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私にとっての風俗



みなさんは、何をしているときに一番幸せだと思いますか?
どんな瞬間に、生きていることを実感しますか?
私が生きている中で一番幸福を感じるときというのは、風俗の仕事がうまくいった帰り道です。頭のてっぺんからつま先までが蕩けるように、幸福感に満たされる瞬間というのは、なかなか味わえるものではないという気もしています。

風俗の仕事というのは、どこの職場でもうまくやれなかった私が唯一、心から「好き」そして「楽しい」と思える仕事でした。
お客さんはみな個性的で、面白くて、可愛いです。
最初こそどうしたらいいのか困ってしまう場面もありましたが、この仕事を始めて(辞めていた期間は省いても)トータル6年ほど、真面目に働けば働くほどに、自分が楽しく働くコツも分かってきました。

私が風俗の仕事をしていることは、両親も、親戚の人たちも、子供の頃から知っているママの親友のれいちゃんも、その息子の幼なじみのまぁくんも、地元の友達も、みんな知っています。

ママも、最初こそ見てみぬふりをしていましたが、一切辞める気のない私に辛い気持ちを抑えきれなかったんでしょう。
「お願いだから仕事を辞めて」と大泣きしながら言われた後、パパには「お前は親のことを親だと思ったことがあるのか」と低い声で睨まれ、その日のうちに、私は実家にあった荷物をほとんど捨てて、キャリーケース一つで家を出ました。
高校のころからひどく躁鬱の症状が出ていて、まぁまぁ危険な行動も取ってしまっていたので、両親としても「出て行ってくれ」と言うのは悩んだことと思います。
でも、それくらい、親からすると耐えられないことだったんですね。自分の娘が、知らないおじさんとラブホテルに入って、10分そこらで全裸になって、性器を舐め合っている、そんなことは。

私も、両親の気持ちを理解することは充分に出来ました。なんとしてでも辞めてほしいという説得が、親の愛だということも分かっていました。
私のパパは韓国人なので、きっとみなさんが思い浮かべる日本人の父親よりも「血の繋がり」というものをずっとずっと、大切にしています。
そのパパに「もうお前とは一緒に暮らせない」と言わせたということが、パパの心にどれだけ深い傷をつけてしまったということなのか、私は一生、忘れてはならないと思っています。

私は、両親に泣かれながら「仕事を辞めてくれ」と懇願されたとき、どうしても、どうしても、その言葉に頷くことが出来ませんでした。
私が初めてやりがいを感じられたことを、自分が輝ける世界があると知ったことを、必要とされる嬉しさを、大好きなお客さんたちとの時間を、捨てられなかったからです。

「ごめんなさい」「親不孝でごめんなさい」「私のやっと見つけた居場所なんです」「生きててよかったと思える唯一のことなんです」「本当にごめんなさい」と、過呼吸になるほど泣きながら謝り続けたあの日、普段絶対に泣いている姿を見せないパパが、色つきのサングラスをパッと手に取ってかけたことを思い出すと、今でも泣きそうになります。

そこから2年ほど、両親とは会いもせず、連絡も取らずの関係が続きました。
暫くして姉が結婚することになり、私と両親との事情を分かっていながら、私のことも結婚式に招いてくれました。きっと、仲直りかなにかのキッカケになればいいと思ってくれたんだと思います。少し迷ったけれど、勇気をだして結婚式へ行った私は、それをキッカケに、ごくたまに両親とも連絡を取ったり、ご飯を食べに行ったりするようになりました。
実家のほうに帰省したときも、向こうは私の仕事のことや、普段の生活のことには一切触れてきません。私は友達も少なく、出勤している以外、休みの日はインターネットを見て過ごしているくらいのものなので、特に話すことがあるわけでもありません。
お店でナンバーワンを取ったよ、本指名率が〇%だったよ、なんて、今の生活で話せるようなことはそういったことしかないのです。
でも、ママからしたらそんな話は聞きたくないことでしかありません。
互いに探るように会話をしながら食事をしたあと、当たり前のようにお会計を済ますママの後ろで「今日は私が出すよ」と言いたい気持ちをグッと堪えます。娘が身体を売って稼いだお金でご馳走なんて、されたくないかもしれないと思うからです。

私の周りの友人たちも、みな私が風俗の仕事をしていることを知っています。それも26歳にもなると、時々ちょっぴり真剣なトーンで「でもさー、今後どーすんの?」なんて聞かれることも増えました。
「あー、どうだろう、ほんとだよねー」と笑って誤魔化す私にも、この業界で一生働くことが難しいことは分かっています。
でも、今の私には今の状態からどう人生の舵を切っていけばいいのか分かりません。
今はただ風俗の仕事が好きという気持ちでがむしゃらに働いているけれど、風俗のプレイヤーとして食べていくのに、年齢の限界があるのも確かだと思っています。26歳の私は、まだまだこれからの道を模索中している最中です。

