Bon Joviはすごい!〜ハードロック・ヘヴィーメタル雑語りへの反論〜:オジ&デス対談第8弾 Vol.8
さて、《ハードロック/ヘヴィーメタル雑語りへの反論》もいよいよ最終回です。Vol.7に引き続き、今回もBon Joviの魅力について様々な角度から語っています。この対談が、誰かにとって、Bon Jovi(および、対談内で触れた周辺のバンド)との新たな出会いや再会のキッカケとなってくれたら非常に嬉しいです。
なお、今回はVol.7までと比べても5000文字分ほど長くなっていますので、その点をご承知の上で読んでいただければ、と思います!
アルバム『Keep the Faith』と「90年代っぽさ」
デス:うん。Bon Joviのことをよく知らないひとは、Bon Joviってのは聴きやすくてメロディックで楽しいだけの浅いロックをやってるバンドでしょ?って思ってるかもしれないけど、本当にそれだけのバンドだったらKeep the Faithみたいな曲は作れないから。だって、NIRVANA(ニルヴァーナ)にKeep the Faithみたいな曲作れるか?っていったら、多分作れないんだよ。
デス:うん。そう、NIRVANAが悪いって話じゃなくて、Bon Joviが得難いものを持っているってことが言いたいのね。それにNIRVANAがあの曲を作ったとしてもきちんと演奏できないしさ、悪いけど。
デス:技術的にカート・コバーンには歌えないし、カートのギターの演奏力からしても弾けないと思うし…。デイヴ・グロールはティコ(Bon Joviのドラマー)と同じくらいかそれ以上にドラム叩けるかもしれないけど。あ、あとね、Pearl Jam(パール・ジャム)だったら演奏できると思う。
デス:パール・ジャムは演奏も上手いし器用だから、意外といけると思うんだよね。しかもBon Jovi好きのメンバーもいるし(笑)。あと、エディ・ヴェダーのあの声が震える感じもちょっとBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)っぽさがあるよね。エディもブルース・スプリングスティーンを敬愛してるから。
あ、ここで一応、念を押しておきたいんだけど、別にBon Joviやパール・ジャムを持ち上げるためにNIRVANAとカート・コバーンを貶めたいとかではなくて、NIRVANAも同じくらい特別な凄いバンドだってことは言っておきたい。カートはなにより素晴らしい声の持ち主だし。って、ちょっと脱線したけど、まぁ、みんな『Keep the Faith』を聴いた方がいいよね。個人的にI Want Youだけは、Bon Joviにしてはわりと普通のバラードでイマイチだなと感じるけど、他はとても良い。80年代とは一味違う作風なので、Bon Joviを馬鹿にしてるひとにこそ聴いてほしいなって思う。
デス:いや、あのアルバムはI Want You以外は後半もいいんだよ。I Want Youもオレはあまり好みではないってだけで、駄作ではないし。ただ、れっどさんが言ってるように前半がすごすぎて、後半がいわゆるB面っぽく聴こえちゃうとこはあるのよね。
デス:Dry Countyくらいまでだよね?
デス:Dry Countyは、夢に破れた労働者がアメリカの繁栄から取り残されてしまった悲哀を歌ってるからか、音もどこか埃っぽく殺風景な雰囲気があって、Keep the Faith以上に長いギターソロがカッコいいんだよね。
あと『Keep the Faith』に入ってる他の曲で、90年代っぽい曲って言うとIf I was your Motherがあるよね。歌詞もちょっと倒錯してるっていうかさ。「僕が君のお母さんだったら」ってさ。
デス:そうそう。ああいうちょっと病んでる感じって言うのかな、あれははっきりと90年代らしいよね。ギターの音とか演奏自体もヘヴィーだし。
デス:ブラック・アルバムでのMetallica(メタリカ)とかAlice in Chains(アリス・イン・チェインズ)にも通じるようなヘヴィーさがあるんだけど、あのアルバムはプロデューサーがボブ・ロックってひとで、ブラック・アルバムと同じ人なんだよ。それ以前のBon Joviのアルバムでもエンジニアとして参加してるから、お馴染みの人なんだけど。
ちなみにメタリカがボブ・ロックの起用を決めたきっかけは、ボブのプロデュース作である1989年発表のMötley Crüe(モトリー・クルー)のアルバム『Dr.Feelgood』を聴いてのことなので、90年代型のオルタナティブなメタルの前段階に、ボブ・ロックを介する形ではあれど意外なことにモトリー・クルーがいたわけだよ。
デス:うん。で、『Keep the Faith』はボブ・ロックがブラック・アルバムの翌年にプロデュースしてるアルバムなんだよね。だから、『Keep the Faith』にある90年代っぽさって、Bon Joviのメンバーが自発的に取り入れたものなのか、ブラック・アルバムを手掛けたボブ・ロックやはたまた外部ライターのデズモンド・チャイルドとかのアドバイスによるものなのかはよくわからないんだけど、ただ、90年代的ヘヴィネスに満ちたIf I was your Motherにしてもやっぱりどう聴いてもBon Joviの曲なわけだよ。ちゃんとダークでヘヴィーな曲になっているんだけど。
デス:そうそう。で、あの曲って、サビ(というか正確にはBメロかも)のジョンの歌メロのピッチが1回目と2回目でちょっと変わるんだよね。簡単に言うと、2回目の方が音程が高くなってる。3回目では1回目に近いピッチに戻る。そんな感じに捻りが効いてる。
デス:でしょ?
