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透明化する現代アスリートが担う7つの重要な役割【TranSport】

久しぶりにnoteを書いています。日々の仕事に没頭して近視眼的になりがちだったことを反省して、先月から意識的にインプットを増やし始めた結果、アウトプット欲も戻ってきました。2023年は無理ない範囲で発信も再開できたらなぁ、、、とは思っています!

インプットの方法としては書籍を読んだり文献を漁ったり人と話したりと、誰もがやっている内容と何ら変わりはありませんが、ここ1-2年は英文記事を意識的に読んでいます。

理由としては、英語の勉強と海外の先行事例や新しい情報を取ってきたいから。ことスポーツビジネスにおいては、やっぱり海外の方が進んでいる面が多いです。僕自身もスポーツの領域で事業を展開していて、より加速させていきたいと思っているのであれば海外の鮮度高い情報に触れておかないわけにはいきません。海外記事を読んでいると、構想/妄想していた事業アイデアを肉付けしてくれるような事例や考察に出会うことも多いです。そこで、この【TranSport】シリーズを不定期で更新していくことにしました。

今回お届けしたいのは、そのように英文記事を読み漁っている中で出会った「The modern athlete and his/her 7 very important roles」の記事。アスリートのキャリアは僕の関心の中心であり、今後も取り組み続けていきたいテーマなのですが、この記事は非常によくまとまっていて、示唆的な内容だったので是非紹介したいと思ってnoteを書き始めました。

2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版させていただいてから早いもので丸3年以上が経ちました。僕自身もこの3年で独立&起業をするなど変化の多い期間でしたが、アスリートの皆さんが身を置く環境もそれ以上に激変の時期だったことと思います。出版当時は新型コロナウイルス流行前でしたし、東京五輪も2020年に開催される予定でした。

スポーツ界は今なおコロナ以前に戻ったとは言い難い状況であり、日本は引き続き慎重路線が継続されるであろう(いつまで続くのか…)ことからも、「回帰」を期待するよりも「適応」と「発明」に迫られています。(今の状況が続くと、この数年で色々な歪みがさらに露見していくことと思います)

ことアスリートにおいても社会の移ろいやテクノロジーの進化によって、求められる役割や提供価値が変化し、画一的だったトップアスリート像も多様化の一途を辿っています。それはメディア環境の変化に依る部分も大きく、マスメディアが大衆に対して共通の絵を届けていた時代から、SNSやOTTがメディアの一等地になった今では、趣味嗜好に応じて見たいもの/見たくないものを個人が選択し始めるようになりました。国民的ヒーローは生まれづらくなってきた一方で、誰かにとってのヒーローの数は増え続けているのです。

現代アスリートに求められる役割は「競技者」に限定されることなく、様々な広がりを見せています。その「広がり」を7つにまとめているのが今回ご紹介する記事の内容です。多様化/複雑化するアスリートのキャリアにおいては、多くの選択肢が選手に与えられています。競技者として追求を続けながら、フィールド外での活動でも結果を残すためには何が必要なのでしょうか。キーワードは「アイデンティティの確立」「一貫性」「透明性」「参加/関与」。ここからは記事の和訳を中心に、僕の所感も交えながらお届けします。


現代のアスリートとその7つの重要な役割

進化を続ける現代のアスリートは、フィールド上のパフォーマンスだけでなく、フィールド外での活動にも気を配らなければならないことが増えています。現代のアスリートにはどのような役割があるのか、考察していきます。

現代のアスリートは多くの責任を負っている

現代を生きるアスリートは、適切な試合・適切なタイミングで最高のパフォーマンスを発揮するだけでは十分ではありません。ファン、スポンサー、クラブ、用具メーカー、社会活動団体、ジャーナリストやメディアなど。今日のアスリートが時間と意識を向ける必要がある対象は、これでもほんの一部です。

なぜ、ピッチ外の活動の重要性が高まっているのでしょうか?それは、アスリートのパフォーマンスを向上させ、収益化するための新たな機会を得るため。アスリートが現役期間中に、あるいは引退後も収益を大幅に増加させる可能性があるのです。パーソナル・ブランドを構築し、ファンを魅きつけることで、たとえ世界トップレベルのアスリートでなくともこれを実現する方法は十分に存在しています。

