私の留学体験記(2) 英語で話せるようになるまで
留学体験記の2回目は、全く英語が話すことのできなかった私が、なんとか話せるようになるまでにどのような経過をだどったのか、また私が工夫したことについて、お話しします。
1:トロントに到着
関西空港からカナダのトロントまで1999年当時は直通便が飛んでいました。飛行時間は約15時間。機内はほぼ日本人でした。
この出国の時から私は不安を覚えていました。なにしろ、今まで海外といえば仕事で中国にいっただけ。英語圏の国にそれも一人で乗り込むなんて、もう本当に不安だらけでした。
内心「なんて無謀なことをしようとしているのか」と思い始めていました。
機内にいるときから、自分の英語力に失望していました。事前に英会話学校に数か月通っていたものの、機内でキャビンアテンダントにコーヒー一つうまく注文できなかったからです。
ああ、私の発音ではコーヒーや水さえももらえないのか。なんだか、小学生に戻った気分でした。いままで39歳まで大学の教員として働いてきた私には、とても衝撃的なことでした。
そうこうするうちに、飛行機はトロントの国際空港に到着し、私は無事入国手続きをすませることができました。そして、そこから事前に調べていた方法で、バスと地下鉄を使って目的地の大学の寮まで何とかたどり着きました。
寮についた時は、もう夜の10時を過ぎていました。周囲はすっかり暗くなっていて、無事たどり着いた時にはほっとしたことを覚えています。
しかし、この晩から私の異国の地で一人で生きることの不安は爆発します。
宿舎に到着したはいいものの、自分の部屋に寝具がないことに気がつきました。私の部屋には木のベッドと机があるだけで、ベッドの上にはマットも布団もなかったのです。
「えっ、もう夜なのに寝具もないの?」
さあ、これから英語で布団を借りる交渉をしなければいけません。
私はさっそく受付にもどりスタッフに尋ねることにしました。
事前に調べていた「布団」という英語を言い、貸してほしいという意図を伝えました。
しかし、発音が悪いため私の英語は受付のスタッフには全く通じませんでした。しばらくなんとか、あれやこれやと試しましたが、結局「布団がほしい」という私の意図は通じず、その晩に布団をかりることができませんでした。
私は手ぶらで部屋に戻りました。5月のトロントは夜は5度まで温度が下がります。室内でもとても寒いのです。エアコンはなかったのです。
マットレスも布団もなく、木の上に私はこのまま寝るのかと途方にくれました。しかたありません、私は自分の持ってきた服をすべて引っ張り出し、それをばらばらと自分の体の上にかけてその晩は寝たのです。
情けないやらくやしいやら。
こんなことで、これから先どうなるのだろう。
トロントについたはじめての夜は、泣きたい思いで夜をすごしました。
2:英語の学校でのできごと
翌日は同室のカナダ人にカタコトの英語で自分に布団がなかった事実をつたえ助けを求めました。すろとそのカナダ人は、近くにホームセンターがあるので買いにいったらどうかと勧めてくれました。
そこで、私はさっそく歩いて10分ほどのその店に行き、安い布団を買うことができました。後からわかったのは、買わなくても寮から借りることができたのですが、当時の私はそれすら情報を得ることができませんでした。
なんとか寝具を確保した私は、次に語学学校です。
ここでの入学手続きはすんなりといきました。
しかし、語学学校ははじまってからが大変でした。
ここでも、英語が話せないために情けない体験の連続でした。
まず、最初の失敗は私は大学に入学するためのTOFELの点数を向上させることが必要と思い、そのクラスにエントリーしていたことです。
はじまってすぐにわかったのですが、レベルが高過ぎたのです。私は、その授業にほとんどついていくことはできませんでした。
インストラクターが何を話しているのかよくわからなかっただけでなく、たとえわかった時でもその返事を英語で返すことができませんでした。
ある時インスラクターが、私たち学生に「あなたの問題は何か説明しなさい」と課題をだしました。
その質問に私がたどたどしい英語で答えたのは、 " I have problems, but I can't explain." です。つまり、「私には問題がある、でもそれを説明できない」。
これにはインストラクターも苦笑いしていました。一方、クラスメイトは、皆流暢に英語で回答をしていて、ただただ私にはうらやましかったです。
情けない思いはしましたが、落ち込んでいる暇はありません。
自分ができない現実を受け止め、1か月ごに私はクラスをTOFELから英会話のクラスに変更してもらうことにしました。
そして、クラスの振り分けテストの結果、私はもっとも低いレベルのクラスだったのです。
そのことを知った時、恥ずかしいと言うよりも安堵感が大きかったです。
