見出し画像

スポーツと表現とSNSと。アスリートのキャリアは、複雑だ。

SNSはアスリートの武器になる?

2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版させていただいた際、本の帯にデカデカと「アスリートのSNSは武器になる」と語気強めに書かせていただいた私ですが、本書の中では同時に「SNSは上手く付き合わないと自らを傷つける可能性のある諸刃の剣である」ともお伝えしました。

SNSはファン層を拡大したり既存ファンとの繋がりを強めることができる一方で炎上のリスクもある、ということを表現するために「諸刃の剣」というフレーズを使いましたが、今思えばこの表現には至らない部分があったなと感じています。

アスリートのSNS活用は数年前と比べてもより一般的になり、若い世代を中心に上手く各プラットフォームを使いこなす選手がどんどん増えてきています。コロナ禍において試合観戦やファンサービスをオンライン上で行わざるを得なくなった結果、選手がメッセージを伝える場所がSNSに移っていく流れはまだしばらくは続くでしょう。

しかし「SNSを頑張ることが、競技人生を含めたあなたの人生を豊かに・最大化するのか」については、今一度考えてみても良いと思います。

「練習時間は半日以下。アスリートは時間を持て余している」
「引退前から競技人生以外のキャリアを考えて準備すべき」

といった方々から聞こえてくる意見は、多くの選手にとって真実だと思います。しかし「その貴重なリソース(時間や労力)をSNSに投下することがベストなのか?」ということについて、僕は懐疑的です。(アスリートに限らず、ですが。)

現時点での僕なりの結論は「省エネ」且つ「無理なく」続けられるのであれば、SNSを活用すべきだと考えています。アスリートはやはり競技者であって、SNSインフルエンサーではありません。オンザピッチがあるからこそ、SNSでの発信やメッセージもまた魅力的になります。

日本人は元来、「競技」は得意ですが「表現」は得意ではありません。西洋ではスポーツが表現や文化と密接であるのと対照的に、日本ではスポーツは「教育」と近しい関係で扱われてきました。結果として、選手だけでなく指導者や観客も含めて日本のスポーツは自己表現に乏しい傾向にあります。

ヨーロッパの選手たちが、インタビューやSNSでの発信含めセルフブランディングに長けているのも、「プレーすること」「言葉で伝えること」「ビジュアルで魅せること」は全て表現と言う点では一貫しているからです。

そのような背景もあり、日本人のアスリートは特にピッチ外での「表現」は決して得意分野ではありません。しかしSNSは誰にも開かれた自己表現の場であり、「書く」「喋る」「魅せる」「伝える」ことが求められます。

この自己表現能力が高く備わっている選手は、やはりSNSを積極的に活用しています。ヴィッセル神戸の槙野選手やヤクルトスワローズの山﨑選手など、喋りも振る舞いも上手ですよね。

しかし、自己表現能力が決して高くない選手が無理にSNSを活用しようとすると、発信活動に時間をかけ過ぎて競技や生活に支障が出たり、バランス感覚を欠いた余計な発信をしてイメージ毀損を招くリスクがあります。

だからこそ、アスリートの情報発信には適切なサポートや相談先が必要なのかなと。積極的にSNSやメディアを活用しようとすればするほど、客観的な編集機能を備えなければ効果的な発信には繋がりません。

アスリートのキャリアは、複雑だ。

「競技人生」「セカンドキャリア」と言うと、アスリートのキャリアや生活が一義的なもののように感じられますがその実、選手の競技力や年齢、年俸や資産、個人の意識などによってアスリートのキャリアは実に多様です。

【アスリートのキャリアを左右する変数の例】
競技 / カテゴリー / チーム / 協会 / スポンサー / マネジメント / 実績
性別 / 性格 / 年齢 / 知名度 / ストーリー / 年俸 / 資産 etc..

これら複雑に絡み合う変数(=現在)の上にアスリートは立っています。

故に、口に出したくても言えないことが沢山あるし、チャレンジしたくても出来ない事情が山程あって、アスリートは想像以上に身動きが取りづらい職業・立場にあることを、選手と密に関わっていくにつれ、改めて実感しています。

アスリートはより高い次元でプレーすることこそが、引退後も含めた自らの人生の最大値を引き上げる最良のアプローチのひとつでもあるので、特に育成年代や若手選手の頃は競技に集中すべきと私は考えています。(一方で、その期間にも学んだり、色々な情報・人に触れる習慣は獲得しておきたいところです。)

「誰もがより高い次元でプレーし、活躍することを望む」と言う部分は基本的に全アスリートに共通していますが、キャリアのピークを過ぎて現役引退が脳裏をよぎるようになると、その多様化はより加速していきます。引き続き競技力や競技結果を求めて邁進する選手もいれば、デュアルキャリアやビジネスに向かう選手もいる。この多様性していくキャリアのことを私は「グラデーションキャリア」と表現しています。

「セカンドキャリア」「デュアルキャリア」「スラッシュキャリア」等のモデルで説明されることが多いアスリートのキャリアですが、そのどれもがズレなく言い当てられているとは思えません。アスリートのキャリアは様々な変数が混じり合った、非常に複雑なものです。

だからこそ画一的なアプローチではなく、育成年代の選手や保護者、指導者、現役選手の皆さんが情報や機会を自ら選び取れるような仕組み・環境が必要だと考えています。

最後に

今回のnoteは、以前に書き留めたメモの内容をそのままに公開した形でした。あれこれ考えすぎてどこにも公開せずにお蔵入りしてしまう文章が多いので、時折吐き出していきたいと思います。

僕自身、新しいチャレンジを始めているので7月頃にはお伝えできるように日々懸命に生きていきます!最後までお読みいただきありがとうございました。

ノースロンドンダービー、勝つぞ。


fin.

五勝出拳一(ごかつで けんいち)
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションに、マーケティング支援および教育・キャリア支援を行うNPO法人izm 代表理事◁Revive Inc.◁電通ライブ/テック◁東京学芸大学蹴球部 学連|著書『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』/マイナビ出版 http://urx.red/Fh0w


いつも読んでいただきありがとうござます:)