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ヨゼフの馬小屋作り

土曜日、仕事が休みだったので、朝から近所のミスタードーナツで、コーヒーを飲み、文庫本を読んでいると、携帯に電話がかかってきた。通っている教会の信徒会長さんからで、「今度の土曜日に教会で馬小屋を作りますが、来ることができますか」という内容だった。「行きます」と返答した。来週の土曜日も仕事は休みの予定だった。

わたしの通っているカトリック教会でも待降節(降誕祭、いわゆるクリスマス前の4週間)の始まりとともに、教会のロビーと聖堂の祭壇にプレゼピオ(persepio)を飾りつける。プレゼピオとはイエスの誕生の場面をかたどったジオラマ模型のこと。馬小屋の中にフィギュアが並べられる。中央の飼い葉桶の中に横たわる赤ちゃんのイエス、赤ちゃんを囲んで向かい合うマリアさまとヨゼフさま、救い主が生まれたとの知らせを受けて駆けつけた羊飼いたち、馬や羊、贈り物を捧げる3人の博士たち、喜ぶ天使もひもで空中にぶら下がっている。1223年の降誕祭にグレッチオで、アッシジの聖フランシスコが、文字の読めない村人たちに、聖書の中の幼子イエス降誕の物語を伝え、観想するために、馬小屋を再現し、皆で喜びあった出来事が起源だといわれている。

ローマ皇帝がイスラエルのすべての人々に徴税のために住民登録を命じた。ヨゼフとマリアも住民登録のため、故郷のベツレヘムに向かった。2人はどこの宿屋も満員だったために、馬小屋として使われている洞窟に泊まった。身重だったマリアはそこでイエスを産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。「ルカによる福音書」に書かれている物語。馬小屋におけるイエスの誕生は、小さく貧しい者として生まれたイエスをよく表している。

土曜日は自分も含めて7人の壮年男性が集まる。教会の「ヨゼフ会」。寒い教会の中で、さっそく馬小屋作りを始める。蒼いボードにたくさんの穴が開いている。穴に裏からイルミネーション電飾の電球を覗かせる。星空ができあがった。灰色に塗った紙を四隅に貼りつけて洞窟ができあがった。2階の倉庫の棚から段ボール箱を運ぶ。箱の中にはフィギュアが入っている。取り出してならべる。2時間ほどで、教会のロビーと聖堂の祭壇下の2箇所にプレゼピオが完成した。最後にクリスマスツリーも設置する。「お疲れさまでした」と声をかけあって解散になる。

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「祈っていっていいですか」と断って、聖堂に入る。空気がヒヤリとしている。中央に磔刑像、その下の祭壇下にできあがったばかりのプレゼピオ、左にマリアさま、右にヨゼフさま。ヨゼフさまの前の座席に腰かけて、しばらく静かに過ごす。それからいつも持ち歩いている小さなボロボロの祈祷書をひざにひろげ、ヨゼフさまに取次ぎを願って祈る。

聖家族のいと忠実なる守護者よ、イエズス・キリストの選ばれたる末を守り給え。慈しみ深き父よ、われらのために、すべての誤りと腐敗との伝染を防ぎ給え。いと強き保護者よ、われらが暗の権威と戦うをあわれみて、天より助けをたれ給え。また昔幼きイエズスを、生命の危険より救いし如く、今も公教会を守りて、敵のわなと、すべての困難とを免れしめ給え。かつ常にわれらをことごとく保護し、われらをして御身にならわしめ、御助けによりて、聖なる一生を送り、信心をもって死し、天国の永遠なる福楽にいたることを得しめ給え。(公教会祈禱文)

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