歌いたい日
テスト終わりの中学生。
帰り道が一緒になってしまった。
息子と一緒の中学の子たち。
目の前に中学生女子4人組。
ある女の子が歌いはじめた。
あの子だ、と思う。
前にも歌っているのを見たことがある。
あまりに気持ちよさそうに歌うから、
私はつい、ニヤっとしてしまって。
それが良くなかった。
『あのおばさんわらってるよ』みたいに
隣にいた友だちがその子に教えた。
その子はふりかえり、
私の顔をちらっとみて、
歌うのをやめた。そんな日があった。
なんの歌か分からないけれど、
見かけるたび、のびのびと大きな声で歌う。
それがあの子の日常なのだろう。
うちに帰っても、きっと
ずーっと歌っているのだろうなあ。
とてもいいなあ。
*
時々、台所で歌う。
歌っている意識はなくて、
いつの間にか歌っている日がある。
「上機嫌だねえ」
夫は私が歌っていると、
かならず言う。
悪気はおそらくなくて、
事実を言っているだけなのだろう。
でもすごくムッとする。
もう歌う気なくなったわ、
と思っている。
たった一言の返しで
息子が「あー、もうやる気なくなった」
って、言うときがあるけれど、
これに近いんだろうなあ。
でも、夫の言うとおり、
私は上機嫌だった。
*
小さいカメを見たからだ。
小さい子どものカメが
一生懸命、泳いでいた。
多分、カメの親は子どもの面倒を
見ることはないのですよね?
産み落とされた時から、
自分で生きていくのだよね?
そう思いながら、
小さいカメたちの泳ぎを見ていた。
気配をできるだけ消して。
私がいると分かると
さっと潜ってしまうから。
カメ泳ぎを見ていた。
柳の木のてっぺんに何かいた。
ずーっとてっぺんにいてくれる。
うちに帰り図鑑で調べ、
モズであることが分かった。
小さな猛禽類。
モズにも会えて
私はうれしかったのだ。