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科学的思考法~問題の裏返しが解決策(最善解)ではない~

在庫のさんすう・売上げを最大化する秘訣 ①

在庫を押し込むだけでは儲けられない理由

利益率を2%から8.8%に上昇させた具体策をドラマチックに描写します。

20の店舗と1つの倉庫を所有しているアパレル小売会社の話です。
シーズン開始に合わせて、商品が倉庫に集まってきます。商品は開梱され、各店舗ごとに梱包し直され、出荷されます。一連の作業が終わると、倉庫は空になります。

このオペレーションは、コストを抑えるのに適しています。その理由は

1)1シーズン分の物流作業(開梱、梱包、配送)を1回にまとめることができる
2)倉庫にモノを置き続けることはないので、保管費用を抑えることができる

からです。頭の中では、こんな「さんすう」が働いているのではないでしょうか。

売上げ ― コスト = 利益
⇒ 売上げが変わらず、コストが小さくなれば、利益は増えるはずである。

ですが、「さんすう」をやり直したら、売上げが15%上がり、在庫回転率は30%向上、そして利益も増えました。具体的には以下の通り。

売上げ50億円、営業利益1億円だったのが、
売上げ57.5億円 営業利益5億1000万円 になったのです。

どうやったのか?
実は、コストを1億円余計に使ったのです。

倉庫に入ってきた商品は、シーズン前には、半分だけ店舗に回しました。残り半分の在庫は、各店舗、各商品の売れ行きを見ながら、欠品が少なくなるように、必要な店舗に配るようにしました。

倉庫在庫を出し切ったシーズン終盤では、改めて各店舗の在庫状況を把握しながら、在庫が多すぎる店舗から足りていない店舗に商品を移動するようにしました。

以上の作業にかかった物流コストの追加分は1億円です。

ですが、このようにやり方を変えたことで、売上げが劇的に改善しました。

従来のやり方では、店舗に納めた商品在庫の総数と、実際に売れた販売総数に乖離が生じていました。すなわち、ある店舗では過剰在庫が発生しており、ある店舗では品切れ(欠品)が発生していたのです。結果として欠品率が12%にもなっていました。

ところが、先のようにやり方を変えて、在庫の半分の商品を必要としている店舗に納めることにしたら、欠品率が7%に下がりました。
さて、欠品率が12%から7%へと改善したら、売上げも5%増えると思われますか?

ところが、売上げは15%伸びました。

その理由は2つあります。

1.欠品していたのは、平均よりも早く売れる「売れ筋商品」だったから。
2.店舗のバックヤード在庫がスッキリし、品出し作業が軽減され、接客に回せる時間が増えたから。

Before
売上げ ― コスト = 利益
50億円 - (16億円+33億円) = 1億円
*16億円は50億円の売上げを稼ぐための商品コスト、33億円はその他の業務費用です。

After
売上げ ― コスト = 利益
(50億円+7億5000万円) - (18億4000万円+34億円) = 5億5000万円
*18億4000万円は57億5000万円の売上げを稼ぐための商品コスト、34億円はその他の業務費用です(1億円アップしました)

あえてコストを追加することで、それ以上に売上げを増やせることに着目したことがポイントです。

◆参考データ:財務状況 Before / After
売上げ  50億円⇒ 57億5000万円
売上原価 16億円⇒ 18億4000万円(原価率32%)
業務費用 33億円⇒ 34億円
営業利益 1億円 ⇒ 5億1000万円
利益率  2%  ⇒ 8.8%

シンプルな「さんすう」なのですが、どこに見落としがあったのでしょうか?
物流費用は売る前からわかっているので、なるべく安くしようと考えがちです。ですから物流部門では、物流費用を下げることが仕事になっていることがあります。

一方で、物流オペレーションのやり方次第で売上げが増えることに気づきにくいという罠があります。

◆ 調べてみよう
□ シーズン分の在庫の大半をいっきに店舗に押し込んでいますか?
□ 物流費用を抑えるための、まとめ作業をやっていますか?

当てはまるならば、もしかしたら、さらに儲ける方法があるかもしれませんよ。

ここで、「本当に売上げが15%も上がるの?」という疑問を抱かれるかもしれません。これについては、次回、議論していこうと思います。

次回は、その2:「機会損失」はどれくらいあるのか、です。

執筆者プロフィール:飛田 基(とびた もとい)
宇宙飛行士を目指し、米国フロリダ大学で化学物理学のPh. D(博士号)取得。AI黎明期の研究やシミュレーション技術に従事してきた。「儲けのクリエイター」の二つ名を持つ科学者であり、その数学的知見と、ゴールドラットグループで得た製造業、小売業の経験が、在庫運用ソフトOnebeatのコアエンジンに活かされている。科学的思考法を用いて、儲けを最大化する全体最適のオペレーションを啓蒙し、時代をアップデートしようと日々活動している。子どもの教育、研究開発、スポーツ指導の分野においても、既存の考え方を打破するブレークスルー思考の実践者である。