珈琲屋でズギャン
朝ドラ「らんまん」が終わった。
まんちゃんとすえちゃんが
しみじみ良くて大いに泣いた。
*
頭をなやませていた仕事に区切りがついて、嬉しくて自転車をはしらせる。今日はゆるす。行きたかったところに行こう。珈琲屋さんが目に入る。よし、行こう。
ドアについた鈴がなる。カランカラン。何ヶ月ぶりかの珈琲屋さん。今日もにぎわっている。何を注文しよう。アイスにするか、ホットにするか。まだ決まらないのに、店員さんをよぶ。何にしようと思いながら、ホットのカフェオレにした。ゆっくりしよう。
桜が描かれたカップに熱々のカフェオレがなみなみと入っている。熱いし暑い。今日はアイスだったかもしれない。
ん?あの人。
モーニングからランチに切り替わる時間で、メニューを裏返しにきた男性店員がいた。はじめてこの店に来た時に、「わ、気になる…」と思ってしまった人だ。左ななめにいた老夫婦が男性に話しかけている。
「ねー、あなたここにうつっている人?」
「そうです」
「○○さんね?」
なにかの冊子に、
その男性は載っているようだ。
「私もね、○○って言うの」
老夫婦と男性は同じ苗字で、
繰り返し男性に伝えている。
「私もね、○○。同じだねえ。
あなたメガネとったら
こんな顔してるんだね」
「そうなんです」
「いい顔だね」
照れる男性。
その後ろ姿を私は見ていた。
シュッとしめたエプロン。
後ろで組んだ手が
照れに比例するかのように動く。
やっぱりこの人だ。
…
「ちょっとかっこいい人がいるんだよ」
私はそう言って、
母を誘ってこの店に来たことがある。
男性がいた。
「あんたが言ってたひと、あの人?」
と聞かれて「そうそう」
と言ったものの、何かが違う気がした。
あの気になる感がないんだよなあ。
…
老夫婦と男性の会話は続く。
「へえ、ここ経営してんの?すごいねえ」
「兄と経営してるんです」
『あー、そういうこと』
謎が解けた。
前に見た方は、お兄さんだったのか。
よく似ている。けれど何かが違う。
老夫婦が、もうかってるんだろ?
隣の駅にもつくってよ、など
ぐいぐい話しかけている。
なかなか、男性をはなさない。
私はその後ろ姿を見ていた。
かっこいい、かもしれない。
いや、かっこいい。そう思うと、
なんだか落ち着かなくなってきた。
ボーッとしようと思っていたのに。
ボーッとできなくなってきた。
カフェオレを飲みほし、店を出る。
*
まんちゃんがすえちゃんに「ズギャン」と言ったシーンがある。台本にセリフではなく(ズギャン)と書いてあったそうだ。万太郎演じる神木くんは、どうしてもこの(ズギャン)を口に出して言いたかったそう。キュンもズキュンも超えたかのような言葉、ズギャンを。あさイチで神木くんが楽しそうに話していた。このエピソードが私は面白くて忘れられずにいる。
つまり、珈琲屋で私は
ちょっとしたズギャンであった。