可動産は私たちの日常やビジネスをどう変える?タイニーハウス研究会@Gokalab 開催レポート
2024年4月20日(土)、御代田町のコワーキング&カフェ Gokalabに、YADOKARI社の共同創設者 上杉勢太さんをお招きし、近年ますます注目度の増すタイニーハウスや可動産の知見をシェアしていただきながら、活用の可能性を妄想するイベントを開催しました。御代田や軽井沢、東御などから研究員を含む約20名が集合。後半のワークショップの様子も含め、注目のトピックをダイジェストでお届けします!
Gokalab周辺の宿泊の選択肢を増やしたい
イベントの発端は「Gokalab周辺に宿泊施設の選択肢が少なくない?」という研究員同士の何気ない会話から。経済的合理性の外にある働き方や仕事を研究する場所として、また移住者同士のコネクトポイントをつくる場所として、オープンから1年余り経ち研究員も80名を超えてきたGokalab。その周辺に面白みのある宿泊機能が加わることで、さらに広がることがありそうです。そこで、研究員内のつながりを通じて、タイニーハウス事業を展開しているYADOKARIの上杉さんに登壇していただくことに。
YADOKARIさんは創業以来、「住宅コストのダウンサイジングがもたらす豊かさ」を探求し、タイニーハウスや移動する暮らしなどの新しいライフスタイルを提案し続けている企業です。目指すのは「より幸福度の高い暮らしの実現」。近年は大手鉄道各社や各地の自治体と共創し、可動産を活用したまちづくり・コミュニティ創出のプロジェクトを多数手掛け、2023年からは自社工場にてタイニーハウスの製造・販売も開始しました。
イベントでは、上杉さんからタイニーハウスや可動産ムーブメントの背景と、国内外のさまざまな活用事例、現時点での技術的課題などをご紹介いただきました。
豊かさの価値観の変化とコロナによるライフスタイルの変化が需要を加速。タイニーハウスの注目トピック
タイニーハウスムーブメントの起点と海外事例
・「小さな家」の源流は、北欧の「夏の家」から。スウェーデンやデンマーク、ロシア等では短い夏を家族や仲間と共に、母屋から90分圏内くらいに持っている郊外の菜園付きの小さな家で楽しむ。しかも、その小さな家をDIYでつくり「自分で自分の住まいをクリエーションする」文化がある。小さな家をつくる商品として、フラットパックで届き大人2人で組み立てられる140万円の家のキットなどもある。
・「タイニーハウス」という言葉はアメリカ発祥。2007年のサブプライムローン破綻をきっかけに、住宅ローンを使わずコミュニティビルドで小さな住まいをつくりミニマムな暮らしをする、資本主義へのカウンターカルチャーが勃興。日本でも2011年の東日本大震災以降、モノやコトとの距離感を再編集し自分がどうやったら幸せになるのかを試行する人が増加。全世界的に「コミュニティで小さな家をつくって自分たちの豊かさを考えよう」の動きが。
・同時期に「バンライフ」=車で移動しながら暮らすスタイルも増加。上杉さんが実際に取材したアメリカの若きメジャーリーガーは、年棒2億円でありながら車を住まいとして暮らし、「キャンプ地に合わせてサーフボードを積んで移動しながら滞在地で波の良い朝に海に入り、その後おいしいモーニングコーヒーを淹れて飲んでから練習に行く、その時間が人生最高の幸せ」と語り、年棒の半分は寄付しているという。お金、時間、場所に縛られない暮らしこそ幸福。幸せや豊かさの価値観は確実に変化している。
・大きなスクールバスを改装して住まいにする事例や、二階建てバスの1階を店舗、2階を住居にしている事例も。
●国内の移動する暮らしやタイニーハウスの状況と事例
・日本でも少子化、核家族化、一人住まい増加の流れから住宅のダウンサイジングの流れは始まっており、近年は、新築では70㎡以下の住宅需要が増加。
・キャンピングカーは日本でもアクティブシニアを中心顧客層に伸び続けている。自ら旅行で使う稼働日以外はレンタルとして貸し出し、その仲介をする専門業者もいて、投資とライフスタイルの楽しみを併用する形で人気。
・コロナ後のリモートワークの一般化やアウトドアブームと相まって、可動産市場も右肩上がりに拡大中。2023年時点で国内の可動産市場(トレーラーハウス+キャンピングカー+タイニーハウス)は1500億円、2030年には3000億円に達する予測。(グローバルでは2028年予測で3.5兆円とも)
・現在YADOKARIさんが製造・出荷しているタイニーハウスのうち6割は宿泊業向け、残りはオフィス、キッチンカー、サウナ(河辺や浜辺にも置ける)など
・企業・自治体・地域×YADOKARIの可動産を使ったプロジェクト事例
公共空間や暫定地、農地、高架下の防火地域等における建築確認申請不要&2〜4年で減価償却でき節税対策にもなる可動産の強みが生きる。モビリティなら地域コンテンツを広範囲に届ける手段にも。
