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研究計画書の書き方#2 「研究の背景」をどう書いたらいいのか?
今回は、研究計画書の最初の重要な項目である「研究の背景」の書き方について説明します。研究の背景には、自分の研究のテーマについて書くことになりますが、「どのように書けばよいのか?」と迷うことも多いでしょう。
他の研究を参考にしても、何をどのように書けばよいのか、はっきりしないことがあります。そこで、今回は研究の背景に含めるべき内容と、その書き方について詳しく解説します。
研究の背景に含めるべき内容
研究の背景には、以下の内容を含めることが必要です。
自分の研究の課題にどれほど意義があるものであるか(課題の重要性)
自分の研究の課題について先行研究はどのようなものがあり、どのような結果がでているのか(先行研究の整理)
自分の研究の目的と新規性(あるいは独創性)は何か
自分の研究の意義は何か(研究成果の活用と社会的貢献)
特に、研究の目的は別の項目として記載することもありますが、「研究の背景」の欄でも自分の研究が目指す方向を示すことは重要です。では、具体例を示しながら、それぞれの項目について、具体的にどのように書けばよいのかを説明していきます。
例として取り上げる研究課題を以下の内容としてみます。
研究課題(例):「看護師の仕事の満足度と離職率の関係性についての研究」
1.自分の研究の課題の意義を伝える
この課題例の場合、最初の段落では次のように書くことができます。
「近年、医療現場における看護師不足が深刻な問題となっている。厚生労働省の統計によると、看護師の離職率は年間約10%で推移しており、特に経験3年未満の若手看護師の離職が目立つ。この状況は医療の質の低下につながる可能性があり、早急な対策が求められている。一方で、看護師の仕事における満足度と離職との関係については、まだ十分な研究が行われていない。」
この書き方のポイントは、「統計データ」「現状の問題点」「対策の必要性」「研究の不足」という順序で論理を展開していることです。最初に具体的な数字を示すことで、問題の深刻さが読み手に伝わります。
また、「早急な対策が求められています」という表現で、研究の緊急性を示し、「まだ十分な研究が行われていません」と研究の必要性につなげています。このように、社会的な課題から研究の必要性まで、段階的に説明することが重要です。
2.先行研究について書く
次に、先行研究について説明します。ここでは、自分の研究に関連する重要な研究を選んで紹介します。
「看護師の離職に関する研究では、山田(2020)が労働時間や給与などの労働条件との関連を指摘している。また、鈴木(2021)は、職場の人間関係やコミュニケーションの重要性を明らかにしている。しかし、これらの研究では仕事の満足度という観点からの分析は十分に行われていない。特に、若手看護師に焦点を当てた研究は限られている。」
先行研究を紹介する際の重要なポイントは、単なる要約に終わらないことです。この例では、まず重要な先行研究を時系列で示し、それぞれの研究で明らかになったことを簡潔に述べています。
そして重要なのは、「しかし」以降の部分です。先行研究の限界を指摘することで、自分の研究の必要性を導き出しています。特に「若手看護師に焦点を当てた研究は限られています」という指摘は、次の研究目的の説明に自然につながっています。
3.研究の新規性と目的を示す
先行研究の限界を踏まえて、自分の研究の新しさと目的を説明します。
本研究では、特に経験3年未満の若手看護師に注目し、仕事の満足度の構成要素を明らかにするとともに、それが離職意思にどのように影響しているのかを検討する。これまでの研究では見過ごされてきた若手看護師特有の課題に焦点を当てることで、より効果的な離職防止策の提案につながることが期待される。」
この部分で重要なのは、先行研究の限界を踏まえた上で、自分の研究が何を明らかにしようとしているのかを具体的に示すことです。「特に~に注目し」という表現で研究の焦点を明確にし、「これまでの研究では見過ごされてきた」という表現で新規性を強調しています。さらに「より効果的な離職防止策の提案につながる」と、研究の実践的な価値も示唆しています。
4.研究の意義を伝える
最後に、この研究がもたらす意義について具体的に示します。
「本研究の結果は、若手看護師の離職防止に向けた具体的な施策の立案に活用できる。例えば、満足度を高める職場環境の整備や、若手看護師に特化したサポート体制の構築などが可能となる。また、看護師の働き方改革を進める上での重要な示唆が得られると考えられる。さらに、医療の質の維持向上という観点からも、本研究は重要な意義を持つ。」
研究の意義を示す際は、具体的な活用方法を示すことが重要です。この例では、「具体的な施策の立案」「職場環境の整備」「サポート体制の構築」など、実践的な活用方法を具体的に示しています。
さらに、「医療の質の維持向上」という、より広い社会的な意義にも言及しています。このように、研究成果の具体的な活用方法から社会的意義まで、段階的に示すことで説得力が増します。
さて、完成例を以下に示してみます。
研究の背景(完成例)
テーマ:看護師の仕事の満足度と離職率の関係性に関する研究
近年、医療現場における看護師不足が深刻な問題となっている。厚生労働省の統計によると、看護師の離職率は年間約10%で推移しており、特に経験3年未満の若手看護師の離職が目立つ。この状況は医療の質の低下を招く可能性があり、早急な対策が求められている。一方で、看護師の仕事における満足度と離職との関係については、十分な研究が行われていない。
看護師の離職に関する研究では、山田(2020)が労働時間や給与などの労働条件との関連を指摘している。調査の結果、夜勤回数が月10回を超える看護師の離職率は、それ以下の看護師と比較して1.5倍高いことが明らかとなった。また、鈴木(2021)は、職場の人間関係やコミュニケーションの重要性を示し、特に上司からのサポートが不足していると感じる看護師の離職意思が強いことを報告している。しかし、これらの研究では仕事の満足度という観点からの分析が十分に行われておらず、特に若手看護師に焦点を当てた研究は限られている。
本研究では、特に経験3年未満の若手看護師に注目し、仕事の満足度の構成要素を明らかにするとともに、それが離職意思にどのように影響しているのかを検討する。具体的には、仕事の満足度を「業務内容」「労働条件」「職場環境」「キャリア展望」の4つの側面から多角的に分析し、それぞれの要素が離職意思にどの程度影響を与えているのかを明らかにする。これまでの研究では見過ごされてきた若手看護師特有の課題に焦点を当てることで、より効果的な離職防止策の提案につながることが期待される。
本研究の結果は、若手看護師の離職防止に向けた具体的な施策の立案に活用できる。例えば、満足度を高める職場環境の整備や、若手看護師に特化したサポート体制の構築などが可能となる。また、看護師の働き方改革を進める上での重要な示唆が得られると考えられる。さらに、医療の質の維持向上という観点からも、本研究は重要な意義を持つ。特に、高齢化が進む日本の医療現場において、熟練した看護師の確保は喫緊の課題であり、本研究の成果は持続可能な医療体制の構築にも貢献すると考えられる。
このように、
問題提起(社会的背景と研究の必要性)
先行研究の紹介と限界の指摘
研究の目的と新規性の提示
研究の意義の強調
という流れで論理的に展開するとわかりやすくなります。
以上のように、研究の背景の各要素は、それぞれが独立しているのではなく、論理的なつながりを持って展開されることが重要です。「問題提起→先行研究の紹介→限界の指摘→新しい視点の提示(目的を含む)→期待される成果(意義)」という流れで、一つのストーリーのように展開されることで、読み手は自然とその研究の必要性を理解することができます。
この例をもとに、自分の計画書を見直してみてください。
参考になれば幸いです。
次回は、このような背景を踏まえた研究方法の書き方について、具体例を交えながら説明していきたいと思います。
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