読書ノート2024(その10)
タイトル:高天原黄金伝説の謎-神武東征『アレクサンドロス東征』・『出エジプト記』相似説の真偽
著者:荒巻義雄
皆さんは何歳くらいから本を読むようになりましたか。私の場合は、小学生の頃はそれなりに本を読んでいたのですが、本格的に本を読むのが楽しくなってきたのは中学生くらいからでした。
よく読んでいたのはSF小説で、筒井康隆や小松左京、星新一などの作品をたくさん読みました。
その当時から活躍されていたSF作家の一人が荒巻義雄だったのですが、荒巻義雄の作品を読んだのは今回の本が初めてでした。この本は、図書館に行って書架を巡回していた時にたまたま目に留まったものです。
あの日図書館に行かなければ、あの日たまたま目に留まらなければ、生涯において荒巻義雄の作品を読むことがなかったかもしれないと考えると、縁(えにし)というものを感じる今日この頃です。
北海道・小樽湊という架空の都市に住む主人公である探偵山門武史(やまとたけし)が、日本の国生みと世界各国の伝承との類似性や、天孫族と出雲神族との対立など日本という国が生まれた頃の話を、太平洋戦争直後の街で起きた殺人事件の解決を通じて広げていくという小説で、荒巻義雄が古事記や日本書紀を独特に解釈し、空想を広げていくという話です。
この小説に出てくる登場人物は主人公の山門武史(やまとたけし)をはじめ、申女卯女子(さるめうめこ)、児屋勇(こやねいさむ)、蘇我馬人(そがまひと)など神話に出てきそうな名前の人が多く、それぞれが一癖も二癖もあるユニークなキャラクターとして描かれています。
天孫族という、体制を維持するために作られた話や、ともに敗れた白村江の戦いと太平洋戦争の共通点など、日本の為政者に対する荒巻義雄の考え方もよく表されています。
この作品は、荒巻義雄が87歳の時に認めた新作で、90歳となった昨年にも新作を発表されています。歳を召されても枯れることのない創作意欲と創作物に敬意を表するばかりです。