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レモンの花

知らないでおいてもよかった情報にふれてしまった夜。そのことで頭と心が、ふとした時にいっぱいになりかける。朝起きて、またそのことを思った。あーあ、なんで見ちゃったかな。そんなことを思いながら洗濯物を干していた。

…いい香り?

ん?と振り向く。

香りをキャッチした時に、いろんなものがかき消されたのが分かった。ざわついて集中していない観衆たちが一瞬で集中し大笑いしたみたいな。ジャングルポケット斎藤さんの
「はーーーいっ!」を聞いて見たかのような。嬉しくて笑う。

いやはや、これは、まるで魔法。

レモンの花が咲いている

ついにレモンの花が咲いた。私が振り返った時は、まだつぼみが(しかもひとつだけ)ほんの少し開いただけだった。なのに、そのほんの少しの隙間から私を振り向かせ、場面を切り替えさせるほどの香りをはなつ。

去年咲かせたレモンの花には、真ん中の雌しべ(めしべ)がなかった。今年はちゃんとあって。ちょっとびっくりするほど、ぬらぬらしている(生きているとは、そうなのだ。きれい、美しい、かっこいいとか、そこだけでは終われない、ということを言いたい)。
筆でちょんちょんと受粉した。

今日も香りがただよう。三つ、花開いている。鼻をちかづける。「ネロリ」と似ていると言えば似ているような気もする(ネロリとはビターオレンジの花から作られた精油だそう。クナイプの入浴剤でしかネロリを味わったことがないけれど)。ちょっとだけ、キンモクセイにも、ほんのほんの少しだけ似ているところもあるような…。

だけど、言葉にするよりも前に、なつかしいとかせつないとかそんな感情がおしよせてくる。おそらく、幼少期に実は知っていたんだと思う。この香りを。小3まで住んでいたまちには、ミカン畑があった。母はミカンの収穫バイトを少ししていた時期があって。

「お母さんの迎えに行こう」、姉と父と私の3人で歩いた夕方があった。仕事を終えた母の姿が見えて、私はかけよった。

きっと。ミカン畑からあの花の香りが町中にただよっていたのではないだろうか。だから、なんだかせつないのかもしれない。


また明日もレモンの花の香りをかごう。
魔法にかかろう。
明日はまた別なことを思うかもしれない。