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【エイトリ】表現者を支える美しい"アバラ"-『極彩色イマジネヰション』感想【18TRIP】

※ゲーム内スクリーンショット画像に、一部トリミング処理加工をしています。
※『極彩色イマジネヰション』のネタバレを含みます。

画像出典:18TRIP(エイティーントリップ) 公式X

衣川季肋きぬがわ きろく)は、表現者である。
斜木七基ななめぎ ななき)も、同じく表現者だ。

しかし、創作をする者としての二人はそれぞれ違った種類の悩みを抱えていて……。
というのが、今回のイベスト・『極彩色イマジネヰション』をざっくり乱暴に簡略した内容だ。

『極彩色イマジネヰション』は衣川季肋と斜木七基、二人の区長にスポットを当てたストーリー。
彼らは区長ユニット・昼班「Day2(デイズ)」のメンバーであり、現役高校生観光区長として旅行会社・HAMAツアーズに在籍している。

事の始まりは、金沢のアーティストから直接オファーを受けたことで、絵を描くことに長けている季肋がフィーチャーツアーのメインホストに任命され、七基はサブホストの役割に決定したこと。

研修旅行として、クライアントの居る金沢へ赴く主任(プレイヤー)と昼班の高校生たち。
事前に身内と行った練習の成果もあり、季肋は仕事相手との初めての名刺交換をなんとか済ませるのだが……。

緊張から自身の考えを上手く言語化できず、持参したラフ画をスムーズに出せずに、対面した大人たちの前で言葉に詰まってしまう季肋。
そこでサブホスト・七基が自作デモ音源をプロデューサーたちにサプライズで披露することで場を繋ぐことができた。

過去の辛い体験から、自分の作品を人前で発表することに抵抗があり、コミュニケーションが特に苦手な季肋。
音楽一家で育ち、ネット上ではオリジナル楽曲を既に評価されていて、大人とも渡り合える社交性がある七基。

クライアントへのプレゼンが苦手な季肋、プレゼンに自信満々な七基。

堂々とした態度の七基を目にした季肋は、他人とのコミュニケーションに対して壁があるせいで「大人たちにも臆せず作品を披露できる七基は、凄いなあ」と自身と比べてしまい、落ち込む。

リラックスして他人と会話することに苦手意識がある人間は、流暢にコミュニケーションが取れる人間のことを異常に「凄いなあ」と滅茶苦茶尊敬してしまう描写は、妙にリアルで読んでて心が痛くなる。

七基や主任らのサポートもあって、仕事相手との顔合わせをなんとか終わらせた季肋。
気落ちしてしまった季肋に、七基は「ツアーのライブで歌う楽曲は、季肋をイメージして作曲した」──つまり『アテ書き』で作曲したよ!と言って、新曲を聞かせて元気づけようとする。
自身をイメージし作曲してくれたその新曲に、季肋は心から喜ぶ。

一緒に新曲を聴いたあく太から「これってまだ作り途中なんだよな?」と指摘されたように、まだまだ未完成とも言える楽曲だったが、七基が自分のことをイメージし作り上げてくれた"季肋の世界"の音に勇気づけられ、季肋は元気を取り戻す。

クリエイター同士励まし合える、とても良い関係性だ。

しかし、金沢の研修旅行中に七基は自身の新曲──つまり"季肋をイメージした楽曲"に「足りないもの」を見つけてしまう。

キッカケは、昼班の皆で金沢の伝統工芸品・「起上り人形」の絵付け体験に参加した時のこと。
七基に影響されたあく太が起上り人形でメンバーのことを『アテ書き』してみよう!と提案したのだ。七基は季肋を、そして季肋は七基をイメージした起上り人形の絵付けをすることに。

…季肋が作った、自身をイメージした起上り人形を見た七基は、衝撃を受ける。
その起上り人形の造形はあまりにも完成度が高く、あまりにも"七基そのもの"だった。
季肋は七基という人物の内面を深く観察・咀嚼・再構築をした上で、素晴らしい『アテ書き』をやっていたのだ。

沢山のオリジナル楽曲を既にネット上で公開している七基にとって、楽曲制作は手癖で表面をなぞるだけのようなやり方でも出来てしまうが、その起上り人形の完成度から「他人を深く観察・咀嚼・再構築」できる季肋の才能を喰らわされてしまう。
七基が季肋の『アテ書き』のつもりで制作したあの新曲には、季肋が起上り人形に込めたような"こだわり"が、無かった。
季肋が自身のコミュニケーション力を七基と比べて落ち込んでしまったように、七基も季肋の描く"こだわり"と自身の解釈の浅さと比べて、焦りを覚える。

自信満々に聞かせた楽曲が、恥ずかしくなった」と感じたのは、季肋の内面を理解していたつもりで実は表面しか汲み取っていないということに気づいたから。
メインストーリーを読むと分かることだが、季肋の目には「社交性があって、凄いアーティスト」として写っていた七基自身も、とある出来事がきっかけで「他人と深く繋がり、本音で交流する」ことを怖がるようになっていた。

