見出し画像

【ジェフ千葉 溝渕雄志選手】『やり切る。』の正体。

『セカンドキャリアを見える化せよ』連載の第4弾は、ジェフ千葉の右サイドバック・溝渕雄志選手です。

溝渕選手は有力選手ひしめくジェフ千葉で出場機会を得ている、スピード溢れる右サイドバック。右サイドを駆け上がる姿からは常に熱が感じられ、大学生の頃から「気持ち入ってるなぁ」と眩しく眺めていました。熱さと知性を感じさせるプレー、そしてイケメン(ジェフは全体的に顔面偏差値高い)。今後の躍進が期待される大卒2年目の選手です!

それでは本編に入っていきたいと思います。

目次

①オフザピッチとオンザピッチから見る溝渕選手
②ビジョナリーキャリア5つのステージ
③『やり切る。』の正体。
‣ 時代背景
‣ 全てはサッカーに帰結する
‣ 時間を投資するということ
④領域またぎの思考法
‣ 本田圭佑ではなく溝渕雄志がやる意味。
⑤最後に



①オフザピッチとオンザピッチから見る溝渕選手

まずは、溝渕選手のキャリアについてオフザピッチとオンザピッチの観点から見ていきたいと思います。

■オンザピッチ
2001年 - 築地SSS(高松市立新塩屋町小学校)
2007年 - FC DIAMO(高松市立屋島中学校)
‣クラブユース選手権(U-15)大会に出場。
2010年 - 流通経済大付属柏高校
‣3年時にはプレミアリーグEAST3位、夏の全国IH出場
2013年 - 慶應義塾大学ソッカー部
‣全日本大学サッカー選抜(2014~2017)
2017年 - ジェフユナイテッド市原・千葉

小学1年からサッカーを始め、中高では全国大会に出場。慶應大学では1年時からトップチームの試合に出場し、全日本大学選抜にも3年連続で選出されています。育成年代から着実にキャリアを積んできた溝渕選手ですが、ジェフ入団後はコンスタントに出場機会を得ることが出来ていないのも事実。来シーズンは定位置確保、そして更なる飛躍に期待!です。

■オフザピッチ
・1994年7月20日生まれ(現在24歳)
・香川県出身
・高校進学のタイミングで関東へ
・慶應義塾大学 環境情報学部 卒業
・Jリーグ内々定後、就職活動を経験。
・公認会計士の資格取得目指して絶賛勉強中

中学校3年時の成績がオール5(!)だった為、香川県随一の進学校を薦められるも、大学までサッカーを続けることを条件に流通経済大付属柏高校へ。その後、AO入試で慶應大学へ進学。

また、溝渕選手は若くして社会との接点を多く持っているアスリート。
いくつか例を挙げます。

‣ 大学時代のゼミでソーシャルプロデュースを実践的に学ぶ
‣ プロ入りが内々定した後、意識的に就活を経験
‣ ジェフ入団後、公認会計士の勉強を開始

このような取り組みに至った経緯として、大学時代に所属した鈴木寛研究会、通称"すずかんゼミ"があると言います。

すずかんゼミは、実践を通してソーシャルプロデュースを学ぶゼミでした。ゼミでは、体育会寮の食事を改善することを目的に活動していました。

問題意識から解決まで、理念を掲げ思考し実践、そして失敗し反省して、また実践。その面白さを学びました。それ以上に、鈴木寛教授は勿論、そこ他にもいろいろな業界でご活躍なされていたアドバイザーやゲストスピーカーの方々の話を聞くことが出来たのも貴重な経験でしたし、何より同じゼミ生が、既に組織を立ち上げて社会創発を行っているような優秀な人ばかりで、そのゼミ生と共に学べた時間が、僕の価値観を大きく変えることになりました。

また、慶應大学ソッカー部は部員1人1人が主体的に組織作りに取り組んでおり、その環境下で揉まれることで意識が変化していったとのこと。

最初はカルチャーショックがすごくて苦労しました。流経大柏はサッカーのうまさが人を見る物差しだし、サッカーだけやっていれば、評価されることも。それ自体は良いことだと思いますが、慶應はそうではなくて、サッカー以外の仕事や規則など、やるべきことをちゃんとやることを求められました。最初は「そんなの関係ないでしょ」と思っていましたが、先輩にそのような人が一人もいなく、学年を重ねるごとにサッカー以外のことも大事だなと感じるようになりました。