そんな感じで、曲自体が、変にトレンドに流されすぎずに、かといって、いかにも「Bon Jovi的なものとトレンドを足しましたよ」みたいな単純で安直な足し算にもならずに…あれですよ、新時代のヘヴィネスとBon Jovi的なメロディ感覚のケミストリー!
デス:ちゃんと有機的に、Bon Joviというバンドとしての化学反応が起きてるわけだよ。これはさ、曲作りという段階でもそうなんだけど、ジョンのシンガーとしての力の成せる技なんだよね。
ジョンという魅力的なシンガー
デス:Bon Joviってさっきも言ったように、もともと哀愁のある曲も多いし、80年代の時点でも曲調がダークなものも実は結構あるんだよね。だから、簡単に言えば、ジョンは色んなタイプの曲が歌えるシンガーなわけだよ。明るいものも歌えるし、切ないものも歌えるし、暗いものも歌える。90年代の前半に入って、グランジ・オルタナっぽい方向に舵を切ったバンドってのは他にも色々いて、たとえばKISSなんかもそうなんだけど…。
デス:でもね、ポール・スタンレーはすごく歌がうまいけど、ポールの声はねぇ…
デス:うん、やっぱり、ちょっとね、ポールの声でグランジ並みにダークな歌を歌われてもミスマッチになっちゃうんだよね。ジーン・シモンズだったらいいんだけど。あと、モトリー・クルーも90年代に入って、割とグランジっぽいアルバムを出してて、これは結構いいんだけど、ただ、その時って一時的にヴィンス・ニールが脱退してて、ジョン・コラビがヴォーカルだったのね。ジョン・コラビは、声のタイプがヴィンスとは全然違ってて、どっちかというとハスキーでブルージーな感じなんだよね。
デス:そうなんだよ。でも、ジョン・コラビは、クリス・コーネル(Soundgardenのヴォーカル)とレイン・ステイリー(Alice in Chainsのヴォーカル)の中間みたいな声だから、グランジっぽい作風ともマッチしてたし、あのアルバムは悪くなかった。もし、ヴィンス・ニールが歌ってたら、変な感じになってたんじゃないかなーって思う。
デス:曲が良くても、声とか歌い方がイマイチ合ってないってことはあるわけでさ。Bon Joviのジョンは、案外そういうことがない。やたらとわざとらしく声色を変えるみたいなことをしてるわけでもなくて、ジョンのままで割とナチュラルに様々な曲調にマッチするんだよ。そういうジョンのシンガーとしての才能ってのが、正しく評価されてないなってことも、オレは前から思ってるんだけど。
デス:そうそうそう。
デス:そうなんだよね。あれもね、なんかねぇ…。だってさ、ジョンとオジー(・オズボーン)のどっちが歌が上手いかって言ったら、どう考えてもジョンの方が上手いわけだよ。ジョンとヴィンス・ニールでもジョンの方が上手いしさ。だからオジーやヴィンスがつまんないシンガーってわけじゃ全然ないけど。
デス:うん、それに、ただ上手くても声とかにいまいち魅力がないひとってのも、まぁ、いるわけだよね。逆に声には魅力があっても、テクニックや相性などを理由に歌える曲の幅が決まっているシンガーもいる。そう考えると、ジョンは割とあらゆる方向で魅力や個性を発揮できるシンガーだって言えると思う。
デス:そうなんだよ。
デス:うん。Bon Joviはけっこう全部難しいよね。オレの友達にも、歌が上手くて声がよく出るヤツがいて、Livin’ on a Prayerなんかも普通に歌えたりするんだけども、でも、歌えたところでジョンのように魅力的にはならないんだよね。まぁ、これはBon Joviに限らないけど、歌って同じ音域が出ればいいってもんじゃないからね。
