僕はヤーミー
はじまりはじまり~
僕はヤーミー
ドロドロの水たまりなんだ。
その僕が10年経ってようやくやってみたくなったことがあって。それはね、みんなの”まんま”を吐き出せるスペースをつくることなんだ。そこはあったかい自由な空間で。
次の3つのルールさえ守ってもらえばだれでも出入りできる。
そのルールというのはね、
1つ 秘密厳守。そこで起こったことや聞いた話は外に持ち出さないこと。
1つ 余計なお節介はしないこと。もちろんヘルプを求められた時は、別ね。
1つ 暴力禁止。言葉も含めて、ね。
スペースの入口ではクリアリングのシャワーを浴びて、
このルールに目を通してOKだったら同意のサインをして、
そしたら入れるよ。
あとはお好きにどうぞ。
僕は左の奥の隅っこにいるから
僕に吐き出したくなった時は、くればいいよ。
一応ドアがあってね、
そこにかかっている札が”どぞどぞ”になってたら、
トントントンと3回ノックしてね。
僕のところでは、吐き出したものはぜーんぶ、どろどろまんじゅうにして埋めてあげるからね。
そんでもって、、
隣にある15畳ほどのナーンも置いてない畳部屋。
そこでゴロゴロしてもいいし。
気持ちよく寝ちゃってもいいし。
井草の匂いが嫌いじゃなければどうぞゆっくりお過ごしください。
あっそうだ !
もし楽器を鳴らしたくなったらね、右の廊下の突き当たりに行ったらいいよ。
分厚い扉がある向こうにはスタジオがあってね。
一切音がもれないからそこで思いっきり発散するっていうのもできるよ。
ちなみにスタジオはABC3つあって、
Aスタジオは大きい音の楽器たち
Bスタジオはささやきの楽器たち
そしてCスタジオは声を出したい人の空間、もちろん歌も歌っていいんだよ。
ただね、ここは基本1時間ごとの交代制になってるから
机の上のノートを見て、空き時間を上手く使ってね。
さてさて、、、
これで準備万端、スペースオープン! と思いきや、
ふと思ったんだ。
何か足りない。
それがあるときっともっといい感じになるんだと思うんだけど・・・
それが出てこない。
まっ、だったら今晩、夢の世界にいってみることにする。
きっとヒントがもらえるから。
こうして、ヤーミーはその晩、ひょいと夢の世界にお邪魔しました。
「あれ? この景色は…」
知ってるような知らないような、懐かしい感じもするんだけど、、
でもちょっと、怖いな。
あっ、あそこに何かある。
左の上の方に、ほそーいけど柔らかーい光が差し込んできているような。
なんだろう?
ヤーミーは引き寄せられるように近づいていこうとすると
「えっ何?」
「誰?」
「なんで引っ張るの?」
「僕はあそこに行きたいんだよ。」
「ねぇ、いかせてよ。」
声は、、、ない。
姿も、、、ない。
でも一瞬、引っ張る力が弱まった。
「よし、いけるかも」
そう思った途端、今度はあちこちから手のようなものがまとわりついてきて・・
「おいおい何するんだよ-僕はこのままあそこに行きたいんだよ。
丸めてほしくなんかないんだ。のびーる黒い水たまりのまんまでいいんだよ。」
ヤーミーは心の中でせいいっぱい叫んだ!
声には出せなかったけど。
すると、、、
その圧は、消えた。
ヤーミーは今度こそと、その光の方へ進んでいった。
一歩、二歩、三歩、四・・
「わぁぁぁぁ」
ヤーミーは瞬く間に吸い込まれていった。
そのほそーい柔らかーい光の波に乗って。
ここは、、
おそるおそる目を開けて辺りを見まわすとキラッキラしたシャボン玉のようなあわがいっぱい舞っていた。
「わぁぁぁぁ キレイ」
よーくみるといろんな色の光の玉が舞っていて
どもこれもみーんな素敵だった。
「あれ?あれは僕?」
遠くの鏡に映ってる僕は、僕が知ってる僕じゃなかった。
僕じゃないと思ったから、
知ってる僕を探したんだけどどこにも見つからなくて。
でも探してる僕の動きは鏡に映っている僕らしき動きと確かに同じだから、
えーと、やっぱりあそこに映っているのが僕なんだろうか?
鏡に映し出されていた僕は、あわーい色の絹のマントで。
のびーる黒い水たまりではなかった。
僕は、不思議な気持ちでしばらく今の僕らしき僕、そう絹のマントをみていたんだ。
そしたら、
今度はどこからか声が聴こえてきて・・
「やーみー」
「やーみー」
「美味しいね」
美味しいはね、人を笑顔にするんだよ。
「やーみ-やーみー」
だから
ヤーミーコーナーを作ったらいい。
チュン チュンチュン♪
いつものように鳥の囀りで目覚めたヤーミー
おかえりなさい。
さてさて、
ヤーミーは早速、看板とチラシを作り始めました。
はい、この新しいスペースの名前はそのものすばり「ヤーミー」です。キャッチコピーも作成中!
「あなたの心の闇を晴れやかに! ヤーミーヤーミー美味しいね」「闇からヤーミーへチェンジング」
うーん、なんだかなぁ(笑)
まっ、キャッチコピーはひとまず置いておいて。
チラシに特徴特徴、書かなきゃね。
4つのヤーミー
その1 心のクレンジング~闇を吐き出してすっきりしましょう!ハードかな。
その2 潤いチャージ~いつもと違う非日常の空間であなたのハートを整えよう!
なんかちょっとくさい感じもするなぁ。。まっいいか。
その3 パタパタ刺激~あなたが望めばちょっと高めのストレッチ。そんなこともできますよ! これはいいね。
そして最後、
その4 あなたのエンジン補給~美味しいものをみんなでいっぱい召し上がれ。これぞ、明日への一歩、エネルギーにつながるね。
よし大体できた。
びょーんと飛んで10年後、
スペース「ヤーミー」は不思議なことにしょっちゅう光の玉に包まれていました。
あったかくてわやらかくて。
それぞれの居心地感を求めてやってくる人たちで大繁盛!
そうそう部屋も2つ増えたんですよ。
でもヤーミーといえば相変わらずあの奥の部屋におりまして。
そうだ、この前ボーっと窓から空を眺めていたらふと思ったんです。あの時、夢の世界で僕を行かせないように引っ張っていたのは、
もしかしたら”愛”なのかもしれないと。
きっと黒い水たまりの僕はかわいそうに見えたのかもしれないね。今更ながら・・・ありがとう。
おしまい