僕個人の学びとして、日々の生活が閉鎖的になりがちなアスリートや体育会系人材こそ、多用な人脈/経験/学びが得られる環境に意識的に身を置くべきであることを改めて実感しました。そして、そのような環境は決して多くないことも事実です。

改めて、慶應大学ソッカー部はサッカー少年にとって非常に魅力的な環境だと感じました。(何より、間違いなくモテる。ずるい。)



②ビジョナリーキャリア5つのステージ

『セカンドキャリアを見える化せよ』の連載では上記のオンザピッチ⇔オフザピッチのキャリア観察と併せて、ビジョナリーキャリアの5つのステージからその選手を定性的に評価します。

溝渕選手の場合、完全に「⑤プランを実行している」です。このnoteの主題でもありますが、サッカーをやり切った上で、自らの価値を高める為に公認会計士の勉強やその他にも様々な活動に取り組んでいます。

始めてお会いした時に、なぜ公認会計士の勉強をするのか質問したところ「暇だから」とはぐらかされました(笑)。が、2度目お会いした時に尋ねると、その真意は違うところにありました。



③『やり切る。』の正体。

溝渕選手とは「やり切る」をテーマに、多くの議論を交わしました。「やり切る」とは非常に曖昧で且つ捉え方に個人差が出るフレーズであり、特に日本人は「中途半端」を嫌う傾向があります。

実際、「やり切ること」に関するツイートしたところ、多方面からご意見&捉え方を頂戴しました。その一部を紹介します。

ということで、このnoteでは「やり切る」の正体について解説していきたいと思います。


‣ 時代背景/環境

まず、今後はアスリートのみならず会社員にとっても複業・副業が当たり前の世の中になっていきます。働き手から見た複業・副業のメリット/デメリットについて簡単にまとめます。

終身雇用の崩壊した現代社会において、収入源やスキルが限定されることはリスクであると言えます。そして、これは引退から逃れられないアスリートにも通ずる話です。スポーツ選手という名刺が無くなった時、どうやって生きていくのか/稼ぐのかを現役中から考えておくことはむしろ健全であると僕は思います。

デメリットは、仕事の幅や量が増えることによるリスクです。この中で「やり切る」と密接に関係するのは"⑤ リソースが分散し、全てが中途半端になるリスク"。アスリートが競技以外のことに取り組もうとする時、各方面から浴びせられる「競技に集中せよ」という声は、この⑤に起因しています。

日本代表の本田選手や長友選手ですらTwitterのリプ欄にはこのような声が溢れています。本業に全てを捧げることを良しとする風潮がある日本では、スポーツ選手がプレー以外のことに取組む姿に批判的な声が集まりがちです。

そして、クラブ側はその活動に規制をかけ、選手側もよほど強い意志がない限りはチャレンジがし辛い環境が出来上がっています。

実はこれ、ビジネスマンでも同じです。給料を支払っているのだから、全リソースを投下して会社に奉仕せよ、という具合に。しかし、組織が全てを保証してくれなくなった今の時代、組織内評価よりも市場評価が重要な時代が到来しています(もちろん組織内評価も重要です!)。また、市場評価の高い選手(=社員)が組織に在籍していることは経営的視点で見てもメリットしかありません。


‣全てはサッカーに帰結する。

溝渕選手は「ピッチ外で取組む活動は全てサッカー選手としての価値を高めるプロセス」と言い切っていました。

ピッチ外で取組んでいる活動は全て、サッカー選手としての価値を高める為にやっています。そもそも、サイドビジネスをすること自体が素晴らしいとは全く思っていなくて、溝渕雄志がサッカー選手として高みに登っていく為に必要なプロセスだと思っています。また、ピッチ外で活動をしていると「もっとサッカーに集中すべき」という声が出てくることも重々理解しています。ですが、僕はファンやサポーターの皆さんにそんな疑心を抱かせないようなプレーを、姿勢を常にピッチ上で見せ続けていくことで、オンザピッチはもちろん、オフザピッチも含めて応援してもらえるような選手になりたい。