デス:そうそう。同じように音域が広いシンガーでも、ポール・スタンレーの声なんかは、個人的にはずーっと聴いてるとちょっと疲れるんだよね(笑)。上手いんだけども。ロブ・ハルフォード(Judas Priestのヴォーカル)とかアクセル・ローズ(Guns N‘ Rosesのヴォーカル)の声ってのも、四六時中聴いていたい声か?っていうと、そうでもないかな、って気がする。
デス:うん。で、HR/HMの世界で歌が上手いひとって言ったら、日本のリスナーの間では、ロニー・ジェームズ・ディオ(RainbowやBlack Sabbathなどのヴォーカル)とかロブ・ハルフォードとかブルース・ディッキンソン(IRON MAIDENのヴォーカル)、あとは…
デス:ロバート・プラント(Led Zeppelinのヴォーカル)とかも挙がるのかな?でも、ロバート・プラントってそんなに上手いのかな?って思うんだけど(笑)。シンガーとして偉大なのは間違いないけど。
デス:『LED ZEPPELIN Ⅳ』に収録されているThe Battle of Evermoreのことだよね(笑)。で、ロバート・プラントとジョンだったら、多分ロバート・プラントの方がすごいってことになってるけど、それ、“あの“Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン)のヴォーカルだからすごいんだってなんとなく思ってるだけじゃない?って話で。
いや、確かにあの時代に…って、ツェッペリンの話はいいんだけど(笑)。
デス:とにかくね!ジョンはすごいんだよ!
デス:Bon Joviのファンは、みんなオレなんかよりわかってんだよね。特に『These Days』くらいまでのジョンはシンガーとしてもすごかった。音域は初期の頃が圧倒的だけど、表現力とかを考慮すると、『These Days』でのジョンはシンガーとして絶頂期だった。そういうことをBon Joviファンや普通のHR/HMファンはちゃんとわかってるけど、それ以外の変な頑固系マニアとか評論家だよね。
たとえばロバート・プラントとかディオとかフレディ・マーキュリー(Queenのヴォーカル)とかだったら、特にファンじゃない人でも「やっぱりあの人はすごいよね」とか適当に言うわけだよ、たいして聴いたことがなかったとしても、それが教科書的な模範解答になってるから。でも、ジョンのことはそう言わないわけじゃん?そう言わないことがむしろ模範的だから。そういう風潮もね、イラつくんだけど…、まぁ、とにかくジョンはすごいんだよ!
デス:うん。『Stranger in This Town』は、前に話したようにNew Jerseyツアー後のバンド休止期間にリリースされてるんだけど、隠れたブルース・ロックの名盤だよね。リッチーが敬愛するEric Clapton(エリック・クラプトン)が参加している曲もあるし、Peter Gabriel(ピーター・ガブリエル)のバンドやKing Crimson(キング・クリムゾン)のベーシストのTony Levin(トニー・レヴィン)も参加していて、なかなか豪華だし。同時期にリリースされたジョンのソロ『Blaze of Glory』もルーツ・ロックに寄った作風で、ほぼ全編でJeff Beck(ジェフ・ベック)が参加してるし、Elton John(エルトン・ジョン)やLittle Richard(リトル・リチャード)が参加している曲もある。
ジョンもリッチーもミュージシャンとしてピークの時期だから、どっちもBon Joviのアルバムに引けを取らないクオリティだし、両者のちょっとしたカラーの違いとか、ルーツ・ミュージックに根差したソングライターとしての奥の深さも見られるので、強くオススメしたい!
オジサン、Bon Joviを語る?
デス:まぁ、ジョンやリッチーの何がすごいのか、もっと細かいことを言おうと思えば言えるんだけど、ちょっとオレが喋りすぎたから、オジサン的にBon Joviのすごいところってのはどんなところなの?
