ビクッ!
快適な人生を過ごすためには、ビクッとする回数を減らす必要があると思う。
何かを発見したり、知った時のような新鮮な驚きなら、人生の彩りのためにいくらでも味わいたい。ただし、無駄な驚き、つまり「ビクッ」は百害あって一利なしだ。
驚かなくてもいいことで、驚かされているなんて凄く損した気持ちになるではないか。
このように、ビクッを避けたい僕ではあるが、ビビりなため、多分普通の人よりもビクッとする回数が多い。
特に、何かにハマっている時期に回数が増える。
なぜ、何かにハマっている時期にビクッとする回数が増えるか。
それは、幻聴が聞こえるようになるからだ。
何かにハマることと、幻聴が全く結びつかない方もいるだろうが、実際に聞こえてしまうのだから仕方がない。
顕著な例が2つある。
1つ目は、数年前麻雀にハマっていた時期のことだ。
麻雀がわからない方のために説明しておくと、麻雀は、ゲームを進行する上で、必ず発声をしなければならないタイミングがある。
発声する言葉はいくつかあるのだが、対戦相手に「ロン」と言われてしまう、つまり「放銃」をしてしまうと、ビクッとさせられた後、自分に大損が降り掛かってしまう、ということを念頭に置いてから、ここからの話を読んで欲しい。
こんな丁寧な配慮の文章を書くことなんて考えつきもしなかったであろう、週に7.8回麻雀をすることもあったりなかったりの大学生2年生の頃。
やるからには負けたくないので、家に帰ってからもアプリで麻雀を打ったり、動画で勉強したりと、必死になっていた。
その時間を他の有意義なことに当てていたら、何か成せていたかもしれないほど、麻雀に時間を費やした頃、ある幻聴が聞こえ始めた。
「ロン」
思わずビクッとする。しかし、支払う点棒は持ち合わせていない。
それもそのはず。そこは雀荘ではなく、電車内なのだから。
危険牌も何も切っていないのに、放銃してしまった僕は、周りを見渡す。
電車内のどこにも麻雀打ちは居ない。
「ロン」
ビクッ!
続けざまに放銃してしまったが、声の主は明らかとなった。
マスクをしたおじさんサラリーマンだった。
彼の、ゴホンという咳の音が「ロン」に聞こえていたのだ。
このように、同じ音を聞き続けると、それが幻聴となり、ビクッの原因になってしまう体なのだ。
影響を受けやすぎるといってもいい。
2つ目の例はさらに困った。
それは、英語学習にハマっていた時期のことだ。
英語学習にハマっていたというよりも、フルハウスを観て、こんなふうに英語で楽しくお喋りしてみたいと思った時期。
当時、流行っていたスピードラーニングを買ってみた。スキマ時間も睡眠時間もスピードラーニングを聞いた。時間を確保しては英語の発音の勉強をし、英文を音読する日々が続いた。
数ヶ月経ったが、スピーキングもリスニングも全く伸びず、字幕でフルハウスを楽しみ始めた頃、また幻聴が聞こえ始めた。
それは、イヤホンを外し、人混みを歩いているときだった。
左隣を歩いている男子高校生2人が、英語で会話しているのだ。
明らかに日本人顔の2人組。もちろん内容は聞き取れない。ビクッとさせられたとはいえ、感動したのを覚えている。
すごいグローバル!楽しいんだろうな!と。
これはビクッではなく、新鮮な驚きではないか!
悪い高校生くん達!!と。
しかし、これはビクッで正解だった。
感動を噛み締めていると、違和感に気付いたのだ。
各方面からも、聞き取れはしないが英語の会話が聞こえてくるのだ。女子高生、高齢者、皆から。
何が起きていたか。
僕の耳は、英語に慣れすぎて、赤の他人のどうでもいい会話、つまり、うまく聞き取れない日本語を、英語として処理するようになっていたのだ。
これには、心底震えた。
しばらく、英語関連の勉強をやめると、その症状は収まった。
それからは、同じ音を聞き続けることになる趣味は、あまり持たないようにしている。
今まで読んだことがほとんどなかった本を、読み始めるようになり、文章を書いてみたいと思うようになったきっかけともいえるので、最悪の思い出にはなっていない。
そう考えると、ビクッを百害あって一利なしと断ずるのはやりすぎだったかもしれない。
こうして、こんな稚拙な文章をここまで読んでいるあなたと出会えたのだから、突然ロンされたり、ネイティブスピーカーに囲まれる恐怖も、簡単に乗り越えられるというものだ。
急に気持ち悪い締めで、ビクッとさせてしまったのは申し訳ないと思っている。
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