また、溝渕選手が繰り返し仰っていたのは、100%サッカーをやり切った上でそれ以外のことをやるべきということ。また、「やり切る、という状態は自分を客観視した時にサッカーに100%向き合えていると納得できるかどうか」であるということ。

「やり切る」ことについて意識していることや、その難しさについては以下のように言及していました。

自分で自分を客観視することには限界があり、自分の100%やり切っている状態と他人から見た100%やり切っている状態は完全には一致しない。だから、サッカー以外のことに取り組むことに対して、疑問や意見を投げ掛けられた際には、まず受け入れる。主観・客観ともに100%へ近づけるべく、自分にはもっと出来ることがあるのだと、探らなければならないと考えます。

やり切っている状態を主観・客観ともに100%へ近づける作業は、途方もなく大変なことだと思います。しかし、その状態を追求する姿勢にこそ意味があるのではないでしょうか。


‣ 時間を投資するということ

上述の溝渕選手の「やり切る」の定義は、時間の使い方の観点から説明することができます。

24時間/日をどのように使うのかはアスリート個人に委ねられています。

具体例を挙げると、アスリートが競技力向上を目指す時に不可欠な項目として睡眠/個人トレーニング全体/トレーニング/食事があります。これらを足し上げると1日の内で12時間を消費します。そして、残りの12時間は言わば自由時間です。アスリートはこの時間を休息/趣味/リフレッシュ/自己投資 等に充てています。

競技力の向上だけを目的とするのであれば、1日の内12時間に全力を注ぎ、残りの自由時間はぼんやり過ごしても良いのかもしれません。しかし、アスリートとしての総合的な価値を高めることを考える場合、①1日をどれだけ密度高く過ごすことが出来るのか、また②それ以外の余白(=自由時間)を何で埋めるべきかを考える必要があります。

つまり、時間を浪費するのではなく自分の将来に投資していくということです。この2点を意識して日々を過ごすことで、やり切っている状態に近づくことができます。

アスリートの時間の使い方については、槙野選手のこちらの記事が必読です。槙野選手は記事の中で「(トレーニングを除く)1日の22時間の過ごし方は、それぞれに任される。誰も指針を示してはくれない。だからこそ、サッカー選手として生きるのは難しい。」と述べています。

計画を立てて逆算的に取組むことが得意な演繹法タイプと、日々の積み重ねが何かに結び付くことを考えたい帰納法タイプがいますが、時間を投資することが重要という点ではどちらも共通です。



④領域またぎの思考法

また、流経大柏高校時代に恩師の本田祐一郎先生から言われた「領域またぎ」に溝渕選手は日頃からチャレンジしているとのこと。

領域またぎとは、様々なところで起こり、学んだことを、その領域を飛び出して別の領域でも活用することであり、【サッカー ‣ 別の領域】と【別の領域 ‣ サッカー】の双方向に当てはまる考え方です。

領域またぎを実践する鍵は「物事の本質を理解すること」

ある領域の学びやスキルを別の領域に転用する為には、本質を理解することが重要だと考えています。

公認会計士の勉強についても同様で、最も重要なことは本質を理解すること。連結会計や外貨取引など、様々な事象での処理を単発的に捉えてもなかなか理解出来ません。故に「会計」という大枠で捉え、なぜ、何のためにこの処理なのか、その本質が理解出来なければ身につかないのだと気付きました。

そしてこの気付きを得られたことは、サッカー選手として、一人の人間として大きな財産であると考えています。ポジショニング、コントロール、パス、その状況での最適な判断は何なのかを考えるとき、本質を理解し、それが見えてないと最適解を選出することは難しい。人として歩むキャリアにおいても同様です。本質が明確になっていなければ時間を有効には使えず、勿論目指す所には辿り着けないのかなと思います。

