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最低賃金を下回る大学非常勤講師の給与
今回は、わたしが大学教員として働いた経験を通してのお話です。
大学には非常勤講師という仕事があります。これは、その大学の常勤の教員では賄いきれない科目や専門知識の領域の授業を行なってもらうことを目的に、大学が独自に雇用するものです。
この大学非常勤講師の給与体制には問題があると思います。それについて、少し今日は書いてみたいと思います。
本日のメッセージ
「講義をしている時間だけに給与を支払うのは、妥当ではない。その準備に対しても報酬を支払うべき」
非常勤講師の給与とは
非常勤講師の給与は大学によっても、そして教員本人の経験や業績によっても異なります。しかし、おおよそどの大学でも教授となれば最低でも1時間5500円は下回らないと思います。
大学では1コマ90分の講義が普通です。そして1コマを2時間と換算するのが通常ですので、1コマの講義を担当すると約一万円ちょっとは給与として支払われるということになります。
これだけ聞くと、ああそんなにもらっているのか。であればいいじゃないかと思われかもしれません。
実はこれでは不十分だとわたしは思います。なぜか。
実際に教壇に立って講義をする時間は90分です。しかし、この90分の講義の準備のために教員は何時間もかけています。
専門分野だからといって、何も準備せずに講義ができるわけではありません。社会の変化は激しく、そのために毎年新し情報を収集し、それを分析して学生へ伝える内容を取捨選択し、そしてそれをどういう方法で伝えると最も効果的なのか、ということを考えることが必要なのです。
もしこの時間に10時間使ったとすれば、講義の時間2時間(90分)を合わせて12時間の時間の報酬が支払われて然るべきです。
この12時間で計算すると、11000円もらったとしても、これを12で割ると、時給916円となってしまます。これは、東京都の2022年の最低賃金の1072円を下回ってしまいます。
なぜ非常勤講師の給与が職員間で問題にならないのか
わたしは大学に20年以上勤めていました。この中で、他の大学へ非常勤講師で出向くことはよくありました。
この時は非常勤講師として支払われる給与の低さが気にならなかったのです。なぜか。
それは、自分が常勤教員として働いていたからです。常勤講師として働いていれば、自分の勤務の時間内に他の大学の講義の準備をすることができます。それは、図らずとも自分の大学の学生へ教えることとそれほど違いがなく、つまり、あえて他の大学の学生のための準備とはならないからです。
つまり、他大学の講義の準備の時間は自分が勤めている大学の仕事でもらう給与で保証されているということになります。
ですから、他の大学へ出向いて非常勤講師をすることは副業みたいなものですね。つまり、取り分が増えて、得をした気分になるのです。
しかし、これが常勤の大学教員でない人が非常勤講師を受けると、上に書いたように大きな「持ち出し」つまりタダ働きのようになってしまうのです。
カナダの大学の非常勤講師
非常勤講師の賃金について、わたしが関心を持つきっかけとなったのは、カナダの大学の非常勤講師の給与を知ってからです。
わたしの母校であるトロント大学で非常勤で教授をしていた友人は「金融学」が専門です。他の州立大学の常勤の教授でしたが、それをやめて非常勤となり、年間に5つか6つの科目を教えて、それで生計を立てていました。
イギリスのケンブリッジ大学を主席で卒業し、アメリカのカリフォルニア大学バークリーで博士の学位まで持っているのに、わざわざ非常勤講師になるなど、わたしには意味がわかりません。
また、わたしは日本の非常勤講師の給与を頭に描いていたので、そんなので家族もいるのに生計が成り立つのかと疑問に思っていました。
しかし、ある時わたしの指導教授から非常勤講師の給与の話を聞く機会がありました。
指導教授によると、カナダ(トロント大学)では教育経験の浅い講師レベルでも、非常勤講師として1科目を担当すると、それに対し日本円で150万円くらい支払われると聞いたのです。
最初は何かの間違いかと思いました。カナダの大学院の講義は1回の時間が3時間のものが多かったです。そして、1科目で15回実施するというのが相場でした。回数は同じでも、1回の講義時間が日本の講義の倍にはなります。
日本の非常勤講師の賃金と比較すると150万とは非常に大きな額です。これをもし15回で割ると、1回の講義に10万円支払われていることになります。もし、1回の講義に10時間の準備をしたとすると、時給が一万円です。もし、20時間準備にかかったとしても、時給5000円です。
つまり、カナダでは講義の準備の時間に対して正当な額の賃金を支払っているということになります。これが経験の浅い教員の給与なのです。もし、教授レベルになると、200万を超えていると言われます。
これで、わたしの金融学の友人が常勤から非常勤講師となった理由がわかりました。つまり、年間5〜6つの科目を担当することで、常勤の教授と変わらない給与を手にすることができるということです。
その友人曰く、常勤だと大学運営に関わる責任があるが、非常勤講師はそれがなく、煩わしさがなくて、良いといっていました。
人生を謳歌している感じでした。
学位を持った人たちに対する正当な評価
この差はなぜ起こるのかということですが、これはいろいろな歴史的経緯があると思うので、わたしには正直その差のある理由は分かりません。
ただ、カナダに住んで思ったのは、日本とカナダでは学位を持って仕事をしている人たちへの評価が違うということです。
日本では、非常勤講師に限らず、博士の学位を持っている人たちへその学位に見合う仕事先が、つまりポジションが大学以外にはほとんどないことも問題であると思います。
カナダの学位の取得は社会から正当に評価されていると思います。ですから、いろいろな部署での活躍が期待されます。
NPOや老人ホームの経営などにも、修士や博士を持った人たちが活躍しています。これはその学位からより効果的な役割を果たしてもらえるという期待があるからです。
そのため大学院での教育も、より実社会との関連性が強いと思いますし、また社会に貢献できる人材育成という意味合いが日本よりもずっと強いと思います。
日本は、学術的専門性は追求するが、それが社会との結びつきが不明確であり、そのために博士を持っていると「頭でっかちで役に立たない」と企業から思われている節もあります。
日本では大学の方が、社会で活躍できる人材を送り出すための教育をしていないということもあるのではと思います。
イタチごっこのようで、社会から期待されないと、大学での教え方も変わらないということでしょうか。
ここが変わってくることにより、学位を持った人たちの社会的地位も上がり、そうすることで、非常勤講師を選ぶよりも、社会でもっと生き生きと働くことができます。
そうすると、もっと非常勤講師への評価が上がり、そして給与も上がるような気がします。
ではでは