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「失われた古代文字と結び付く最先端技術」世界遺産の語り部Cafe #31

今回の世界遺産はデンマーク🇩🇰の【イェリング墳墓群、ルーン文字石碑群と教会】、そして【ロスキレ大聖堂】についてお話していきます。


ヴァイキングの木造船


3つの功績を祝福した“ルーン碑文”


デンマーク、ユトランド半島に位置する「イェリング」には、900年代後期に作られた2基の大墳墓がそびえます。

イェリング墳墓

北側の墳墓はデンマーク最初の王とされる「ゴーム老王」の墓であると考えられていますが、一方で南側の墳墓については未だ詳細が判明していません。

ゴーム老王(右)と王妃チューラ(左)

2つの墳墓は、長らくゴーム王と「王妃チューラ」のものと考えられてきました。

しかし、近年の研究によれば、南側の墳墓についてはゴーム王の墳墓を作った息子の「ハーラル1世」が、自身の記念塚として製作させたものであると見られています。

ハーラル1世(ハーラル・ブロタン・ゴームソン)

墳墓の間には、その「ハーラル・ブロタン・ゴームソン」によって建立された教会、そして「ルーン文字」で碑文が刻まれた、2基のルーン石碑が立っています。

イェリングのルーン石碑

大きな一枚岩である石碑には、以下のような碑文がルーン文字で刻まれています。

“ハーラル王はその父ゴーム王と母チューラを記念しこの記念碑を作らせた。
これなるハーラルはデンマーク、ノルウェーを手中にし、デーン人をキリスト教に改宗させた”

デンマークで最も有名なこの「ルーン碑文」が刻まれた石碑は、ハーラルによる“デンマーク統一”、“ノルウェー統合”、“デンマーク人のキリスト教への改宗”という3つの功績を祝って建てられました。

教会とルーン石碑


失われた古代文字


ルーン文字とは、古代北欧文化において用いられた原初文字です。

北欧ルーン文字の記号

少なくとも1世紀の段階で、最初期と思われるルーン文字が刻まれた銘文が確認されています。

スカンディナヴィアでは、15世紀までに「アルファベット」に代替されたことで、ルーン文字は次第に途絶えていきました。

一方で、スウェーデンの「ゴッドランド島」「アイスランド」においては、17世紀頃までルーン文字が民間に残存していたことが確認されています。

ゴッドランド島の中心都市、ヴィスビュー
アイスランドの首都レイキャビク

最も近世までルーン文字を用いていたのは、スウェーデン西部に位置する「エルヴダーレン」という地域の人々だと考えられています。

スウェーデンの森深い奥地にある地域のエルヴダーレンでは、実に約100年前の20世紀初頭までルーン文字が使用されていました。

エルヴダーレンを流れるダール川

この村では、「メッセージ・ブレード」と呼ばれる木の棒に、ルーン文字を刻んでメッセージを伝達していたそうです。

メッセージ・ブレード

このように、何世紀にも渡ってルーン文字が存続していた背景には、エルヴダーレンが地理的に隔絶され、孤立した環境ゆえに保守性が強く、他文化の影響を受けなかったことが要因であったといえます。

しかしながら、エルヴダーレンでも就学率が高くなり、アルファベットが学ばれるようになって以降、ルーン文字は自然消滅していったものと考えられています。

ハーラル“青歯王”


「ルーン碑文」にその名が刻まれる王、ハーラルには失活歯があったことで、それが青く見えていたことから青歯王せいしおうの異名で呼ばれていました。

ハーラル“青歯王”

デンマークは世界で2番目に古い君主国として知られていますが、その現行体制においては、キリスト教を国教に定めたハーラルが最初の王であると認識されています。

↓*世界一古い君主国は「日本」↓

デンマークの礎を築いたハーラルですが、まもなくして息子の「スヴェン」による反乱に遭い、この時の負傷が原因で亡くなってしまいます。

スヴェン王は漫画『ヴィンランド・サガ』にも登場

ハーラルの亡骸はロスキレへと移され、現在は「ロスキレ大聖堂」のどこかに埋葬されていると伝わっています。(*墓や棺などは未発見)

ロスキレ大聖堂


あの最先端技術の語源


ハーラル王は、今日の我々も利用している最先端技術の語源にもなりました。

スウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソン社を中心に開発され、ハーラルの異名“青歯王”を英語読みする形で名を取った「Bluetooth(ブルートゥース)」です。

複数の電子機器をつなぐ通信技術であるBluetoothは、ハーラルがデンマークとノルウェーを交渉によって平和的に統一した功績にちなんで命名されました。

そのため、Bluetoothのロゴマークは、ルーン文字で表記されたハーラルhブロタンb”の頭文字を組み合わせた形状となっています。

Bluetoothのロゴ

失われた古代文字が、最先端技術のロゴになっているというギャップがまた面白いですよね。

ロスキレ探訪記


余談ですが、デンマークのロスキレ大学の大学院で学んでいたイタリア人の友人を訪ねに、私もロスキレを訪れたことがあります。

ロスキレ大学

かつての都であったロスキレは、デンマーク最古の都市として知られ、港の周辺にはヴァイキング時代の影響が色濃く残っていました。

ヴァイキング船博物館
ヴァイキングの木造船のレプリカ

ハーラル青歯王が眠るとされる、世界遺産のロスキレ大聖堂は圧巻の巨大さで、往年のデンマークの栄華を後世に伝える建造物だと感じました。

ロスキレ大聖堂

ロスキレから足を伸ばし、高速バスでデンマークの首都コペンハーゲンからスウェーデンの首都ストックホルムまで訪れた経験も含めて、私にとっては思い出深い地です。

【イェリング墳墓群、ルーン文字石碑群と教会:1994年登録:文化遺産《登録基準(3)》】

【ロスキレ大聖堂:1995年登録:文化遺産《登録基準(2)(4)》】



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