デス:いきなりって…今、いろいろ考える時間あったでしょ?オレの話聞いててなんか思ったこととかさ、あるでしょう?
デス:じゃあ、れっどさん(珈音のこと)から聞いてる、「Bon Joviの好きなところ」とかさ。
デス:そこは、オレと同じだよね。
デス:ファンの間では…特に日本のファンの間では、まあまあ人気あるんだけどね。全世界で1000万枚以上も売れてるし。
デス:そうだね。
デス:まぁ、一部では「暗い」とか「Bon Joviらしくない」みたいな意見もあるけど、それでも『These Days』は、日本だけでも130万枚くらい売れてるから、決して「評価が低い」ってこともないと思うよ。『These Days』の次のアルバム『Crush』のIt’s my Lifeが、曲としてメガヒットを飛ばしたから、それと比較すると『These Days』の収録曲で、単独でそこまでの大成功を収めたものはないかもしれないけど。
デス:『Crush』は正確には2000年リリースだよね。録音は1999年からやってるはずだけど。ジョンもキャリアが長いから、シンガーとして色んな歌い方に挑戦してたっていうのはあるかもしれないよね。曲自体も、若い頃の方が、もう少しシャウトするような個所もあったし。さっきも、ジョンのシンガーとしての魅力の話をしたけど、歳を重ねて円熟したからこその変化かもしれないよね。
デス:オレはBon Joviの一番の名盤を挙げろ、と言われたら、『New Jersey』か『These Days』のどっちかで迷う感じだな。でも、代表作で、名盤で、かつ誰にでも勧められるっていう基準で言うなら、悩んだ末に『These Days』の方を選ぶかも。っていうのも、『New Jersey』ってやっぱり「80年代のロックだなぁ」って感じがするんだよね。それは経年劣化のような悪い意味での古さとは違って、むしろ80年代の空気感とその魅力も備えているという意味なんだけど、ただ、どうしてもそういうのが苦手なひともいるから。それを考えると、『These Days』の方がもっとタイムレスなロックっていう感じでしょ。
デス:うん、まとまりがいい感じだよね。でもオレは『These Days』は全体で95点とかだよ。
Bon JoviとHRの関係
デス:『Crush』くらいからは、HR/HM要素よりも「もっと広義のロック要素」の方が強く出てるところはあるよね。『Crush』はJohn Mellencamp(ジョン・メレンキャンプ)っぽいと評価するファンもいた。で、実際のところ、Bon JoviがHRらしいHRをやってたのって、『Keep the Faith』までなんだよね。『These Days』の中で“徹頭徹尾HR“って感じの曲は、Hey Godくらいじゃないかな。そのHey Godも80年代のBad Medicineみたいな(いかにもHRな)曲とは違うわけだよ。で、その他の収録曲は部分的にはハードだったりヘヴィだったりするけど、いわゆるHR/HMではないし。
デス:だから、長い目で見ると、Bon JoviがHRらしいHRやってたのって、初期の頃だけとも言えるんだよね。でも、その時期の売れ方がすごかったから、どうしてもBon JoviっていうとHRのイメージがある。
デス:うんうん。
デス:そうだよね(笑)。オレが家で音楽聴いてるときは、まぁまぁそれなりのスピーカーを使ってるから、れっどさんもそれで一緒に聴いてるはずだけど、「ながら聴き」になってるからね。
デス:そうなんだよ!ミュージシャンの側も、あえて微かにしか聴こえないように入れてる音なんかもあるから、そういう音は、当然、あんまり性能がよくないスピーカーとかイヤホンで聴いてると、聴こえなくなっちゃうんだよね。そうすると、曲全体の輪郭が掴めなくなってしまうこともある。
These Daysとカート・コバーン
デス:ちょっと話戻るけど、『These Days』は単なる個人的な感情としても一番好き。オレも『Cross Road』から入って、最初に買ったオリジナル・アルバムが『These Days』だからね。全部の曲が好きだし、全体的にほんのりダークで、物悲しい。ほら、ジャケ写もさ…
デス:そうそう、ちょっと黄昏てる感じっていうかさ。あのジャケ写のイメージに合った曲調だよね。で、あの頃、Bon Joviのメンバーって、一番若いジョンとデイヴィッドが33歳くらいでしょ?ミュージシャンとしても、普通の人間としても、それなりの人生経験を積んできて、背負ってきてるものについても思うところがあるんだろうなっていう、まぁ言うなれば「ほどよく大人になった」サウンドなんだよね。そういう全体のカラーリングは統一されつつも、一曲一曲に個別の特徴もあるっていうところも、すごいアルバムだと思う。
デス:オレがね、『These Days』のハイライトとして具体的に語りたいのは、タイトルトラックのThese Daysなんだけど、曲がいいのは聴けば誰でもわかる…。わかんないのはおかしいから!
