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中原中也の埋もれた名作詩を読み直す。その14/秋の日曜
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中也の住まいと言われている家が右手に見える。
「早大ノート」(1930~1937)の
終わりの方のページにある
「秋の日曜」。
詩人は、
渋谷区山谷、というのは、
小田急線南新宿駅近くの
小田急電鉄本社の隣りあたりに
住んでいたことがあり、
この家の部屋から
三越か伊勢丹か
新宿の百貨店の屋上に揺れる
アドバルーンを
目にすることがありました。
千駄ヶ谷も渋谷区ですが
ここにも住んでいたことがあり、
ここからも
新宿のアドバルーンは見えたはずです。
あるいは、
渋谷区神山に住んでいたこともあり、
ここからも、
渋谷東横デパート屋上のアドバルーンは
見えたかも知れません。
■
秋の日曜
私の部屋の、窓越しに
みえるのは、エヤ・サイン
軽くあがった 二つの気球
青い空は金色に澄み、
そこから茸の薫りは生れ、
娘は生れ夢も生れる。
でも、風は冷え、
街はいったいに雨の翌日のようで
はじめて紹介される人同志はなじまない。
誰もかも再会に懐しむ、
あの貞順な奥さんも
昔の喜びに笑いいでる。
■
第2連
青い空は金色に澄み、
そこから茸の薫りは生れ、
娘は生れ夢も生れる。
これは、
秋の景色でありましょう。
一点の翳(かげ)りもない
秋の、ある日曜日の空に
二つのアドバルーンが
ゆらりゆらり……。
その冴え渡った日の
風は冷たく、
雨上がりの日のようで
どうも
初対面の人同士
簡単に気安く馴染めるものではないなあ、と
デリケートな心持ちを
歌っています。
冴え冴えとした秋晴れであるがゆえに、
見知らぬものと
容易にはうち解けられない……。
すでに見知ったものとの再会なら
容易なのですが
あの貞淑そうな奥さまでさえ
少し昔のことを思い出しては
笑っている、
そのような秋の日です。