06_年の瀬、晴れの日 -餅ヶ浜温泉(別府)-
年に二度、夏と冬に部屋中をぞうきんがけするようにしている。
夏はからりとした暑さで乾くから。冬は大掃除も兼ねている。
年末の帰省前になると、いつも落ち着きがない。
年の瀬までまだ2週間以上あるけれど、快晴の休日、早々と冬のぞうきんがけをすることにした。
まずは掃除機をかけて、部屋をざっときれいにする。のホコリを取り除く。雑巾は使い古しのタオルを切ったものを使う。うすっぺらの雑巾よりも、使い古されたタオルの方が吸水が良く拭きやすいのは、学生時代のそうじの時間から学んでいる。
一人暮らしの部屋といっても、風呂場、トイレ、台所と、拭き場所はいくつもある。順番に玄関に向かって、ベッドの下、クローゼットの奥、ソファーの下やデスク周り、本棚もひとつずつ本を出しては拭きあげる。乾拭きも忘れずにしつつ、早く乾くように寒いの承知で窓も開ける。今日は少し風が強いのか、カーテンが元気よくはしゃいでいる。
部屋の隅々まで拭きあげたら、トイレ掃除、風呂場のカビ取りもちゃちゃっと済ませる。必死に掃除をしていると、案外寒さにはへっちゃらだったが、動きを止めるとたちまち冷える。バタンと急にトイレの扉が閉まり、慌ててトイレの壁の窓を閉めた。働いたあとはひとっ風呂。時計の針はまだ正午を指しておらず、腹の虫もまだおとなしい。昼食の前に温泉に行くことにした。
徒歩圏内には3つのジモ泉がある。
その内1つは行ったことがあって、残り2つはまだだったから、そのうちの片方に行くことにした。餅ヶ浜温泉。炭酸水素塩泉。ジモ泉。一階が温泉、二階が公民館といった共同浴場のよくあるスタイルであることは後に気づいた。ここでは男湯、女湯の分かれ場所が内側ではなく、外側にある。数ヶ月前に入った若草温泉も同じような入り口だった。(若草温泉の記事はまた後日。)男湯のドアを開けると透明な料金箱と入湯印があるのを見つけた。100円玉一枚、ころんと入れて入湯印を押す。「餅ヶ浜」の名の通り、網の上で焼かれた餅の絵が彫られていた。矯正中で年始のお餅が食べられないのがくやしい。休日のお昼どき。人は少ないだろうと読んでのれんをくぐると、ひとり先客の方がいるのが見えた。
先客の方が引き戸越しにずっと立っているのが見えて気になっていたが、浴室に入って納得した。髭剃り用の鏡が立ち見で見る高さに貼られていた。座る高さに鏡がある温泉がほとんどだから、すごく新鮮に感じた。
壁に横長の長方形型の浴槽は壁にぴたりとくっついていて、2〜3人ですぐにぎゅうぎゅうになる。夏に入った不老泉みたいに、浴室の中央に浴槽があると、周りをぐるりと全部洗い場として使えるけれど、壁にくっついているとなると、混み合っている時は譲り合いが大切になる。(不老泉の記事はまた後日。)今はちょうどふたりだけ。鏡とは反対側の左端に座り位置を取った。湯をかぶるとちょっぴり熱い。壁に貼られた温度計を見るとおおむね43〜44度ほどだった。ずっとしゃがんだ姿勢だったからか、身体はバキバキにこわばっていた。
ちょうど身体を洗い終えようとした頃、先客の方が上がっていった。互いに軽くあいさつをして、独泉になった。
浴槽の両端は、一段段差があって、肘を置くのにちょうどよかった。一人で入っているのもあって、壁に向かって足を伸ばしていた姿勢を横長の浴槽の向きに合わせるように変えてみた。すると、両肘がちょうど段差に置けて、思わず「極楽、極楽」と言いたくなる。
寒いと思えば近くの湯屋に行けばいい。
これは別府のような湯の街にいるからできること。末端冷え性持ちの自分にとって、これ以上の好都合はない。小さな幸せを噛み締めて、風呂を上がった。
部屋に戻ると、大掃除のおかげかいつもより少し明るくなった気がした。
ベランダで干していた布団を叩くと、たちまちお日さまの香りが伝わる。