とすこともあります。(*シリーズ最新作「室井慎次 破れざる者」は今年10月公開)

ゴールドラットの調査によると、チェーンストアにおいて、特定の1店舗で売り切れている商品は、約70%の確率で他の店舗で在庫として余っています。下記は実際のチェーンストアにおける同じ商品の在庫状況データですが、このような在庫の偏在が起こるのは、リアル店舗に地域特性があるためです。

金の知恵入門「過剰在庫と欠品をアッという間に解消する『在庫管理の魔術』とは?」より

そこで「現場」である各店舗ではなく、中央で各店舗の実需をリアルタイムで集計し、統計的な集約効果に基づいて需要予想してすばやく配送する仕組みに変えれば、在庫偏在問題を綺麗さっぱり解消することができます。(もちろん配送コストは若干アップしますが、それを上回るキャッシュを生み出すことができます)

詳しくは「金の知恵入門」の在庫管理の魔術・全体最適のサプライチェーンシリーズ(小売/リテールビジネス)をご覧ください。

3)長期の予想をやめる

朝の天気予報で「お昼ごろにわか雨が降るでしょう」と言われたら、多くの人は傘を持って出勤しますが、「2週間後の月曜に雨が降るでしょう」と言われても、なかなか信じるに気になれません。時間が経てば経つほど、多くの変数の影響を受け、予想の精度が落ちるからです。

同じように、4月の時点で、今年の秋に赤いフリースがいくつ売れるかどうかを当てるのは至難の業ですが、明日いくつ売れるかは、ここ数日の売上データを見れば、かなり正確に予想できます。ではなぜ、みんな直前に予想しないのでしょうか?

それは時間がかかるからです。商品の製造から配送までにかかる時間=「リードタイム」を2ヶ月から2週間にできれば遠い未来を予想はしなくても、直近の販売実績を見ながら、生産調整できます。このリードタイムの短縮の鍵を握るのが「制約(ボトルネック)」であり、ZARAなどの成功要因はまさにここにあります。

まとめ(環境と儲けは両立できる)

「SDGsは大事だとは思うけど、環境問題を気にしすぎて儲からなかったら元も子もない。」

こんな本音がちらほら聞こえてきますが、今回ご紹介した「Restrain(止める)」は、SDGs達成と企業の儲けの両立を実現します。

「ビッグデータによる予想をやめる」
「現場での予想をやめる」
「長期の予想をやめる」

ための具体的ヒントは、いずれも、最新刊『ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術』で、物語の形で描かれています。

モノを作ったり、販売したりしている人には、ほぼ100%何かしらのヒントがある一冊ですので、2,200円の自己投資としてお得です。

いまなら同書に同梱されているチラシのQRコードで、著者の講演映像も特典で見られますのでお見逃しなく!

執筆者プロフィール:
若林計志 (Kazushi Wakabayashi)
 
ザ・ゴール研修」「ザ・ゴール エッセンシャル講座(個人向け)」開発運営責任者、ゴールドラットチャンネル総合演出。学生時代、予備校のオンライン授業のあまりの面白さに大きなショックを受けて以来、世の中の「つまらない授業」の撲滅を目指し、MBAプログラムをはじめ、様々なオンライン講座プロデュースを手掛ける。著書に『MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み』(PHPビジネス新書)などがある。