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いまいる場所から 8
目の前の坂道を上り切ったところにそのバス停はあった。まっすぐに延びる坂道の両脇には防音壁が連なっていた。防音壁のせいで途中に目印になるようなものは何もなかった。
坂道を上り切るあたりまでどれぐらいの距離があるのかまったく見当もつかなかった。しかしたとえ見当がついたとしてもそれは気休めにしか過ぎなかった。見当がついたところで行かなければならないことに変わりはなかった。
久しぶりに履いた革靴は急いで歩くには相応しくなかった。しかもこの坂道だ。とはいえスーツにネクタイで革靴以外の選択肢はなかった。今日は仕事日だ。
背中のリュックには少々分厚いファイル数冊にノートパソコンを詰め込んだ。仕事用のリュックは使い慣れたいつものそれとはちがって重かった。
そして坂の上のバス停は想像した以上に遠かった。
>まるネコ堂言葉の表出2020冬合宿「いまいる場所から」より 299文字