進化する現代のアスリートと高まる要求

アスリートの人気を支えている最も主要な要素は、やはりアスリートとしてのパフォーマンス=競技面であることは明らかです。ファンは、自分の好きなアスリートやチームが最高のパフォーマンスをする姿を見たいですし、実際、スター選手と自分をあらゆる面で重ね合わせるのが好きだったりします。

しかし、そのような熱狂的なファンは、より多くのことを求めています。例えば、好きなスター選手の生い立ちや背景、人柄を少しでも知ることができるコンテンツを期待するようになり、ストーリーに強い共感を示します。自分の好きな選手を優れたロールモデルとして捉えているのです。

透明性、アイデンティティ、価値観が重要

つまり、アスリートはこれらのニーズに対応し、自身の個性に合ったパブリックイメージを慎重に作り上げなければなりません。これは簡単なことではありません。たった一つの行動で、自らの評判が台無しになることもあるからです。たった一度の失敗でパブリックイメージや自身のキャリアを壊してしまう悲劇は、これまでにも繰り返されてきました。

ですから、現代のアスリートは、社会に対して透明性を持ち、自分のアイデンティティと価値観を十分に認識し、その基準に従って生きていることが重要になります。透明性とは、オープンであること、率直であること、そして何も隠さないこと。アイデンティティとは、アスリートをその人たらしめている資質、信念、性格、外見、表現のことです。価値観とは、その人が生きていく上での原則や基準です。

もしアスリートがこのことを意識し、自分のアイデンティティと価値観が何であるかを知っていれば(残念ながら、実社会の人々と同じように、多くの人はそうではありません)、自らの行動は首尾一貫としたものになります。

ファンは、24時間いつでも多くのリソースにアクセスできるため、アスリートが隠れることはほとんど不可能です。もし彼ら/彼女らの行動がアイデンティティと価値観に合致していない場合、これらの行動は遅かれ早かれ裏目に出るでしょう。価値観とアイデンティティを持ち、それに従って行動/発言をするアスリートは必ず報われる。最終的に行動/発言は蓄積されることで、人気につながり、お金になるのです。


アスリートのさまざまな役割

以下では、パフォーマンスに関連するもの、ファンに関連するもの、ビジネスに関連するものなど、アスリートのいくつかの役割について説明します。これらはすべて相互に関連しています。それぞれの役割が、自身のアイデンティティと価値観に合致していれば、アスリートが自身の言動をマネタイズすることにも一役買うでしょう。

多様化するアスリートの役割の責任の一部は、マネジメント会社やマネージャーによって対処することが可能です。しかし、真にアスリートが成功するためには、彼または彼女はあらゆる役割に対して積極的に参加する必要があります。では、成功するアスリートの主な7つの役割について説明していきます。

1.パフォーマーとしてのアスリート

アスリートの最も重要な役割は、やはり競技者としてのパフォーマンスです。これがアスリートの最大の存在意義であり、そもそもスポーツを始めた理由でもあります。ファンがついてくるのもそのためです。競技者としての側面がなければ、誰も彼ら/彼女らのことを世の中が知ることはありませんでした。もちろん、競技力がずば抜けているに越したことはありませんが、それが必ずしも必要ないわけではなくなってきているのも事実です。あまり有名ではないスポーツの専門家でも、ソーシャルメディア戦略を入念に練り上げ、それできちんと生計を立てている例はたくさんあります。

ペイジ・スピラナックはプロゴルファーですが、競技面だけで言えばそれほど有名な選手ではありません。しかし、彼女はソーシャルメディアのスターとしての地位を高め、インスタグラムとフェイスブックで400万人近いフォロワーを持っています。彼女は、ゴルフをビジネスの世界で賢く活用し、インフルエンサーとなり、自分の信念を貫いているのです。賢いし、何も間違ってはいません。今の時代、トップレベルのパフォーマンスを発揮できないアスリートにも居場所があることを教えてくれているのです。

2.インフルエンサーとしてのアスリート

インフルエンサーとしての役割は、ますます重要になってきています。ブランドは、SNSの浸透に伴いファンの関心がチームから選手個人に移っていることを受け、チームに関するマーケティングから、個々のアスリートを中心としたマーケティングにシフトしているのです。これはゆっくりと、しかし確実に、ニューノーマルになってきています。アスリートがインフルエンサーとして活躍することは非常に重要なことで、ファンと交流する機会を得られるだけでなく、自分のキャリアをマネタイズする新たな可能性を獲得することにもなるからです。