実は「他者を理解しようとするコミュニケーション」にトラウマがあるという共通点がある二人。
そして、「季肋の世界を楽曲で表現する為には、季肋のことをちゃんと深く知るべきだ」と考えた七基は彼との会話を通じて、ある「秘密」に触れていく……。

季肋にとってコミュニケーションが必要不可欠な現実世界はとにかく息苦しいものだ。
そんな彼の頭の中に住む「秘密」は、上手く呼吸ができない彼を支える、「(アバラ)」になってくれていた。
少し特殊な秘密を抱える季肋はそれを他人から気持ち悪いと拒絶されるかもしれないと恐れていたが、彼の内面を深く知りたいと言う七基から尊重され、すんなりと受け入れられる。

また七基と同じような創作者でもある、映画監督志望のあく太も「そうなんだ!」と季肋の秘密を変な探りも入れず受け入れている。そこが妙に印象的で面白く感じた。
創作者の悩みは創作者同士で、やはりリスペクトを持って分かち合うべきものなのかもしれない。

今まで他人に秘密にしていたその「秘密」を、信頼できる仲間に共有できるようにまでなった季肋の表情はとても晴れやかなものになっていた……。

皆との研修旅行を終えた季肋。以前はプロデューサーに披露するのも躊躇っていたラフ画を、スムーズに見せれるようになっていた。

だが、せっかくの作品もあえなくリテイクを食らってしまう。

プロデューサーの口から出た「自分はこの作品好きだけど……」「作者だけが楽しんで描いてしまっている」「もっと万人受けにできませんか?」といった意見に、季肋は打ちのめされる。

幼い頃、周囲から散々「気持ち悪い絵」と評されてきた自分の絵。
でも自分と同じようにアーティストでもある仕事相手にならきっと受け入れてもらえる……と無意識に思っていたからか、季肋は初めて食らった「リテイク」によって、脳内がネガティブな感情でいっぱいになってしまう。

例え、自分の作品を良いと言ってくれる999人がいたとしても、たった1人に拒否されるだけですごく辛い
自分の作品を見せることが、怖い

このへんのテキストで、うわ分かるなあ……と唸りながら読んでしまった。

季肋は何故、作品を他人に見せたがらないのか。何故、プロデューサーからのリテイクで頭が真っ白になってしまったのか。
幼い頃に「気持ち悪い絵」と言われた経験が、季肋をずっと脅かす暗い影として存在しているから。
とても辛い話だ。よりにもよって、友人だった相手から言われたのなら尚更。

今貰っているたくさんの称賛よりも過去に一度だけ投げつけられた罵声の方が記憶に残ってしまうし、辛い記憶が未だに脳内にこびりついているせいで、次の行動へ移す為の切り替えも難しくなる経験があるプレイヤーにとってはかなり刺さってしまうシナリオかもしれない。

遂に季肋の世界をイメージした新曲を完成させた七基。
金沢で交流を深めたことで彼への解釈を再構築できた七基は、完成した曲を真っ先に季肋に聴かせようとする。

プロデューサーの「作者だけが楽しんで描いてしまっている」という指摘に対して悩む季肋に、七基は「自分が作品を発表できているのは、楽しんで作っているからだよ」とアドバイスをする。
ネット上でたくさんの楽曲を既に公開している七基だからこそ、彼に掛けられる言葉だ。

気負うものがまるで無く、とても軽やかな会話として描かれるこのシーンが個人的にとても好きだ。

季肋の作った七基をイメージした起上り人形には季肋の情念が、こだわりが、心が、解釈がこもっていた。
だから七基は、その起上り人形のことが心から好きになった。
季肋が楽しみながら作った作品が、七基の創作をより良い物へと高めてくれたのだ。
季肋と七基、二人の表現者が互いに影響し合って、それぞれの創作の完成度を研ぎ澄ませていく。

七基が聴かせてくれた"季肋の世界"。
"季肋の世界"──七基の作った曲が、立ち止まってしまいそうになった季肋の創作意欲を動かしていく。
リテイクを食らってしまったとしても、七基の曲が新たな季肋の「」になって支えてくれる。

人前で自分自身の世界を見せたがらなかった季肋が、七基を始めとする「Day2」の皆と一緒に作り上げたパフォーマンスは、正に七基がアドバイスしたように心から楽しんだものだった。
頭の中に住まわせていた「秘密」だけじゃなく、信頼できる仲間たちも彼の新たな「」とすることで、季肋は一回りも二回りも成長したのだ。

季肋にとっては自身の恐怖の対象であったはずの"他者とのコミュニケーション"をきっかけに、昼班のメンバーに「秘密」を受け入れられ、彼らとの友情が生まれ、新たな「」になっていた。

表現者の悩みと創作者の救い。
「隣の芝は青く見える」とは言うけれど、お互い青く見えている隣同士でも良い影響を与え合い、創作者が支え合うことで共に救われる。

それはまるで、肺を支え合い健康な呼吸を促す、美しい肋骨のように。

『極彩色イマジネヰション』、とても心に響くシナリオでした。
私も、自分を支える肋骨を見つけてみたい。


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