TOEFLのクラスで答えられない恐怖感を思えば、情けないと言うよりも「助かった」と思い一から頑張ろうと気持ちを切り替えることができました。
3:私が工夫したこと
このような全く英語を話せなかった30歳代後半の私が、英語を上達させるために、英語の勉強以外に工夫した点が2つあります。
一つ目は、なるべく日本人以外の友人を作ることです。なるべく日本人とは一緒にいないようにしました。
皆さんは、寂しいので日本語を話したいと思い日本人と仲良くしたいと思うかもしれません。
でも私には大学院に入学するという明確な目標があり、仕事をやめてきている以上はとにかくはやく英語を上達させなければなりません。
そのために、私は日本人と集まることを極力さけました。もし日本人同士で会話をしてしまうと、英語で話す機会が減ってしまいます。
韓国、メキシコ、タイ、ブラジル、中国、ヨルダン、ペルー、台湾、香港などから来た友人といつも一緒に話をしたり、ごはんを食べにいったりしました。
もともと私はあまり人と集まって何かをするのが得意ではないのですが、それでも意識してなるべく一緒にでかけるようには努力しました。
かなり年齢のはなれた私からすると自分の子供のような年齢の留学生も多かったです。話も合わないこともありましたが、そこは割り切っていこうと考えていました。
2番目は、なるべくカナダの人たちの生活の特徴を積極的に理解しようとしたことです。
例えば、大学の寮からでてカナダ人の家をシェアさせてもらいました。そうすることで、カナダの人どのような家にすんでいるのか、どのようなコミュニティを作っているのか、人間関係の構築のしかた、など基本的な文化を理解することができます。
これは英会話をする時に多いに役にたつと考えたからです。
その国にすんでその国の言語で会話そする時には、当然その社会の文脈にそって話が進みます。となると、その文脈を理解しておくことができれば、相手の会話の内容を推察することが可能になります。
これはボキャブラリーが貧困な段階で会話をする際にとても役にたちます。
日本語でもそうだと思いますが、会話において人々はすべての言葉を一語一句正確に聞き取って理解しているというよりも、その会話の成立する背景や前提をしっているから、その話す内容をかなりの部分事前の想像することができ、そのために会話の流れがスムースにいくのだと思います。
そこで、私は自分の英語能力の低さをの社会的文脈を理解することで、補おうと考えていました。
ですから、食事も日本食を食べるのではなく、なるべくカナダの人たちが風通に食べているものを食べてみようと思いました。
カナダの人がたくさんいるお店やカフェにいって人間観察もしていました。
だから、カナダの人と家をシェアすることはとても役に立ちました。
4:不完全でも自信をもって話そう
日本を出発する前に、多くの人から英語について、「6か月経てば、最初は雑音にしか聞こえないラジオの音が意味をもって聞こえてくるようになる」と言われていました。
しかし、これは私には全くあてはまらなかったです。半年たっても、ラジオから聞こえてくる声は雑音でしかありませんでした。
きっと20歳代の人であれば、半年でこのレベルに到達するのかもしれません。40歳に近い私には全く無理でした。
カナダに住み始めた最初のころは、いったいいつになったら英語がスムーズに話せるようになるんだろうと不安になったことも多々あります。
でも、これは時が努力を続けながら時を待つしかないかなと思います。
私自身では、1年すぎても、まだ私の英会話能力は「だめだ」と思っていました。ただ、周囲からは「もう十分話せるのにない躊躇してるの」と言われるようにいつのまにか、なっていました。
振り返って思うのは、世界から留学生がきてなれない英語を話します。
でも、私は多くの留学生が、全然物おじせずに英語で会話をしたり発表するのをみてきました。
この人たちの英語の発音では完璧ではありませんが、皆全然躊躇していません。それどころか、そんなこと気にせずに自分の意見をどんどん主張します。それは本当に自信に満ち溢れていました。
そして、その方が聞いている側も安心しますし、感じがいいです。
日本人は「綺麗な英語」という理想の姿をつくり、そこに到達していないとダメだと思い、ついつい「私は英語がうまく話せないのですが」と前置きしがちです。
これは良い印象を周囲に与えません。
もちろん正確な英語を話そうとする努力は必要です。
ただ、完璧な英語の話し方を目指すよりもトライアンドエラーで、どんどん実践していくことの方が早く英語の話す力は上達します。
そして、「自信ないな」と思ってもそれは隠して、いかにも自信があるぞという風に話すことも一つのやり方だと私は思います。
そうするうちに、確実に実力がついてきます。
ということです。
ではでは。