デス:だから、曲調の話はいいので、歌詞の話をしたい。あれは、歌詞が素晴らしいんだよね。
すごくザックリ言うと、人生はままならないし、特に最近は哀しいことも多いけど、それでも生きるしかないんだ、っていうような曲なわけだよね。ちょっと哀感が強調されてはいるけど、Bon Joviらしい歌詞だよね。で、あれ、95年発売のアルバムなんだけど、NIRVANAのカート・コバーンが亡くなったのが94年だから、その翌年のアルバムなんだよね。
デス:そもそも、『These Days』ってアルバムの、あのほんのりダークな感じっていうのは、NIRVANAとかパール・ジャムとか同時代のアメリカのバンドと共振しているようなところがあって、音も少しざらついた感じがある。で、タイトルトラックのThese Daysっていう曲は、あくまでオレの推測だけど、おそらくカートが亡くなったことを意識して作られた曲だと思うんだよね。っていうのも、カートの遺書とされてるものには、Neil Young(ニール・ヤング)のMy My, Hey Hey(Out of The Blue)って曲から“It's better to burn out than to fade away“って一節が引用されているんだけど、そのフレーズと似たフレーズがThese Daysの歌詞にも出てくるんだよ。
デス:うん。These Daysの“And I guess ~“は二番のサビの直前までの歌詞の締めのフレーズなんだけど、二番は全体を通してジミー・シューズという名の少年のお話になっていて、そのお話自体がちょっとカート・コバーンを連想させるんだよね。まあカートとの関連性を抜きにしても普通に歌詞が良い曲なんだけど。
デス:で、カート・コバーンっていう人物は、この対談でもすでに話したけど、80年代的なアメリカのHR/HMを嫌っていた人なわけで、同じアメリカのロックシンガーでも、ジョンとはいわば対極にいるとも言える。だから、カートの側はジョンのことを必ずしも好意的に評価してはいなかったかもしれないけど、でも、ジョンはああいう歌詞を書いてる。
デス:さっきも言ったように、あの歌詞がカートのことを歌ってるように聞こえるというのは、あくまで推測と想像なんだけど、ただ、少なくとも、ジョンはカートのことに心を痛めているということは、当時のテレビのインタビューでもはっきり話してる。で、カートが亡くなったときに、ジョンが真っ先に考えたのが、カートの娘さんのことだったらしいんだよね。あの頃はジョンもちょうど娘さんが生まれたばかりで、それぞれの娘さんたちは同い年らしくて。
デス:そうそう。で、カートの娘さんは物心ついたときにはお父さんがいないわけだし、しかも、ああいう亡くなり方をしている。だから、その事実は娘さんにとって当然ツラいだろうな、と。同じように娘を持つ父親として、そういうことを最初に思ったらしい。それに、同じミュージシャンとしても、ジョンも色んな苦労をしてきているから、カートのことも他人事とは思えずに心を痛めたらしくて。
デス:うん。そうなんだよ。アルバムには収録されなかったけど、These Daysのシングル盤に収録されているデモ音源のLonely at the Topって曲があって、これはカートの娘さんに対するジョンの想いを歌っている曲なんだよ。これについては、たしかジョンか他のBon Joviのメンバーがそう明言してるはずなんだけど。簡単に言うと、カートの娘さんを励ます曲なのね。
デス:他にもね、さっきも少し話が出たアルバム『Crush』に入ってるCaptain Crash & The Beauty Queen From Marsって曲で、ミュージシャンも含む実在する著名人カップルやフィクションの有名カップルなどの名を挙げていくところがあるんだけど、そこにもカートとコートニー・ラヴ(Holeのヴォーカル)の名前が出てくるんだよね。そんな風に、特にあの数年間、ジョンがカート&コートニー一家のことを気にかけていたことを感じ取れる曲が他にもある。
今話してきたような他の事情と合わせて考えると、やはりカートという人物からインスピレーションを受けた歌詞に思えるのが、『These Days』のタイトルトラックなんだよね。
スターにしてヒーローにしてゴッド
デス:なんていうかさ、世の中ってケチなヤツが多いわけじゃん?自分のことを嫌っていたかもしれない人間のこととか知ったこっちゃない、みたいな狭量で冷たいヤツの方が多い。でも、ジョンはそういうケチなことには多分関心がない。そこにね、やっぱり、モスクワ・フェスでヒーローのように登場できた、それだけの度量がジョンには元々あるわけだよね。もう、言ってしまえばマーベル・ヒーローみたいなもんだよ。
デス:そうそう。で、モスクワ・フェスの頃のジョンが人気若手ヒーロー枠のスパイダーマンくらいだとするなら、『These Days』以降のジョンは、もう、まさにキャプテン・アメリカだよ。
デス:キャプテン・アメリカがさ、ブラック・パンサーに対して「お前、俺のこと殴ったから仲間に入れない」「バッキーもブラック・パンサーと仲良くするなよ?」とか根に持ってたら嫌じゃんね?