ここでも重要なのは、インフルエンサーとして活動する際に、自分のアイデンティティや価値観と言動を一致させることです。それは、あなた自身であり、あなたが支持し、信じているものでなければなりません。それを自らの方法で語り、実践するのです。もし、あなたがサステナビリティや環境を支持しているのであれば、プラスチックや石油会社との関わりを持たないようにしましょう。透明性と一貫性が損なわれた瞬間に、あなたの信頼性は瓦解し、ファンからの支持も驚くスピードで失われていきます。

自分の価値観を貫いている選手の例として、アメリカンフットボール選手のコリン・キャパニック選手が挙げられます。ファンは彼をリアルな存在として認識していますし、インフルエンサーとして非常に重要な存在です。当然ながら、ナイキは彼の重要なスポンサーになっています。ナイキはアスリート個人がコミュニティとブランドの両方に対して何ができるかをよく理解しているのです。

3.コンテンツクリエイター/権利保有者および配信者としてのアスリート

パーソナルブランドを構築し、ファンとつながることは、あなた自身の価値を高めるために非常に重要です。あなたのファンはあなたのフォロワーであり、その逆も然りです。あなたのブランドだけでなく、ソーシャルやデジタルでのフォロワーの大きさが、広告契約やスポンサーシップを得るための重要な基準となります。したがって、価値を表すフォロワー/ファンとつながることが重要なのです。これを定期的に行うことで、信頼と長期的な関係を築くことができます。そのための最もメジャーな方法が、コンテンツを作ることです。これは、ニュース、写真、ビデオの投稿だけでなく、ストーリーテリング、特別な映像コンテンツ、社会的な事柄に対する自分の意見を述べること等を意味します。

ファンは、アスリートがソーシャルメディアに積極的に参加し、近況を伝えてくれることを期待しています。アスリートは、自らコンテンツを作成することで、自らの手で運命を切り開くことになるのです。アスリートはもはや第三者に依存することなく、外の世界と直接交流することができるようになりました。この流れは、今後ますます重要になっていきます。さらに、アスリートはコンテンツの権利を所有し、その権利を活用して配信契約を結ぶことも可能です。すでに、Players Tribuneのようなプラットフォームが誕生していますね。デロイトスポーツリサーチのブライアン・フィンケル氏の「アスリートとファンの間の垣根が低くなればなるほど、より多くの商機が実現するのです。ファンが好きな選手と共感することの価値は計り知れません。」という言葉がすべてを物語っています。だからこそ、ファンとのつながりが大切なのです。

4. データ提供者としてのアスリート

データ提供者の役割を担うアスリートは、ますます力を持つようになっていきます。 スポーツに限らず世界の重要なトレンドはすべてデータに関連しており、アスリートは自身の利益のためだけでなく、ファンエンゲージメントの目的のため、データ分析会社のため、スタジアムのため、トレーニングプログラムのため、メディア会社のため、ウェルネス業界や数多の商品開発のため、ベストプラクティスなどのために、データの提供者としての役割を持っているのです。

実際、多くの産業がこれらのデータの恩恵を受けることになります。NFLは、回復、睡眠、トレーニング、健康をモニタリングするウェアラブルシステムを導入しており、各選手にパーソナライズされた推奨事項やコーチングのフィードバックを提供しています。これによって、選手は自分のパーソナルデータをマネタイズすることも可能です。スポーツ現場、ファン、メーカーの三者が、Win-Winの関係を築くことができるのです。

5.ロールモデルおよびアンバサダーとしてのアスリート

この役割もまた、アイデンティティ、価値観、ファンとのつながりに関わるものです。現代のファンは人種差別や環境、子供の教育などテーマは異なれ、スターが社会的に関わり、立場を表明してくれることを望んでいます。多くのアスリートが財団を設立したり、チャリティーに積極的に参加したりするのは、このためです。チャリティーや社会貢献活動の大使になることで、スターの好感度が上がり、その結果、商業的な価値も上がることは明らか。これは、アスリートに直接金銭的な報酬を与えるのではなく、間接的に報酬を与える役割でもあります。

しかしこれは、細い糸の上を歩いているようなものです。もしアスリートが短期的に利益を得ようとして、アイデンティティや価値観と一致しない大義に支援を行い、そのギャップがファンに露見した時には、その偽りの言動によってアスリートの価値を落とすことになるでしょう。繰り返しになりますが、自分の信じることに従って、一貫した言動を取り続けることが重要なのです。

