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ひとりぼっちのドッペルゲンガー
「あなたは僕ですか?」
道行く人たちへ尋ねていた。当然のように怪訝な表情をされる。
みんなと同じ事、同じ音楽、同じ加工アプリ、同じSNS、同じアニメ、同じテレビドラマ、同じ本を好きなんて言って、なんとなく同調しているうちに、自分の好きなものや、自分が分からなくなってしまった。
もうひとりの自分の分身であるドッペルゲンガーに会えば、きっと何もかも分かるようになるはずだ。
そんな訳で旅に出た。
サウナに行こう。ほかほかした顔で「整う~」そんな声が至るところから聞こえてくる。ここに来たって僕は整わない。隣の人に聞いてみる。
「あなたは僕ですか?」
キャンプに行こう。シートを敷いて、テントを張って、マットの上で寝てみよう。どうだろう。落ち着かない。一睡も出来ず朝を迎える。周りでは同じようなテントがあって、みんな同じように焚火をして何かを焼いている。いい匂いだけはする。隣の人に聞いてみる。
「あなたは僕ですか?」
古着を買いに行こう。雰囲気のある店が並ぶ商店街、道行く人はなんだか同じような格好をしている。せっかく古着を着ているのに、どうしてみんな同じような格好をしているんだろう。店に入る気も失せる。すれ違う人に聞いてみる。
「あなたは僕ですか?」
フェスに行こう。なんだかワイワイしていて楽しそうだ。みんな体を揺らしているし、リズムに乗っている。でもなんかみんな同じように見える。僕が聴きたいのは、こんな賑やかな音楽じゃないんだよ。隣の人に聞いてみる。
「あなたは僕ですか?」
ちっとも自分の分身なんていやしないじゃないか。
僕が好きなのは、ハッピーエンドにならない話、何を言ってるのかよく分からない音楽、黒い靴、シンプルな服、静かな湖、誰もいない場所。
周りには知らない人ばかりじゃないか。
自分探しなんてもうやめよう。
前の方から、ぼんやりとした輪郭の黒い影が歩いてきて尋ねる。
「あなたは僕ですか?」
「違うよ。僕は僕だよ。」
自然に口からそう漏れていた。
どこを探してもいないはずだ。僕は僕だった。