ここは

青春１８切符でも買ってみようか？あなたが伊勢神宮に行くと聞いてから、僕もどこかへ行きたくなりました。とりあえず温泉へ。車を二時間走らせ、着いた場所は、茶色い建物の前。事前に調べた時は青空みたいな色だったのにね。開店間際、誰もいないよ。奥からおばさんが出てきて、ああ温泉に入りに来たの？と不思議な顔。そんな突然の来訪者になってしまった僕は、塩素臭いお湯に浸かる。ぬめぬめしてきて一応アルカリ性の泉質なんだね。外にはぼたぼたと水が漏れているタンクがあって、風情もクソもなく、ただ緑色の稲がなびいていたりする。遠くに海は見えず。つまんない。そんなはずもなく、にやにやしている。ここには僕一人しかいない。一旦来た道を引き返し、買ったのはうどんとカニカマおにぎりとドライゼロ。これをヒスイの前で食べようと思ったんだ。ぽつぽつと雨が落ちて来たけど、天気予報だと止むはずだからって東屋の中に入り込んで包みを開けるんだ。温泉卵を崩して、一口食べるとこりゃ美味い。カシャッとプルタブを引いてみる。これってビール味だけど苦みがないんだよな。そういえばここって前にあなたと来たことがあるんだよ。ああそうだ、夏の日だよ。地面の底から湧き出た水を掬ってみたら、とても冷たかったよね。今日は長靴を履いたおじさんがうろうろしているんだよ。山梨ナンバーから出てきたカップルもいるし、ＶＯＬＶＯから出てきたカメラを持った老夫婦もいるんだよ。それでも僕は一人で切り立った大きな崖を見上げている。さっきまで雨だったのに、その上には青い空がちょこっと顔をのぞかせていたんだ。耳に張り付いたセミの鳴き声がどこへ行ったって聞こえる。困ったなあ。

みんみんみんみん、かなかなかなかな。