風俗という場所は、同年代の女の子たちにとって、彼氏が行っていたら「まじサイテー」な場所で、父親が行っていたら「まじキモイ!」という認識であることは、私も分かっています。
ただ、日々を頑張る彼らが会いに来てくれる時間は、他の誰にも言えない時間にだからこそ、与えられるものがあり、与えてもらえるものがあると思っています。再び会いに来てくれることって、何度も会って関係性を深めていくことって、なんて嬉しいことなんでしょう。今までしたことのある中で一番悪いこと、初恋の話や、忘れられなかった恋愛の話、仕事の愚痴、家庭でのこと、どんなことでも、私に溢してくれる存在のアナタがとにかく愛おしいのです。大袈裟でしょうか。私にとっては、大きなことなんです。

私は、お客さんのことが好きです。お客さんとの時間が好きです。お話をして、肌を重ねて、気持ちがぴったり重なるような瞬間が確かにある、と思っています。私にとって、風俗という仕事は、大嫌いだった自分を大好きになれるものでした。退勤後の帰り道、あんなに清々しい気持ちになれる仕事に、これから先出会えるのかなと思います。

風俗、というと「楽に稼げる場所」としてイメージされやすいですか、今のこの時代、風俗業界もかなり厳しい時代になってきました。努力なしでは稼げません。コロナ禍の影響もあるし、かなり業界の流れも変わりました。アイドルのような顔立ちとスタイルの女性たちが、SNSなどで目立って発信することも多くなりました。
私たちは、お仕事がない限りお給料は0です。お店に出勤して居ない間にも、私たちはお店のブログを一日何本も投稿したり、お客さんからの連絡を返したり、SNSの更新をしたり、自撮りや動画の撮影をしたり、お客さんの誕生日プレゼントの用意、出会ってからの記念日を数えたり、時には講習を受けたり、意外とやることはいっぱいあったりします。とんでもなく性格のいい美女でない限り、そういう努力をしないと、裸になって性的なサービスをしていても、生活していけるだけ食べていけない人たちもたくさん居る…なんてこと、風俗から縁遠い方たちからしたら、信じ難いことでしょうか?

なんだか長々と語ってしまったけれど、私は真面目にこの仕事が好きだ、ということを語りたいだけの日記でした。お客さんには本気で愛を伝えたいと思っているし、心から愛おしいと思う瞬間がたくさんあります。
別れ際、ホテル街で小さくなって見えなくなるまで手を振り返してくれるお客さん、「危ないからサッといっちゃっていいよ」と気遣ってくれるお客さん、「会社近くだから、ここでね、またね!」と笑顔で駆けていくお客さん、遠慮がちに振り向いて、ぺこっと会釈してくれるお客さん。

普段誰にも甘えられないんだと私のお腹に顔を埋める60代のおじさま、「日々職場でも日常でも独りだから、一ヶ月に一度のこの時間が楽しみで」と言ってくれるお客さん、プレイが始まると遊んで遊んでとワンちゃんになってしまうお客さん、私が可愛いと思う大切な人たちなので、あまり詳しくは書きたくない気持ちもあるのですが、どんな感情であれ、私に好意を持って接してくれるお客さんたちが、とても可愛い、だから、頑張れるんです。

17歳のときに出会ったこの仕事は、私の中でかけがえのない存在になってくれました。周りからどう思われようが構わないのです。偏見や否定的な意見を覆そうとも思いません。私自身、リスクが高いこの仕事を人に勧めようとは思えません。
ときたま「やよいちゃんをキッカケに風俗始めました」なんてDMを頂くことがあるのですが、なんとも言えない気持ちになってしまうのが正直なところです。危険な部分も、嫌な思いをする可能性もたくさんある仕事です。私がこうやって、風俗に対するポジティブな気持ちを発信することが怖くなることもあります。

でも私は、風俗という仕事が好きです。何度も繰り返すようですが、この仕事に出会えてよかったと心から思っています。
先日、お店のスタッフさんから「源氏名ちゃんが接客で一番大切にしていることはなに?」と聞かれました。うーん、と、そのときはうまく答えられずに悩んでしまったのですが、今の私が答えるなら「誰より一番自分が楽しむこと」です。
来てくれたお客さんより、誰より、私が一番その時間を楽しみます。全力で楽しい時間を過ごします。楽しいって、伝染するんです。反対に緊張やネガティブな感情も伝染してしまうんです。
私は「楽しい」の伝染によって、お客さんからもパワーを貰っています。私が楽しんでいると、お客さんもいつの間にか楽しんでくれていて、その「楽しい」を私がまた貰って、そうやって繰り返していくうちに、自分の中の心のコップが満タンになっていくんです。
私は、しばらく風俗の仕事を真面目に、全力で楽しみます。そのあとのことは、ゆっくり考えます。

先日、通っている精神科の主治医の先生に「日々気分の上下はあるとは思いますが、〇〇さんは、それが風俗という仕事だったとしても、やりがいがあって好きだと思える仕事があるんですよね。それってすごい強みです。普通の人でも、なかなかそういう仕事に出会える人は居ませんよ」と言われて、仕事のことを否定されず認めて貰えたことに嬉しくなりました。

先生の言った通り、私は風俗という仕事に出会えてラッキーだったのかもしれません。
世間からどう思われていようと、私が好きで楽しいんだからそれできっと良いんだと思います。この仕事をしてきたことで、生き繋いでこれたことや、得られたことがたくさんありました。
そしてきっとまだもう少し、私の居場所はこの風俗の世界にあると思っています。

私の愛する風俗という仕事に、出会えたことに感謝して。

2023.9.12

ポンコツやよい



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