溝渕選手が強調するのは、あくまでPlayer VALUEを高めることが何よりの優先事項であること。そして、領域またぎの捉え方が出来ればPlayer VALUEはオフザピッチの活動でも高められること。そして逆説的ですが、領域またぎを実践できるアスリートのMarket VALUEは自然と高まっていきます。

アスリートは深く1つのこと(=競技)を突き詰めていくプロフェッショナル。一方で競技で得た能力や学びをそれ以外に展開することがとても苦手です。

この"展開"さえ実現出来れば、アスリートのキャリアは引退前/後を問わず、爆速で拡がっていくと僕は確信しています。「領域またぎの思考法」をアスリートが標準装備出来たら、、、と考えるとワクワクします。領域またぎについては今後じっくり体系化・言語化していきたいと思います。


‣ 本田圭佑ではなく溝渕雄志がやる意味。

最後に、溝渕選手へこんな質問を投げかけました。

すると、即答。

「サラリーだと思います。」

アスリートの価値は単純にサラリー=年俸額だと思います。評価が上がれば自分の価値が高まって、年俸が上がるし、より高いステージでプレーできるようになる。もちろん今の目標はジェフで出場し続けてチームをJ1に導くことですが、僕はあくまでサッカーで上を目指したい。その為には何でもしたいし、公認会計士の勉強もその他の活動も全てはサッカー選手としての価値を高める為にやっています。

ピッチ内外における時間・活動を全てサッカーに結び付けていくことで、サッカー選手としてもう一つ上のステージに到達できるかもしれない。その視点から僕は、Athelete VALUEを高めるために時間を自分に投資しています。

所属クラブから支払われる年俸に加え、広告料収入や事業収入も含めた総合的な収入がアスリートの価値を測る指標となり、それが選手の市場価値に反映されることも付け加えておきたいと思います。

また、トップアスリートではなく、現在J2リーガーである溝渕選手がオフザピッチで活動の幅を広げていくことにこそ意味があると仰っていて、超絶納得でした。

本田選手や長友選手のように競技力の飛びぬけた選手が、Athlete VALUEを行使してオフザピッチで活動の幅を広げていくことができるのはある種当たり前。ではなくて、僕のようなこれから伸びていく選手がAthlete VALUEを総合的に高めていくことでサッカー選手としてより高いステージに到達する。そんな、新しいロールモデルになりたい。

米田選手のnoteにも通ずる部分がありますが、20代前半のサッカー選手は、このことに気付き、行動を始めている選手が多い印象です。この世代のサッカー選手はきっと新しいアスリート像を作っていくのだろうと思います。



⑤最後に

一言でまとめると
「やり切っている状態」とは、自分で納得できる時間の使い方が出来ている状態のことを指します。

また、「やり切れていない」という感覚は自分のありたき姿とのギャップから生じますが、それは決してネガティブなことではありません。要は、そのギャップを埋めるべく時間の捉え方を見直して「やり切っている状態」に近づけていけば良いのです。

今後、オフザピッチで様々な活動を始めるアスリートは急増していきます。これは、時代の変化とともに避けられない大きな流れです。社会に対して大きな影響力を持つアスリートは、世の中を牽引するポテンシャルを秘めています。そのポテンシャルを発揮し、引退前/後を問わず社会を引っ張る存在になれるよう、支援的な態度で彼らを応援する人が周りに増えていくことを切に願います。

僕もその一翼を担えるよう、引き続き行動していきます。


長くなってしまいましたが、『セカンドキャリアを見える化せよ』連載の第4弾、ジェフ千葉・溝渕雄志選手編は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました!

溝渕選手のますますの活躍を楽しみにしています!お時間ありがとうございました!!



-fin-


五勝出拳一[ごかつでけんいち]
アスリートの価値やブランディング、スポーツBizについて情報発信|脱・セカンドキャリア|東京学芸大学蹴球部&全日本大学サッカー選抜 主務 ➡︎ 現職は広告屋|サッカー選手育成アカデミー神村学園淡路島キャリアアドバイザー|COYG|日本に40人の苗字の持ち主、ゴカツデと読みます。



いつも読んでいただきありがとうござます:)