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在庫管理力アップでROE革命【『在庫管理の魔術』連載】

地味に思われている在庫管理という仕事ですが、実はビジネスのおける稼ぐ力を示す「営業利益」の改善・向上に大きく貢献します。在庫管理能力に優れた会社では、こんな好循環が形成されています。では、在庫回転率を起点に考えてみましょう。

 在庫管理能力が高いということは、商品の「売れ逃し」が少ないことにほかなりません。言い換えれば「欠品リスク」が低い。欠品は販売機会の損失につながり、売上げの減少を招きます。

 欠品リスクの低減は在庫回転率の向上につながります。在庫回転率が高くなれば、さまざまな在庫管理コストが圧縮・削減されます。最近のサステナビリティへの要請から、まず「廃棄コスト」が減少することを申し上げておきましょう。言うまでもなく、売れ残った商品は早晩廃棄しなければなりません。その結果、コストを発生させるばかりか、世界的なアパレルメーカーが商品の大量廃棄で非難されているように、安易な廃棄は社会問題になっており、レピュテーションリスクを顕在化させかねません。そのマイナス影響の詳細はここでは割愛しますが、間違いなく企業価値を毀損する行為です。

 次いで、「保管コスト」です。倉庫の賃料や光熱費、人件費などに分解できますが、倉庫にまつわるコストはばかにできません。製造業にお勤めであれば、一度自社の倉庫を見学に行かれることをお勧めします。そのうず高く積もれている在庫の山を見て、びっくりすることでしょう。

 最後に、商品にしろ資材にしろ時間の経過とともに劣化していきます。また、ヒット商品には必ず「旬」というものがあって、いずれ売れなくなります。当たり前のことですが、商品には寿命があるのです。これは「損傷リスク・陳腐化リスク」と呼ばれ、ついには、先ほど申し上げた廃棄コストを伴います。

 在庫管理能力に優れていれば、これら一連のコストやリスクを最小化することが可能です。さらには、「資金繰りの改善」にもつながります。たとえば在庫回転率が高いと、在庫がいち早く現金化されることになります。それは売上代金の早期回収であり、キャッシュフローの増加を意味します。この潤沢なキャッシュフローを活用して、新商品開発、既存商品の改良などに投資できるようになるという「好循環」が生まれるわけです。その結果、資金コストが下がり、営業利益・営業利益率のみならず、多くの経営者が気にしているROEも向上します。要するに、在庫管理能力は「稼ぐ力」の要なのです。

 一方で、在庫管理に汲々とするよりも、ヒット商品が一発出ればすべて解決という楽観論もありますが、在庫管理能力に乏しい会社に、ある日突然天の恵みがやってくると、えてして過剰生産(売れ残り)や欠品(売り逃し)がかなりの確率で生じます。出版社は流通の問題からヒット作が出ても実は赤字だったという話が絶えないはそのせいです。

在庫管理能力の向上がROE上昇につながる

 なお、ここでは在庫回転率を起点に考えてみましたが、回転率を上げるには、需要予測の精度を向上させる、購買や物流業務を効率化する、販促活動を強化する、巧みな価格政策を導入するなどの施策が欠かせないと指摘して締め括りたいと思います。◆ 


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ゴールドラット経営科学研究所 主席研究員
岩崎卓也 いわさき・たくや

休刊寸前だった『DIAMONDハーバードビジネスレビュー』を立て直し、同誌の編集長を足掛け15年間務める。その後『ダイヤモンドクォータリー』を創刊し、編集長と7年間務め、現在論説委員。30代前半、日本でコーポレートアイデンティティ(CI)活動を最初に手掛けた元東レの佐藤修氏、当時マッキンゼー・アンド・カンパニーのディレクターの横山禎徳氏(故人)、江副浩正氏のブレーンを務めていた横山清和氏の3人から、奇しくも同時期に「1日3冊」の読書を勧められ、3年間ページをめくり続けた。その反動から、いまでは漫画をこよなく愛す。