デス:そうそう。そんなキャプテン・アメリカは嫌だよね。
デス:そうそう。で、カートみたいな人が亡くなったりすると、感情移入して共感する人が出てくる一方で、「幼い子どももいるのに、無責任だ!」みたいな批判も出たりする。まぁ、それは子どもの立場から考えれば、わからなくもないんだけど、でも子ども本人でもない赤の他人が外野からそういうことを言うと、ある種の自己責任論みたいなものになって有害でもあるわけだよ。
デス:でも、ジョンの歌っている内容にしても、さっき話したテレビのインタビューで語っている言葉にしても、感情移入しすぎて悲観的なことを言うわけでも、同じ父親として同業者としてカートを責めるようなことを言うわけでもなく、「確かに音楽業界は色々と特殊だから、精神的に追いつめられることもある」「逆に自分は売れてから調子に乗って痛い目にあって学んだこともある」みたいなことを言ってる。「逃げ場のなさを感じることもあるかもしれないけど、いつでも辞めようと思えば辞められるし、業界を辞めても音楽は続けられるから…」っていうようなね、「逃げ場がないって思い込む必要はない、いつでも逃げていいんだ。音楽業界を辞めてもカートには素晴らしい音楽を作って演奏を続けることもできる」っていうような優しい言葉をかけてるんだよね。それは、今後カートのような心境に陥るかもしれない人たちへの心遣いでもある。そういう弱者に対する思いやりにも、単なるロックスターというだけではないカリスマ性というか、類い稀なものがあるなぁって思う。
デス:ちなみにね、モトリー・クルーを嫌ってたカートのことだから、Bon Joviも嫌いだったんじゃないかって話をさっきしたけど、コートニー・ラヴはジョンのちょっとしたファンだったんだよ。彼女はHoleのフロントウーマンで、パンク上がりの人ってイメージもあるけど、もともとは女優志望で、Holeでのブレイクの後も前も映画とかに出てるんだよね。
で、Holeで成功する前に雑誌の取材班がとある映画の撮影現場に行ったら、まだ有名になる前のコートニーが滞在先の部屋にジョンのポスターを貼ってて、「彼はゴッド!!」って言ったという逸話もある。87年とかの話だったと思うけど。Holeは3rdアルバムの『Celebrity Skin』ではパンクやグランジというより、ゴージャスなビッグ・サウンド系のHRっぽさを打ち出してるから、彼女の経歴や音楽性を考えるとそんなに違和感はない逸話なんだけどね。ちなみに『Clebrity Skin』にもカートについて歌ったとされる曲があったりする。
デス:そうそう。しかし映画館であの曲が流れたときは痺れすぎてヤバかったなぁ…。
デス:でさ、かつてコートニーが「ゴッド」と呼んでいたジョンが、そのコートニーの亡くなった夫であるカートや残された自分たち家族のことを思って、曲を書いたりしてるって、ちょっと運命的なものがあるよね。
デス:そうそうそう。
デス:そうなんだよね。カートって、いい意味で純情なんだと思うんだよね。NIRVANAの曲も、実はラブソングが結構多いんだよね。カートは、コートニーの前にBikini Kill(ビキニ・キル)っていうライオット・ガール系のバンドのドラマーのトビ・ヴェイルと付き合ってたんだけど、当時の2人の写真とか見ると、どちらかというとカートの方がめちゃくちゃデレデレしてるように見えてさ。だから、トビと別れた後の『Nevermind』に入ってる曲には「彼女と恋人じゃなくなってツラい」みたいな歌詞もあるんだよ。
デス:まぁ、そこはカートだし、ベタな失恋ソングではなくて、NIRVANAの曲調にマッチした絶妙な言葉遣いの歌詞になってはいるんだけど。でも、意味的には「やっぱり君が忘れられない」みたいなことを歌ってんだよ。そういう人だよ、カート・コバーンは。もちろん悪い意味ではなくて。