さらに、アスリートは、所属クラブの代表でもあります。同時に、クラブはアスリートに対してその集団のロールモデルになることを求めます。これは、社会的責任を果たし、クラブの価値観やアイデンティティを代表する存在であることを意味します。もし彼らが不品行な行動をとれば、それは大きな反響を呼び、それ故に彼らの商業的価値に影響を与えることに直結するのです。最近だと、元イングランド代表のサッカー選手メイソン・グリーンウッドの例がすべてを物語っています。レイプと暴行の疑いで逮捕されたグリーンウッドは、すぐにナイキから解雇され、所属クラブのマンチェスターユナイテッドからも全ての活動停止が発表されました。この愚行は彼の今後のアスリートのキャリアに大きな影を落とし続けることでしょう。

6.起業家としてのアスリート

起業家としてのアスリートの顔は、これまでに説明してきたすべての役割が集約されており、昨今明らかに重要度を増している役割です。起業家としてのアスリートは、用具メーカー、データ分析会社、スポンサー、クラブなどと交渉し、取引を成立させます。さまざまな権利や活動、スケジュールを管理するだけでなく、これらの活動を収益化するのも彼ら自身なのです。一方で、アスリートがこれら全てのタスクを行うには時間がかかりすぎるため、マネジメント会社や企業がその多くを代行しています。しかしアスリートにとって、関与と参加意識は非常に重要です。誰かに任せっぱなしにしていては、得られるリターンも得られません。起業家としての役割を強く認識し、自らでキャリアの手綱を握るのです。

7. マネージャーとしてのアスリート

マネージャーとしての役割は、競技場でのパフォーマンスに加えて非常に重要なものです。必要に応じてアスリートのさまざまな役割を管理し、スケジュールを割り当て、上記のような様々な役割を遂行します。アスリートには限られた時間や知識しかないため、これらの責任の多くはマネジメント会社やマネージャーが引き受けることが多いです。しかし、真に成功するためには、アスリートが積極的に全ての役割に参加し、自分の価値観やアイデンティティを自覚する必要があります。そのために、適切なマネージャーを選ぶことも現代を生きるアスリートにとって重要な能力なのです。

ナダルとフェデラーの事例に学ぶ

ナダルとフェデラーは、現代のアスリートの好例として広く知られています。様々な役割を強く意識し、価値観やアイデンティティと行動が完全に一致しているアスリートの好例が、ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルなのです。どちらも全く異なる存在ですが、ファンからは絶大な人気を誇っています。彼らが代表するブランド、アンバサダーとしての役割、そして起業家としての活動に価値観やアイデンティティが反映されているのです。


最後に

これからを生きるアスリートの仕事は、決して楽なものではありません。アスリートのさまざまな役割には、価値観の一致、明確なアイデンティティ、フィールド内外での透明性が求められます。10年前と比較しても、パフォーマンスだけで通用する選手は一握りです。僕は、アスリートの在り方が多様化することに関しては賛成。だけど、全員が追随する必要はないと思っています。アイデンティティと価値観を強く自覚し、行動を自ら選択することが重要。世界を舞台に活躍する日本人アスリートが増加し続けていることと比例して、アスリートの競技外での活動を後ろ支えするビジネスサイドも成長していかなければ、多様な役割をアスリートが全うすることはできないと感じた記事でした。

ただ英文記事を和訳するだけならまだしも、和訳して伝わりやすい表現に翻訳するのはなかなかやっぱり時間がかかる作業でした(笑)。でも、英語をただ流し読みするよりも間違いなく良い勉強にはなるのでまた時間を作ってやりたいと思います。

そして、、、五勝出は2023年動きます!カタールW杯を現地で観戦して、同世代の活躍ぶりに食らってしまいました。今後のチャレンジについてはまたお知らせしたいと思います。

7700文字と長文でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました!


fin.

五勝出拳一(ごかつで けんいち)
SEIKADAI inc.代表取締役|広義のスポーツ領域で、クリエイティブとプロモーションやってます|『アスリートと社会を紡ぐ』@npo_izm代表理事|東京学芸大学蹴球部 学連 →電通テック/ライブ→スタートアップ→独立|著書『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』/マイナビ出版


いつも読んでいただきありがとうござます:)