- 横浜市日ノ出町エリアの京急電鉄高架下でタイニーハウスによるまちづくり。戦後の赤線地帯を、タイニーハウス(宿泊・飲食・SUP施設)で文化発信と交流の場所へ変化させた。
- JR東日本のスタートアッププログラムにて真鶴市の無人駅から改装バンで地域をめぐり、地域のプレイヤーと出会うマイクロツーリズム事業を実施。絶景の高台にあるみかん農園にタイニーハウスを設置して滞在。地域の人に出会うことで高い再来訪率も見込める。
- 自治体が災害時の炊き出しトレーラーなどBCPとして所有し、平常時は地域プレイヤーに貸し出して地域の賑わい創出や待機児童対策などに活用。移住者向けのお試し住宅として地域内に点在させたり、アンテナショップを可動産にして全国行脚させるなどの企画も。
・岐阜県での個人顧客のタイニーハウス活用事例。
建築が難しい市街化調整区域にも可動産は有効。仲間同士で80万円ずつほど出し合い広大な山林を300万円ほどで購入。基礎のない「小屋」(YADOKARさんIが過去に製作した“INSPIRATION”という移動式の小屋)を起点に自分たちの家族や友人が遊べるコミュニティを創出。使わないときはAirbnbで貸し出し、収益で露天風呂をつくるなど創造的な暮らしを楽しむ。
可動産の今後の進化と課題
・モビリティ(自動車分野)のテクノロジーも進化。自動運転が発達し、目的を持った空間がそのまま移動してくるなど。例えば海外ではGoogle等の企業数社が出資し、自動運転で移動する診療所に取り組む。過疎地や離島などで今後ますます重要に。移動型空間が既存の空間に自動でやってくるようになった時、まちや暮らしのグランドデザインは大きく変わる。
・可動産やモビリティのカンファレンス等で議論されている課題は主に2点。
- テクノロジー(自動運転など)
- オフグリッド化(上下水道、エネルギーなど)
EVや太陽光発電、バイオ下水処理などのオフグリッド技術が発展する中で、特に水の調達と処理が課題。汚水浄化でシャワーにできるくらいのレベルにはなっており装置も小型化・ローコスト化してきているが、下水が飲み水になるまでにはもう少し。
人生の後半は「居場所」が大事。自分が選びたい関わりを問う
こうした事例の紹介を通じて、上杉さんは「かつてはステイタスシンボルだった別荘の価値観は変化し、コミュニティづくりのための二拠点目となっています。多くのお客様と接する中で、お金がたくさんあってもみんなが最後に求めるのは結局、居場所だと感じます。タイニーハウスを通過した後に、自分がどんな物や人との関わりを選んでいくのかが重要ではないでしょうか」と語りました。
第二部はLEGO®︎ で欲しいタイニーハウスをつくるワークショップ
イベント後半は、研究員であり認定ファシリテーターの大北優美子さんにファシリテートしていただき、4つのグループに分かれ、「LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎メソッドと教材(つまりLEGO®️)を使って発想するワークショップを行いました。
日頃は言葉を使ってアイデア出しや議論を行っている方がほとんどだと思われますが、「行き詰まったら手を動かし、手に導かれてみる」というこの手法を使うと、言葉になる前のモヤモヤしたものまで深く吸い上げることができ、企業の理念やMVV構築などでも活用されています。Gokalab研究員になる際にもやりましたね。
LEGO®︎ を組み立てて自分を語るという自己紹介から始まり、Gokalab2階のステージ上に用意されたLEGO®︎ の山からパーツを持ってきて、自分が欲しいと思うタイニーハウスを各自組み立ててプレゼン、その後はグループ内で出揃ったそれぞれのタイニーハウスを合体させて、そのタイニーハウス村を名付けてみるという、限られた時間で手も頭も夢中で使って協業した、楽しい時間になりました。
4チームから生まれたタイニーハウス村はこちら!
みなさん子ども顔負けでLEGO®︎ と戯れた熱い50分。左脳の限界を超えたアイデアが続出でした。出来上がった作品に対して上杉さんは「ふだんの社内のディスカッションでは想像もできないようなユニークなアイデアがたくさん出て、全部やってみたくなります!」とコメント。このイベントを経て参加者のみなさんも、タイニーハウスや可動産の解像度が上がり、何かやってみたくなった人も多かったのではないでしょうか。
上杉さんはこの日の午後に研究員入会のためのオリエンテーションを受け、論文提出後、近日中に研究員に加わる予定です! 今後も引き続き、タイニーハウスやそれを使った活動、ビジネス、地域課題の解決などいろいろ相談できそうですね。タイニーハウスの登場でGokalabとその周辺がさらにつながり、「遊び」や「はたらく」をますます生み出す楽しい場所、地域になっていくことを願っています。
文/研究員 森田マイコ