デス:そうなんだよ!「フェミニズムという思想は支持してるけど、日本のSNSのフェミニストには共感できないんだよな~」「マドンナとツイフェミは違うと思うんだよね」じゃねえんだよ。
デス:なんなら、カートはフェミっぽいところもあってすごいんだってところまでは理解してるかもしれないけど、じゃあ、自分がフェミニストになろうとするかっていうとしない。
デス:そのパターンと、あとカートのことはフェミであること以上に「弱者男性代表」みたいに勝手に思ってるパターンもあるかも。カートがお前らみたいなインセルっぽい奴らと同類なわけねーだろ!って話なのに。
デス:ちなみにパール・ジャムのエディ・ヴェダーも昔からフェミニストなんだよ。エディもジョン並みにヒーローっぽいエピソードが多い人なんだよね。
結論:みんな、もっとBon Joviを聴こう!
デス:ああ、そう言ってたよね。
デス:Livin’ on a Prayerは、すごいヒットしたし、日本のCMでも使われていたんだよね。あの、カセットテープのAXIAのCMで、Bon Jovi本人達が出てる。
デス:まぁね。オレ自身は、Bon Joviの曲は、『Cross Road』を買うちょっと前くらいまで知らなくて…。でも、『Cross Road』を家でかけたら、親が知ってるんだよね。「あー、これ、すごいヒットしたよね」とか言ってさ。
さすがに、洋楽でもマイケル・ジャクソンとかMadonna(マドンナ)みたいなポップスの曲は知ってたし、Wham!(ワム!)とかCulture Club(カルチャー・クラブ)辺りも知ってたんだけど、オレはBon Joviは知らなかったんだよね。だから、親の反応とかを見て、そんなに有名だったんだ、って思った。
デス:オレは中学生になってThe Beatles(ビートルズ)やBon Joviを聴くまでは、洋楽は全く聴いてなかったんだよ。それまではB’zやX JAPANが好きだった(笑)。でも、れっどさんは、子どもの頃からThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)とか洋楽聴いてたひとだからね。オレよりも聴く機会とか、聴いてアンテナに引っ掛かりやすい環境にあったんじゃないかな。オレは、たぶん、小学生の頃に聴いてもピンと来なかったんじゃないかな。
デス:でさ、それ、洋楽に慣れてたとはいえ、子どもだったれっどさんが聴いて覚えられるような印象的な曲だってことだよね。そういう曲だからこそ、言語や文化の壁をこえてモスクワの若者たちも大合唱できたわけだよね。もちろん、日本でもライブでは大合唱だし。今でも、みんなが知ってる曲だしね。
デス:ロックバンドで、みんなが知ってるようなシンガロング系っていうと、KISSのRock and Roll All Niteとかは、一度聴けばそれなりに覚えられるけど、Livin’ on a Prayerとはちょっとタイプが違うよね。どっちが優れているとかではなくてさ。
デス:他にもみんなで歌えそうな曲っていうと…ああ、Livin’ on a Prayerと割とテイストが近いのは、Queen(クイーン)のWe are the Championかもしれないね。
デス:みんなで一緒に歌えて、その上でドラマチックな曲だよね。ドラマチックではあるけれども、あまりにも大仰すぎないというか。
デス:あれを大人数でパート分けして歌うのも楽しそうだけど、練習が必要だから、その場のノリで何となくは歌えないよね(笑)。
えーっと、まだ話そうと思えば話せるけど、このくらいにしておこうか。
デス:じゃあ、みんな、もっとBon Joviを聴きましょう!ってことで!
=第8弾 完結=
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